効率性・画一性ではない。人の輪が育む街づくり
日頃からアンテナを張っているつもりでいても、なかなか思うように情報を得ることは出来ない。今年3月にCBCフォーラムというオンラインイベントがあったというのだが、CBCという言葉自体も、イベントも全く知らなかった。CBCとは、コミュニティ・ベースド・カンパニーの略で、「地域にある資源や人材を生かして共感を広げながら活動する企業や団体」のことを言うらしい。常日頃から、個々人の得意技を活かしつつ、それらの組み合わせで事業を生み出したいと考えていたので、CBCには一瞬で引き込まれていった。
驚いたことに、CBCは京都で生まれた概念だという。昨年の夏に京都にきて、京都の地で起業したにも関わらず、まったく知らなかった。イベントを主催した京都市ソーシャルイノベーション研究所には、自分のできることを携えて、近々、訪ねて行かなければならない。京都市が2年前に制定した「中小企業などを地域企業と位置づける全国初の条例」も非常に興味深い。「企業は規模が基準ではなく、自然、文化など地域に根ざして共に発展していく時代」と基本理念や地域企業が持続的に発展するための市の責務を掲げているという。
オンラインイベントでは、起業希望者と空き物件をつなぎレストランなどを開業させたり、空き物件の買取・改装まで行ってテナントを誘致したり、毎日通園で人通りを生む保育園を起点とした街づくりを行ったり、様々な取り組みが共有されたらしい。一つ一つは小さな取り組みだが、それらが起点に色々な化学反応が起きているようだ。最初に、小さな賑わいが生まれ、その賑わいを目指して小さな事業が始まる。周りに仲間がいるから、勇気を持って事業が始められ、壁にぶつかっても一緒に解決する。次第にスパイラルアップする。話を聞いていないがそんな姿が目に浮かんでくる。
明らかに、大企業の成功モデルとは異なる。この数十年、大企業は、顧客第一主義を掲げて、日々自らの商品・サービスの改善を続けてきた。世の中に同じようなものが溢れている中、差別化の努力も勿論してはいるものの、どうしても効率化をベースにした低価格化に頼った戦略が多くなっていた。消費者という立場だけを切り取れば、「良いものを安く」だから、嬉しいのは間違いない。でも、CBCに取り組んでいる人たちには別の感覚があるのだと思う。おそらく、効率性を突き詰めた画一的なものが、街の活力や多様性の妨げになっている。そんな感じではないだろうか。
勿論、効率化、日々の改善自体が悪なのではない。悩ましいのは、効率化によって生み出された大企業の商品・サービスが強すぎることだ。特に価格面では勝負が難しくなっている。街にある類似の商品やサービスは厳しい状況に追い込まれる。一昔前は、街のお店も固定費の低さと商品やサービスの多様性で勝負ができていた。最近では、効率化の積み重ねで、品質でもコストでも厳しい戦いを強いられている。街の住民も消費者としての立場で、大企業の安くて良いものを享受することに慣れ、自らが供給者になって、周りの人の笑顔を生み出したいという感覚が薄れているのかもしれない。
やはり、このあたりで、価値観を変えていく必要があるのではないだろうか。スケールと低コストを強みとする戦い方を転換すべきだと思う。そもそも戦い方やシェア争いといった感覚すら変えていくことも大事だ。消費者の前に、周囲を笑顔にする供給者であること。単なるお金のための仕事、創意工夫の無い仕事では少し悲しい。これからは、小さな供給者を、人の輪で支えて、たくさんの供給者が束になることで、大きな賑わいを作る。こんな多様性や街の活力を育む取り組みをみんなで始める必要があると思う。SDGsの実現した世界では当たり前にある日常のような気がしている。日本各地で進んでいる取り組みが既にある。大企業は多様な供給者を育て、応援する取り組みに、創意工夫を促す取り組みに、次の成長を見出せないだろうか。