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短期的に「文化で稼ぐ」だけ?〜100年後に「もっと美しい京都」をつくるために

京都は長年にわたって、文化と経済のトレードオフのバランスをとってきました。その結果、じわじわと文化や街並みを削って、経済を回してきたと言っても間違いはないでしょう。私は、京都で町家保存に取り組む地主の方が「このままだと京都は、ただ世界遺産のある普通の街になるぞ」と怒りながら語っていたのが忘れられません。街並みの保存を個人に任せっきりの行政の政策に対する不満があるからです。一方で、世界的なトレンドとして「持続可能な経済」、つまり環境や文化を守ることが経済によって後押しされる時代がきました。このトレードオンになった千載一遇のチャンスを活かして、私たちは100年後の人たちに、もっと美しい京都をつくって渡すことができるでしょうか。考えてみたいと思います。


「文化で稼ぐ」のもつ意味

次の記事は、『文化庁が京都へ移転してから27日で半年を迎えた。古都の知恵を生かした新機軸の取り組みを進め、来年度予算の概算要求にも歴史的な建造物の観光への活用を盛り込むなど「文化で稼ぐ」姿勢が色濃くにじむ』と報じています。文化庁長官が祇園祭り含め、数々の京都の1000年以上続く文化の力強さを体感し、本気になったもようです。

私も、「今様(いまよう)」という平安貴族の間に流行したと言われている伝統文化の保存会に入っています。この記事の冒頭の写真が、祇園祭の初日の八坂神社の能舞台で今様を演じているところです。私も平安時代からタイムスリップしたような格好をして歌っています。通常のお茶やお能の「お稽古して発表会」という習いごととはちょっと違って、保存会での活動が面白いのは、「入会した途端に即戦力」というところです。発表会ではなく、「ほんとうの文化の担い手」として舞台に上がることが期待されます。

今様は高齢の家元と、若手の次期家元がひっぱり、習いつつ担い手となっている人たちがお稽古しながら、年中行事で演じています。家元は、平安貴族のような着物をたくさんお持ちで、行事のたびにすべて用意され、終わったらすべて引き取って洗ったり整えたりして、状態をキープされています。お稽古や出演時にはお稽古代を払うのですが、行事のあとは食事を振る舞ってくださったりして、どうみても赤字。ほんとうに頭が下がります

今様のメンバーには企業で新規事業を担うような人もいるので、「今様を稼げるようにする」という努力もされていて、観光と掛け算したイベントを企画したり、テクノロジーと掛け算する事業を検討したりもされています。たしかにそうやって各団体が経済価値を高めるために知恵を出し合うことは悪いことではないのですが、こんなに自分たち任せにしておいて、文化は守れるのだろうかと心配にもなります

「経済のための文化」から「文化のための経済」へ

先ほどの記事には、さらに、「日本の文化予算は1000億円強の状態が続く。文化庁と大学・研究機関などの報告書によると、21年度の日本政府の文化支出額は、国民1人当たりで約900円で、フランスや韓国の8分の1程度にとどまる」とも記しています。

つまり、フランスや韓国の8分の1の予算しか拠出せずに、「文化で稼げ」と言っているようにも見えるわけです。これは、地方創生のときの「稼げる地域になれ」という言説と似ているような気がして仕方ありません。

伝統文化を経済の手段にするというアプローチは、観光産業をこれからの成長産業だと言ってしまう考え方と似ています。これは、すでにある文化資産を換金しているようなもので、将来の資産を増やそうとする行為ではないことに気づく必要があります。

「100年先にもっと豊かな文化をつくるために、現代の私たちに何ができるだろうか?」という問いを立てる必要があるのではないでしょうか。

そのためには、次のような戦略を立てる必要があると思います。

  • 文化予算を韓国レベルの8倍に増やす

  • 結果として、30倍くらいの文化資産をつくる構想を描く

  • 30倍の文化資産が生み出される過程で、どんな産業が生まれるかをバックキャストで描き、そこに8倍の予算を投資する(※バックキャストとは、どうしてこういう未来になったのだろうかと、未来から振り返って予測すること)

  • その結果、30倍の文化資産が、30倍以上の経済効果を生み出すことを計画に落とし込む

日本の文化は、とても大きな価値を持っています。だからといって、すぐに換金してしまおうと考えるのではなく、さらに大きな資産に増やしながら、長期的に大きな経済効果を描く視点が必要なのではないでしょうか。

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