過去の英米とは異なる日本のスタグフレーション

新型コロナ: 紙・セメント、難路の値上げ 資材価格1~3月動向 : 日本経済新聞 (nikkei.com)

そもそもスタグフレーションとは、景気の悪化にもかかわらずインフレ率の上昇により経済が停滞することを意味します。雇用・所得環境が悪化する中でもインフレ率が上昇すれば、実質的な購買力が減ることに加えて預貯金の実質的な価値も下がるため、国民生活の困窮が生じます。

こうしたスタグフレーションの条件としては、原材料価格の急上昇等の何らかの外的ショックによって生産コストが上昇し、それが販売価格に転嫁される、いわゆるコストプッシュインフレの場合に起こりえます。需要の増加以上に価格が上昇するため取引量が減少し、インフレと経済の停滞が共存するためです。

スタグフレーションの時に、国民生活にはどのような影響があったのかを1960年代末から70年代のイギリスの事例を振り返れば、インフレと失業が同時に深刻になり経済が停滞しました。このため、79年に就任したサッチャー首相はサッチャリズムといわれる改革により規制緩和や民営化、競争促進や福祉削減を実行し、イギリス経済を立て直しました。

その後米国でも79年の第2次オイルショックを契機に、スタグフレーションが深刻化しました。これに対して当時のレーガン大統領が、減税や規制緩和を柱とした「レーガノミクス」を断行し、金融政策面では当時のボルカーFRB議長による強力な金融引き締め策によってインフレを終息させました。

このように供給面に問題があった過去の英米では、規制緩和などの構造改革で克服しました。

しかし、現状の日本は、供給に対して需要が追い付かずGDPギャップがマイナスとなっています。消費増税前の2019年7-9月期に一時的にGDPギャップはほぼ解消されましたが、消費増税後の同10―12月期には再びマイナスに転じ、直近では▲27兆円程度の需要不足となっています。コロナショック以降の個人消費の低調さを踏まえれば、インフレと不況が同時に進むスタグフレーションが現在の日本には当てはまるとする向きもあるでしょう。

しかし、むしろ需要不足の状態にある現在の日本では、過去の英米のような供給面に問題のあるスタグフレーションというよりも、2000年代後半の日本に生じたように原油高に伴うコストプッシュの中で、所得の海外流出による実質購買力低下からデフレに陥るリスクのほうが高いでしょう。このため、政府が取り組むべきは、原油価格上昇に伴うエネルギー価格の負担をいかに抑えるかでしょう。

実は、それには妙案があります。民主党政権時代にできた揮発油税の「トリガー条項」の発動です。トリガー条項とは、国民生活に大きくかかわるガソリンの平均価格が3カ月連続で1リットル当たり160円を超えた場合、ガソリンの揮発油税上乗せ税率分である1リットル=25.1円、軽油で同17.1円の課税を停止し、課税停止後に3カ月連続でガソリンの平均価格が130円を下回った場合は、課税停止が解除されるというものです。

トリガー条項の発動に伴い、月額1200億円程度の財源が必要ですが、それはすでに来年度予算に組み込まれている予備費から回すことが可能でしょう。

幅広く国民生活に影響する原油価格の高止まりの早期解消は、望みにくい状況にあります。原油高や円安による輸入インフレが家計の懐を蝕む今、原油高のショックをやわらげるべきでしょう。そうしなければ、再びデフレに戻ってしまいかねないでしょう。


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