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データに強いマーケターになりたい

日経クロストレンドにて「データ分析の誤解」という連載を始めました。編集の方に良いタイトルを付けていただいたおかげで、ありがたいことに多くの反響を頂いています。「データ分析」に興味を持っているマーケターは多いのだ、と改めて実感しています。

その理由として、筆者は2つの背景があると考えます。

1つ目は、オンラインもオフラインも計測できるデジタルな時代のマーケティングにおいて、「データ」への理解が必要不可欠だから。

2つ目は、なるべくリアルタイムにデータを分析し、仮説を得て、次の施策に活かすアジャイルな活動の重要性が高まっているから。

いずれの背景も、ネットもスマホも浸透しきった令和だからこそ起きた「変化」(transformation)だと筆者は考えています。ネットとリアルが分断されて「オフ会」とか言ってた時代が懐かしい。

変化に対応するには、データに強くなければならぬ。データ分析ができなければならぬ。

ということで、今回のnoteでは、筆者なりに「データに強いマーケター」を言語化してみました。


そもそもデータとはなにか?

「データ分析」と聞くと、どのようなイメージを抱くでしょうか。

人間では処理しきれない膨大な量の数字を一瞬で読み解き、複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスを入れ、さまざまな謎や疑問を徹底的に究明する、なんだか凄い機械の姿を思い浮かべません? 知らんけど。

まず、データとは何かについて考えます。工業規格を作成する国際的な非政府組織「国際標準化機構」(通称:ISO)は次のように定義しています。

A reinterpretable representation of information in a formalized manner suitable for communication, interpretation, or processing.
情報の表現であって、伝達、解釈または処理に適するように形式化され、再度情報として解釈できるもの。)

「伝達、解釈、または処理に適する」という定義が重要です。万国共通で、認識の齟齬を起こさず、伝達、解釈、処理に適した表現の1つは「数字」です。その意味ではデータ=数字です。

一方で「言葉」も「マンガ」も「映像」も情報の表現の1つと言えます。数字ほど最適とは言えませんが、伝達、解釈、処理に適しています(だから考察とか生まれるわけで)。つまりデータは「数字が代表的だが、情報を表現できていて解釈できるなら、なんでもOK」なのです。

では、「情報の表現であって、」と言いますが、情報とは何でしょうか。同じく工業規格を作成する「国際標準化機構」が次のように定義しています。

Knowledge concerning objects, such as facts, events, things, processes, or ideas, including concepts, that within a certain context has a particular meaning.
(事実、事象、事物、過程、着想などの対象物に関して知り得たことであって、概念を含み、一定の文脈中で特定の意味をもつもの。)

「18」だけなら単なる数字ですが、「松本健太郎が23年10月末時点で刊行した書籍の数が18」と特定の意味を追加すると情報になります。つまり、特定の意味を持つ対象の表現がデータであり、最も利用されている手段の1つが数字なのです。

どんな情報も、「意味」が無ければ、「データ」では無い。これ、試験に出ます。


データ分析とはなにか?

続いて、データ分析とは何かについて考えます。

分析については「国際標準化機構」で定義していないので、辞書を引くことにします。出版社によって微妙に異なるのですが、要約すると以下2点に収斂されます。

①複雑な事柄を分解して、それらを成立させている成分・要素・側面を明らかにすること。
②複雑な現象・概念を、それを構成している要素に分けて解明すること(⇔総合)。

つまり「分ける」=「調べる」ことこそが分析なのです。

一方で、ビジネスの現場で求めているデータ分析は、単に「調べる」だけでなく、「上司を納得させ、組織を動かす意思決定を下す」ために実施したいのではないか、と筆者は考えています。

物事の大半が「どれが正しいか分からん」と匙を投げるような状況で、それでも選んで、決めて、実行しなければならない。それがビジネスです。勘で決めるよりも、データで決めた方が成功する確率は高い…かもしれない。

すなわち、ビジネスパーソンが求めるデータ分析とは、意思決定に補助線を引くための手段なのです。

したがって、アカデミアな世界が教えるデータ分析と、ビジネスの世界で求められるデータ分析は大きく違います。アカデミアな世界におけるデータ分析解説本を読んでも、「意思決定を下せる」かどうかは別問題です。

アカデミアとビジネスの違いは、日経クロストレンドでも紹介した「6つのプロセス」で表現できます。こんな感じ。

データ分析6つのプロセス

書店に足を運んで、データ分析の棚に目を向けて下さい。大学の先生だったり、或いはデータサイエンティストだったりが語る書籍の大半は「証明」と「結論」に特化しているはずです。

しかし実際には、問題(problem)は何かを把握することから始めるのがビジネスの現場ではよくあります。教科書のように、問題や仮説も決まっていて、データも出揃っていて、後は統計学的手法を用いて証明するだけ…というのは稀なのです。

しかも、ビジネスの現場で「データを使う」と言っても、必ず数字を使うとは限りません。問題を発見するのは文字(言語)かもしれませんし、映像かもしれません。現物現場主義という言葉がありますが、これは視覚だけでなく、嗅覚・聴覚などを通じて得られたデータの重要性を意味しています。

数字とは限らないデータを用いて、問題を発見し、問いを作成し、仮説を構築する。これも立派な意思決定を下すためのデータ分析です。

すなわち、6つのプロセスと言っても、前半3つと後半3つでは内容が大きく異なります。だから2つのフェーズ(「問題と問いの発見」「問いに対する仮説の検証」)に分けています。

以上を踏まえると、ビジネスの現場における「データに強い」はいくつかの言葉に翻訳し直せます。必ずしも「数字」に強い必要も無く、「分析」「証明」に強い必要も無い。むしろ意思決定に強い必要があり、問題・問い・仮説の構築に強い必要があります。

「データに強い」を翻訳し直す

「データ」と「データ分析」の意味を捉え直せば、真に「データに強いマーケター」とはどのような存在かが浮かび上がりますね。


データと、デジタルな時代のマーケティング

冒頭、「データ分析」に興味を持っているマーケターが多い背景として①オンラインもオフラインも計測できるデジタルな時代だから、②リアルタイムにデータを分析できる環境があるから、と説明しました。

つまり、顧客との接点がデジタル化されたおかげで、今までは計測できなかった事象がデータ化され、蓄積できる基盤も簡単に構築でき、かつクイックに内容を確認できるようになったのです。

言い方を変えれば「データの量だけは膨大に増えている」のです。デジタルな時代のマーケティングは、データに塗れ、データの海に溺れ易い。

それほどデータが多いはずなのに、データ分析がヘタな人は、どこまでいっても「私」に閉じこもっています。円安トレンド、競合の設備投資、自社のオフラインマーケティングの失敗、ブランド力の低下…様々な背景を全て無視して「上手くいかない理由はメルマガのタイトルに失敗して開封率が下がっているからです」と答えてしまう。「そこ!?」ってなる。視野が狭いんです。課長視野狭窄。

視野を広げる

問題(Problem)を発見するには、自分の知っている範囲だけでデータを探してもダメなんです。自部署、他部署、他社/競合、業界、世の中のトレンド…と視野を広げないといけません。解決したい問題が、自分の知っているデータで完結することは稀です。

もっとも、「私」に閉じこもって考える理由も分かります。デジタルの力を使うマーケティングは専門性が高いのです。例えばMeta広告やGoogle広告の運用をやれと言われても、筆者の場合は何となく雰囲気は掴めていますが実際には難しい。

つまり多能工のようにあれもこれもできれば良いのですが、実際にはJOBに対して部署が作られ、良く言えば専門的に、悪く言えばサイロ化する状態が生まれてしまいやすい。その結果、私、自部署、自社にそれぞれ大きな壁ができてしまうのです。

もっと言えば、横の部署のデータの意味が分からない。カゴ落ち率? F2転換率? UGCネガポジ比率? それがどういう意味を持っているのか分からないし、仮に「F2転換率は60%」だと分かっても、それが高いのか低いのか分からない。数字は読めても、意味は読めないので、データとして扱えないのです。

データに強いマーケターとは、意味に強いマーケターでもあります。意味に強いとは、指標の意味、施策の意味を理解し、情報と結び付け、データとして解釈できる能力を持つことを指しています。

例えば、ランディングページのCVRが0.56%だったとして、相場的には低いのですが、誰向けなのか、商材としてWEBで購入してくれるのか、期間はどれくらいか、何人が訪れてくれたのか…数字の意味を読み取らないと、良いとも悪いとも判断できません。

マーケティング界隈の大御所たちが「顧客(WHO)と価値(WHAT)が大事」と教えてくれるのは、施策(HOW)の意味を決めるのがこの2つだからです。

ランディングページの例で言えば、東京から車で5時間かかる風光明媚なゴルフ場会員権(一口333万)の資料請求が目的だったとしたら「相場で言う2%は無理かもしれない」と思うし、広告で集客する際にゴルフ場のベネフィットを伝えていないと分かれば「集客数は減るだろうけど、もう少しCVRは高まるかもしれない」と思うでしょう。

施策(WHO)意味を決めるのは、顧客(WHO)と価値(WHAT)。大事なことなので二度いいましたよ。


データに強いマーケターになるには

データに強いマーケターとは、SQLが書けるとか、AWSに強いとか、もちろんそういった要素も大事なんですが、それよりも意思決定に強く、問題・問い・仮説の構築に強い必要があります。

そして、何よりデータの意味に強いこと。マーケティングの領域で言えば、「私」のやっている範囲を超えて、デジタル化された顧客との接点全ての意味を理解できること。意味が分かるから、情報がデータになるのです。

筆者はいま、マーケティング人材育成サービスのグロースXで、eラーニング用コンテンツ製作の執行役員を務めています。「意味が分かるレベル」にまで解像度を高める重要性を痛感し、読み手がEC運営者だろうと、ツールベンダーの営業だろうと、製造業の商品企画だろうと「はいはいはい、そういうことね」と意味が分かる情報作りを目指しています。

改めて、自分自身を、そして自部署を振り返ってみてください。データに弱い理由、データ分析が苦手な理由は「意味が分からない」「問題が定義できていない」ことにあるのではないでしょうか。

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