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食品関連スタートアップは市場の空白を埋められるか

このところ報道されている、いくつかの食品関連のスタートアップの動きについて、非常に興味深く思っている。

ひとつはケーキ通販の会社が、このコロナ禍の中でも新規の資金調達を果たしたという記事。

もうひとつは、資金調達は昨年であるが、コーヒーのスタートアップが在宅勤務者向けのサービスを開始した、という記事である。

スタートアップへの出資と言うと、かつては、基本的にはデジタルオンリーで完結するビジネスで、いわゆる「スケールする」もの、つまりは急激な成長が見込めるものが投資家に好まれ、アナログでオフラインな要素が入るものはスケールしにくいとして敬遠されがちだった、と言っていいかもしれない。

そうした急成長が見込める、デジタルオンリー・オンラインオンリーのスタートアップのビジネスに限りがあるということもあるのだろうが、食品という、オフラインの部分をなくすことが出来ないうえに、安全を確保するため各種規制等にも従わなければならず、最も手間がかかるビジネスのひとつに対して、スタートアップ向けの投資資金が日本においても流れていることを改めて興味深く思っている。

そして、これらの動きは、コロナ前から盛り上がりつつあった、下記の記事にあるような、いわゆるフードテックとは微妙に異なるものであるように思う。テクノロジーを持ち込んでフードの業界を変革しよう、というほど「テック」に寄ったものとは感じないのだ。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、食に関するビジネスの流れが大きく変わりつつある。人々は感染を恐れ、また感染を防ぐために、外食から自宅での飲食に大きく切り替えるという動きが出ている。特に、日本では緊急事態宣言、海外ではロックダウンの間に、「外食」が出来なくなって、その空白を自宅でのいわゆる「内食」が埋めるようになった。このために、例えばウーバーイーツのような食品・食事の宅配サービスの利用が大きく伸びたことは、ウーバーイーツのバッグを背負って街を走る人たちの数が増えたことでも実感するし、そのころには、多くの飲食店が、それまで提供していなかった店もテイクアウトに取り組んだ。

また、これまで飲食店などの業務用に流通していた食品がだぶついてしまい、一方で家庭用の食品がスーパーで品薄になるといった、食品の需給のミスマッチ、あるいは流通ルートのミスマッチが顕在化したのも、この新型コロナウイルス(COVID-19)によってもたらされた変化だ。

冒頭の2つの記事に取り上げられているサービスは、ケーキにしてもコーヒーにしても、いずれも自宅でそれを楽しむためのもので、いわば「外食」の味と手軽さを「内食」で実現するもの、と言ってもいいだろう。COVID-19に対するワクチンや治療薬等がいつ普及するかにもよるだろうが、こうした薬の開発と普及が長引くほど、食に関する我々の習慣は大きく変わり、食べに行くことから、買って帰るあるいは配達してもらう方向にシフトするのだろう。

そういう時代にふさわしいサービスを、いち早く手がけているスタートアップに対して投資家が出資したり、あるいはすでに出資を受けたスタートアップが新たなサービスの提供を開始しているということは大変興味深い。

一方で、スタートアップではないが、既存の飲食店が、単純に今までのビジネスのスタイルがうまくいかなくなったので閉店するのではなく、新たな食のサービスの提供をするために積極的な意味合いで閉店し、根本的なビジネスの転換を図る動きがあることも、興味深いものがある。

COVID-19で亡くなる方が出ているとはいえ、日本の総人口に大きな減少が出ているというところまでには、幸いにも至っていない。これが意味することは、日本国内で消費される食料の総量は減らないはずである、ということだ。既存の飲食店業界が非常に難しい状況にあるということは、「外食」産業が占めていた食事に関するマーケットに、大きな空白が生まれているということであり、そこに新しいサービスが生まれてマーケットの空白を埋める動きと考えると、ここにスタートアップの大きなチャンスのひとつがある。数年前の統計で日本の外食産業の市場規模は約25兆円と、マーケットは巨大であり、しかも、食べることは人間の生存条件であるから、流行りすたりで食の市場自体がなくなってしまうことはない。

ただ、フードサービスは、スタートアップが取り組むにはハードルが高いマーケットでもある。食中毒の防止を筆頭に、衛生面や安全性が問われる商品・サービスであり、しかも今はそれに加えてCOVID-19の感染も防がなければならない。一般的な商品であれば、不良品であれば交換したり修理するということで済むものが、食品の場合はそれでは済まないし、場合によっては人命に関わることになる。それだけに、かかるコストや手間も大きい中で、スタートアップに対して出資する投資家が満足する形で成長できるのかどうか、という点についても注目していきたい。

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