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同意無い異動はいつまで続けられるのか?

転勤への手当てを厚くして社員の負担を軽減

日本経済新聞の記事によると、明治安田生命やみずほFGをはじめとして、転居を伴う異動(いわゆる、転勤)に対して、手当を厚く支給しようという動きが広がっているという。転勤が従業員の人生設計に及ぼす影響は大きい。特に、記事にもあるように転勤によって配偶者がキャリアを諦めざるを得ない状況に陥ることは社会的な問題でもある。

一方で、少し古い人事制度を知っていると、これらの取り組みは懐かしさを感じさせるものでもある。というのも、バブル崩壊前は転勤時の手当てとして様々な福利厚生が付いていることが多かった。盆と正月の時期には帰省手当が渡されたり、転勤での住宅補助や転校手続き等で家族が遅れてくることを想定して手当てが付けられたりしていた。その昔、「日本企業は米国企業と比べて給与が少ない代わりに、福利厚生が充実している」と言われていた時代だ。
しかし、平成不況を通して、福利厚生を削減する方向に世の中が舵を切る中で、気が付けば「給与も福利厚生も米国企業のほうが充実している」状態になってしまった。日本が福利厚生を削減する中で、グローバルでは人材獲得競争のために福利厚生を充実させる流れが起きており、まったく正反対のベクトルで進んだ結果だ。

転勤はなくなる方向にいくのか?

一昔前は、「総合職とは、会社都合で全国転勤があるから総合職なのだ」というような言葉がよく聞かれたが、コロナ禍でテレワークが普及したと同時にだいぶトーンが弱まったようにも感じられる。働く場所の自由度が上がり、仕事は東京だが、住んでいるのは地方という人も増えている。
もともと、転勤は地方拠点などで都心部と比べて人材獲得が難しい拠点で事業展開している場合に、人材獲得の容易な地域から難しい地域に異動させることで最適配置を狙ったものだ。また、人材育成の狙いもあり、さまざまな現場を経験することは同じ現場で長年同じ仕事を続けるのでは得ることが難しい経験を積むことができる。このような多様な現場経験は、事業規模が大きくなるほど必要となってくる。自動車メーカーをはじめとしたグローバル企業の一部で、役員への昇進条件に海外勤務経験を入れているケースがあるのも根底としては同じ精神が流れている。
つまり、事業が多様化するなかで経営陣が意思決定するには、多様性の分だけ様々な現場で経験を積み、自分の中で多様な視野と広い価値観を持つことが求められる。
このことは海外でも同様で、基本的に大企業の経営幹部候補はゼネラリストとしてのキャリアを望まれる。そして、時には思いもよらないような異動を命じられたり、海外勤務を打診されたりする。日本と大きく異なるのは、それが総合職のような大きな括りで行われるのではなく、一部のエリート層だけに閉じており、尚且つ、本人の自由意志が重視されるという点だ。日本のように、突然、3日後に異動しろといった強権が発動されることはあまりない。
こういう背景を鑑みるに、日本企業から転勤がなくなることは考えにくいだろう。しかし、部分的にはなくなったり、縮小していくようにも思われる。というのも、冒頭で紹介した記事にもあるように、転勤は従業員の負荷が大きく、基本的には好まれないためだ。つまり、採用や離職防止の観点から言うと、転勤が多い企業は人材獲得に苦労することになる。加えて、この人手不足の社会だ。
そうすると、人材育成としての異動は残るものの、地方部と都市部の人材の再分配を目的とした異動は縮小していくだろう。しかし、そのためには転勤を補う何かが必要であり、そのカギを握るのはほぼ確実にDXだ。テクノロジーを活用し、DXによって転勤による再分配を進めることが、転勤の手当を厚くすることと同時並行で進めなくてはならない課題だ。

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