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「再エネ普及のために企業は何ができるのか?」の答えも 「コスト負担です」という話

前回、「再エネを増やすために消費者ができることは何か」という問いに対しての答えは「コスト負担です」という話をしました。電気代と一緒に再エネ発電賦課金を負担することで十分再エネを応援しているわけですが、さらにという場合には、既に生み出された環境価値を取引で買ってきただけのメニューではなく、実際に再生可能エネルギーを増やす取り組み・メニューを応援してくださいと書きました。

さて、企業の中でも、再エネの電気を求める声が高まっています。AppleやMicrosoftなどが、取引先にも再エネの電気で製造するよう求める動きが強まっており、これは日本の産業の競争力や取引算入の前提条件になっているとのして、政府も検討に乗り出しています。

下記の記事にある梶山大臣の「どこの再エネ発電所でつくった電力なのかを追跡できる証書について、現在の90倍の量を投入する」というのは、どうやってひねり出そうとしているのでしょうか。


「環境価値」とは何か?

それは、FIT制度の下で建てられた再エネが発電する電気の「環境価値(=賦課金の負担者である国民が取得)」を証書化して売ることで、環境価値を求める企業のニーズに応えつつ、国民が負担する賦課金負担を抑制することに使いましょうというものです。確かに私たち国民が環境価値を持っていても、特に使うあてもないので、その価値を顕在化させてわが国の企業に活用してもらった方が日本のためです。

日本企業の国際競争力を考えると、より安いコストで再エネへのアクセスを容易にする仕組みは必要です。ただ、再エネを利用することを自社のブランディングや競争力につなげるのであれば、やはりそのコストはきちんと負担すべきでしょう。

この「FIT証書」のお値段は今まで、1.3円下限と定められていましたが、企業側の「それでも高い」という声に応えて引き下げようということです。

とはいえ、1.3円で買ってもらうのでは、賦課金負担の抑制にはほとんど意味がありませんでした。私たち電力消費者が持つ環境価値を企業に売るのであれば、いくらにするのが適正なのでしょう?
国際競争のある企業を国民が支援するという観点から考えれば、できるだけ安い方が良いということになるでしょうが、あまりに安く環境価値が調達できるようにしてしまうと、実は、誰も苦労して再エネを開発しようという気にはならないという問題が出てきます

試算してみましょう。いま1.3円/kWhを下限としている価格を、0.1円/kWhに引き下げたとします。日本で電気を1kWh作るのに、平均でCO2を0.444㎏排出します(2019年実績)ので、この電気を使ったことで発生させたCO2をオフセットするのに、0.1円/kWhの証書で済むなら、CO2価格は225円/tになります。( 0.444kg/kWh が0.1円/kWh ですから、1トン(1000kg)だと225.225円)
こんなに安くオフセットできるのであれば、再エネを苦労して開発して環境価値を生み出そうとするインセンティブはなくなります。これは政府審議会の委員なども多数務めていらっしゃる東京大学岩船由美子先生も、Twitterで問題提起しておられる通りです。

本当の再エネ推進を

先ほども書いた通り、日本企業が、国際的なサプライチェーンから外されないように国民負担で支援していると思えば良いとは思いますが、それであれば、国際競争にさらされている産業に限るなど何らかの制約を設けるといった工夫も必要でしょう。ただ、追加性のない証書の活用が今後もずっと国際的に認められるかという点については私は疑問を持っており、こうした制度を整えて日本企業が競争力をつけるとなると、欧州などからこれを否定するルール設計が持ち出されるだろうと予想します(あくまでも私の肌感覚)。

いずれにしても、日本で安価な再エネが拡大するよう徹底的な努力が必要です。但し、当面はコストがかかります。再エネの活用を謳う企業の方たちにはコスト負担することで、その推進力となっていただくことを期待します。

先日の政府の委員会(「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー/新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入次世代電力ネットワーク小委員会(第29回)」)においては、そうした企業の方たちの主張が多くの批判にさらされました。

例えば日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の方からは、再エネ電気を直接調達可能とするよう求める主張があり、委員の方たちから「単なる賦課金逃れで非常に失望した」とか「負担を他の人に押し付けるもの」という厳しい指摘が相次ぎました。また、経済同友会の方からは、再エネ導入量を40%という積極的な提言がなされたのですが、委員とのQ&Aの中で、実はそのコスト負担については内部でも議論されていないとのコメントがありました。
(下記動画で、66:20松村委員、74:40〜:秋元委員、77:50〜:岩船委員、84:40~JCLP、94:10小野委員、101:00~JCLPなど)
https://comm.stage.ac/metilive2020/20210316C.html

うん・・。私も正直言うとちょっと残念。かなり残念です。気持ちは買いますが、気持ちやムードで誤魔化してはいけないと思うのです。

これだけ政府委員会でも批判的な意見が多かったわけですが、下記の記事では検討を進めるとのこと。記事にある通り、「直接調達は料金の徴収役の小売事業者を介さないためコスト減になる(補記:FIT賦課金は小売事業者が徴収するので、直接買付すればそれを支払わずに済む)が、ほかの企業や消費者の負担が重くなる面もある。」ですので、制度設計の議論をしっかりやってほしいと思います。再エネの価格低下のスピードと、再エネを求める動きのスピードが違うので、その制約の中で制度設計するのは本当に大変だと思いますが。


キレイごとではない「総力戦」

エネルギー変革は、産業革命以上の大変革であり、まさに総力戦です。
日本企業の産業競争力確保に向けて戦略的な制度設計をする必要がありますが、コスト負担を一部の方が回避できるような仕組みを作るれば、他の方にしわ寄せがいきます。コスト負担議論を十分せずに掛け声で目標を決めれば政策そのものが持続可能になりません。
そして再エネの価値を、過度に安価に調達できるようにすれば、新規開発のモチベーションをなくしてしまうことになります。それは再エネ拡大を謳う企業がやってよいことではないでしょう。

自家消費や自己託送に対する考え方、再エネ賦課金減免措置の考え方、系統の増強・調整力のコストを誰が負担するのか、といった幅広いエリアにつき十分な議論が必要ですし、自ら地道に再エネ開発してその電気を売ろうとしていた小売事業者さんなどにも納得感ある制度設計にしてほしいと思います。

再生可能エネルギーを応援する、というのはきれいごとではありません。
「お金の話だけか」と思われた方もいるかもしれませんが、エネルギーシステムの転換に必要なコストを負担するというのが本当の再エネ普及への応援なのです。
すべきコスト負担をちゃんとするという「ホンモノ」の応援をお願いしたいと思います。

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