テレワーク時代に活きる3つの資質~新入社員から学べるパフォーマンス向上のヒント~
Potage代表 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずです。コミュニティづくりのノウハウを活かし、企業向けの組織開発や人材育成研修のお手伝いもしています。
さて2020年のコロナ禍において、会社員のありようはだいぶ変化しました。特に、2020年度に入社した新入社員の皆様は、多分にその影響を受けることとなりました。私のクライアントの会社でも、集合研修が中止され、配属までは自学自習を余儀なくされ、配属になってもリモートで働いている新入社員さんが多いと聞いています。少なからず困惑している新入社員さんもたくさんいると聞いており、人事部のみなさんも1on1を繰り返すなどして、フォローアップにかなり追われていたようです。
一方で、この状況に適応できている新入社員さんも少なからずいらっしゃると聞きます。私自身も、4月に大手企業のオンライン新入社員研修を請け負ったのですが、担当した140人を超えるみなさんはとてもたくましく、状況の変化に適応していきました。そしてそこには、若いみなさんだからこそ持っている資質が、大きく影響しているように思うのです。今回の記事では、私が研修を通じて感じた、コロナ禍だからこそ生きる、若手ビジネスパーソンのメンタリティについてお話できればと思います。
A社の新入社員研修で見つけたリモート環境への適応能力
私が新入社員研修に講師として関わったA社さんは、140人の新入社員を抱える上場企業(メーカー)です。研究職、開発職、営業職など、外国人も含め広く採用し、男女比は男性がちょっと多いくらい、いわゆる理系採用の割合が比較的多めなのが特徴でした。社会人リーグのチームを抱えている関係で、アスリートの方も複数名いらっしゃり、とても多様な人材を抱える会社さんです。
「VUCA時代に対応できる自律型人材の育成」をテーマに集合研修を予定して年明けから準備していたですが、新型コロナウイルスの流行に伴い、集合研修を断念。4日間の研修予定日の直前に急遽、Zoomを使ったオンライン研修への変更を提案しました。講師チームの4名は2日間でZoom研修のプログラムを完成させ、スケジュール通り4日間のプログラムを完遂しました。中止を余儀なくされる会社さんが少なくない中、人事部の方々の、新入社員さんたちのために研修を実現したいという思いと、実際に夜遅くまでぎりぎりの対応をしながら実現にこぎつけた情熱には、胸をうたれるものもあり、なんとしても成功させようという気持ちで取り組みました
今年度は数多くの研修がオンライン化していますが、まだ事例も少ない4月初旬、非常事態宣言発令直後の出来事です。急遽オンラインに差し替え、初の試みだったことから、研修効果は講師陣にとっても未知数でしたが、研修後のアンケートと人事部のみなさまからのフィードバックは上々でした。プログラムをオンラインの特性にあわせつくりあげ遂行したチームの力も多少はあったでしょうが、いちばん大きかったのは、新入社員のみなさんがモチベーション高く研修に取り組み、4日間のオンライン研修を通じて、自身の不安がかたちづくっていた「殻」を破っていったことだと感じています。
そしてその殻を破るプロセスには、若い方々特有の「リモート環境への適応能力」がかなり寄与していたと4日間の研修を通じて実感しました。
自身の研修を通した私見ですが、新入社員のみなさんの多くが有しているリモート環境への適応能力には3種類があると考えています。順番に説明します。
①オンラインとリアルの境界をつくらないコミュニケーション能力
今の新入社員のみなさまは、物心ついたときからSNSが存在し、スマホなどを通じて友人とのコミュニケーションを積極的にとっていた世代です。大学でゲスト講師として招かれたときに把握した彼ら彼女らの特徴として、「距離感の近い友人と、オンラインで交流する」というものがあります。つまり、リアルにつくった人間関係を深める手段として、SNSなどを活用して頻度多く交流するのに慣れているのです。この「慣れ」は研修を進めるうえで、大きなアドバンテージとなりました。
もちろん、リアルで会ったことがあり、関係性を構築した上でのオンラインコミュニケーションが得意ということなので、ほとんどの新入社員同士が実際に会って話をしたことのない状況はハンデではありました。そのため講師チームが意識したのは「オンラインコミュニケーションの頻度を上げることで、新入社員同士が対面するまでの「種火」をつくること」でした。種火をつくっておけば、実際に会える状況になった際に、熱をもったコミュニケーションができ、お互いの信頼関係がより強固なものになると考えたからです。
実際ワークショップを進めてみると、「初対面」の緊張感と、コミュニケーションのぎくしゃくした部分を取り除くプロセスを順番に進めると、どんどん積極的に自己開示をするようになります。一度、心の壁が取り除かれると、もともとオンラインでのコミュニケーションには慣れているので、チャットや画面を通じて、自分の伝えたいことをどんどん表に出すようになったのです。研修の終わりには「今回の研修で対話をしたみんなと直接会えるのが楽しみです!」という声がたくさん聞こえました。狙い通り、種火づくりに成功したわけです。
30代より上の世代だと、良くも悪くも「大切な話は直接話す」ことを重視してきました。そのため、Zoomなどを介したコミュニケーションで自己開示がなかなか進められず、オンラインツールで会話をつくるのが苦手な方も多いのですが、20代のみなさんは比較的「直接会っていない」状況でも、如才なくコミュニケーションをとることができます。これはテレワークがどんどん加速する世の中で、大きな武器になりうるでしょう。
②相手の感情に入り込む感情移入能力
「距離感の近い友人と、オンラインで交流する」ことに慣れている特性ゆえだと思いますが、研修で実施した「自己開示をし、開示した相手に共感する」コミュニケーション開発のワークショップが、驚くほどスムーズに進みました。自身の主観的な気持ちを押し出し、相手の主観に対して、自分の気持ちと重ねながら解釈することに長けているのです。
30代より上の世代は、オンラインの画面を介したコミュニケーションに対して、客観的な視点を持ちがちです。それが時として、批評的な態度につながったり、ドライな印象を相手に与えることにつながります。
しかし新入社員のみなさんを観察すると(シャイなので徐々に温めないとなかなかそうはならないのですが)いくつかのワークをつうじて徐々に温めていくと、驚くほど積極的に自身の気持ちを相手に開くようになります。そして、相手の表情を的確に読みながら、コミュニケーションを構築していくのです。自分の話ばかりする人もそこまで多くなく、傾聴の態度を上手にとる特徴が見受けられました。あえてラフな表現をすると「相手に優しいふるまい」が得意な方が多いのです。
研修の終わりに、人事部のみなさんの苦労を伝え、感謝の気持ちを伝える大切さを伝えたら、涙目になる新入社員さんが多かったのも印象に残っています。相手を思いやり、敬意を表し、自身の気持ちを表明していく感情力は、「誰と働くか」「どうありたいか」がより重要視されるであろうコロナ禍の社会において、強みとなっていくでしょう。
マネジメントにおいても、感情を取り扱う力の重要性はますます増しています。テレワークでチームメンバーと客観距離をついとってしまうビジネスパーソンのみなさんは、感情重視のコミュニケーションに長けている新入社員から学べるところはとても多いかもしれません。
ちなみに感情を取り扱う力を育てるには、EQについて知り、自身の感情認識を強めることが役立ちます。
③状況に応じて自身の改善を促す行動変容能力
私たちが提供した新入社員研修は、同期とのコミュニケーションを通じて、自身の軸となるビジョンをつくりあげていくプロセスだったのですが、ちょっとしたヒントを与えるだけで、どんどんコミュニケーションの手法を自身のものとして取り込んでいき、みるみる改善させていく行動変容能力には、とても目を見張るものがありました。
最初は「どういうやり方が正解なのでしょうか」という問いかけから入る新入社員さんが多いのですが、「こういう方法もあるし、こういう方法もある。どれかを選んでみてごらん」といったふうに、正解ではなくヒントをワークショップを通じて伝えていくと、自分にあったやり方を見つけ、徐々に自分の型にしていけるのです。
また、例えば受講生にネットワークの不調があった際に、最初は戸惑う受講生ばかりだったのですが、徐々にチャットを通じて同期の不調を代理で人事部に報告してくれる受講生が出てきたり、他の受講生のトラブルシューティングをする受講生も出てきました。また、理系の大学院を出た新入社員の方からは、講師の配信環境に関する改善の提案まで飛び出しました。自分たちの学びの場を、自分たちでつくっていこう、そのために一緒によくしていこうという「行動する気持ち」が、短い期間で芽生えたのです。
加えて、日に日にカメラの角度、背景、光の当たり具合、マイクの音、メイクなどに工夫をこらして、Zoomへの映り方が改善していく方が少なからずいらっしゃいました。女性社員に多い特徴だったのですが、自身がどうみられたいかを表現し、改善を促していく姿勢は、とても興味深いものがありました。見た目の改善だけだと本質的ではないと思ってしまうかもしれませんが、伴ってコミュニケーションへの自信も増していき、ワークショップで得た経験を自分のものにして、行動をアップデートしていたのです。
彼ら彼女らにも「なんで自分たちの代はまともに同期ともあえず、自宅待機なのだろう…正直つらい…ダメかもしれない…」というネガティブな気持ちは、当然あったと思います。しかし、きちんと現実に向き合いながら、前向きに行動を変えていくことで、最後は「こんな時代だからこそ自身はこういうことを実現していきたい!」と堂々と自分自身のビジョンについて語れるようになったのです。リモートワークだとうまくいかない、コロナのせいで…などと不平不満を繰り返すばかりのビジネスパーソンがもし職場にいるならば、真っ先に学ぶべき態度ではないでしょうか。
テレワークだからこそ自身の強みを活かして輝ける社会に
テレワーク環境は、空間の制約を飛び越えられることから、自身の意思をもって、さまざまな人とコミュニケーションをとり、仲間をつくることが可能になります。自身のビジョンを語れるようになった、テレワークへの適応が早い若いビジネスパーソンたちには、コミュニケーション能力、共感力、行動変容力を武器に、どんどん新しい価値をつくりだすことができる素地があります。
企業、そして社会全体において大事なのは、そんな若い彼ら彼女らの個性をつぶさずに、的確なヒントを与えることで伸ばしていくことです。また、しっかりとサポートしている姿勢をみせながら、コミュニケーションの種火を絶やさないことです。そうすればおのずと、若いビジネスパーソンのみなさんの強みはどんどん引き出されていくでしょう。
若いビジネスパーソンのみならず、さまざまな背景をもった多様な人たちと働く機会はどんどん増えていきます。それぞれの強みを認め合い、学びあい、それをテクノロジーや新しいワークスタイルになじませていけば、チームのパフォーマンスはどんどん上がっていくでしょう。
新入社員の世代のみなさんのふるまいには、テレワーク時代を飛躍のチャンスに変えるヒントが眠っています。彼ら彼女らが有している資質から「学ぶ」ことは、飛躍のための第一歩として、とても有効ではないでしょうか。