この2年間、あなたはなにをしていたのか?(上)― 世界経営者会議
「あなたはこの2年間、なにをしていたのか」を問われたという思いに駆られた人が多かったのではないだろうか ― 世界経営者会議は1年で大きく変わった。コロナ新規感染者数の増減や物価・株価の変動に一喜一憂し、終わりの見えないコロナ禍に悩む人たちと一線を画す人たちがいた。
コロナ禍で大ダメージを受けた。緊急事態宣言がつづいたからお客さまが来てくれない。オンラインが中心となって面対ができないので意思疎通がとれない。国がコロナ対策してくれないから厳しい。コロナ禍で客さまの嗜好は変わりそうだがコロナ禍中だけだろう。コロナ禍が収束したら元に戻るかもしれないなどと、堂々巡りしている人たちがいる・・・そうではない。コロナ前には戻らない。2030年に生きるあなたは、10年前のあのころが「転換点」だったと振り返っていると思う。
1.そんなの当り前と思うあなた
資生堂がコロナ禍の1年目に中国で展開された「愛心接力」(愛のリレー)は、コロナ禍のなかで頑張る女性・青少年のために、コロナ禍だから資生堂ができる活動をした。サンリオエンターテイメントはコロナ休園中にオンラインで対話して、「未来に光」を見ながら、今やれることをスタッフみんなで考え、次々とそれらの実現に向け前に進められている。
世界経営者会議に登壇された経営者は、コロナ禍後に向けて動き出していた。そのなかサムスン電子のキム・ヒョンソク社長・CEOは、コロナ禍後社会の姿を明確に描き、そこにたどりつく戦略を明快に語られた。
「New Home, New Life」
コロナ禍という歴史的変化が引きおこした「消費者行動の多様な行動」と「技術イノベーション」によって、ニュー・ノーマルに転換するという未来が10年早く到来した。テレワーク、オンラインコミュニケーション、遠隔医療などによって、自宅で過ごす時間は4割増加し、家(HOUSE)はホーム(HOME)に変わった。
ホームは人々の価値観やライフスタイルを投影する空間となった。一人一人がコロナ禍に気づいたありたいライフスタイル体験を実現するお手伝いをするのが最新テクノロジーで、M・Z世代にフォーカスしてホームエクスペリエンスを提供するとプレゼンされた。
「そんなの当たり前」「そんなのわかっていた」とあなたは言うかもしれない。しかしそれをしなかった。「これからそうなるだろう」と考えたあなたもいたかもしれない。しかしそれをまだしていない。「そうならないかもしれない」「別のことがおこるかもしれないから、まだそうとは決めつけられない」などと考えて、あなたはまだ歩きだしていない。
思っていたこととやらなかったこととはちがう。検討していたことと踏み出したこととは、全然ちがう。
コロナ禍のこの2年、あなたはなにをしたのか?
2.「イカゲーム」をパクリというあなた
ネットフリックス最大のヒットとなった「イカゲーム」が評判になればなるほど、日本の漫画・映画やテレビドラマやアニメのパクリだという声が出てくる。「賭博黙示録カイジ」「神さまの言うとおり」「ライアーゲーム」「バトルロワイヤル」が下敷きにされているのではないかとの声が飛び交う。しかし脚本・監督自身が日本の漫画からインスピレーションを受けたといっているが、「だるまさんがころんだ」のような描写、ペコちゃんに似た巨大人形を見ると、不思議な気持ちにはなる。
しかし「あれはパクリだから」と思考停止してはいけない。韓国には、「かっぱえびせん」「ポッキー」「きのこの山」「こんがりコーン」「おっとっと」「ハイチュウ」といった日本の菓子を真似した菓子がある。日本に来た韓国の人が、「日本にも韓国のようなお菓子がある」といったという話もある。
その日本もそう。「古畑任三郎」も「刑事コロンボ」のパロディであることは明らか。そもそも漢字は中国のもので、文字通り漢の字。書道も茶道も華道もそう。雅楽も東大寺盧舎那仏開眼供養会で舞われた唐舞であり、仏像も寺院もそう。漢・隋・唐をはじめ中国伝来、朝鮮伝来のモノ・コトを日本風にカスタマイズして、現代に承継してきた。文化は混ざりあいである。そうなると、こうなる。
オリジナルってなに?
「イカゲーム」は上述のとおり、日本の漫画・アニメ・映画・ドラマ・遊び・ゲームなどを素材にしたのは事実。それらを含めて、「イカゲーム」のクリエーターたちが「世界の人々に視聴いただく」という世界展開を目的に編集して、ひとつのエンターテイメントとして仕上げた。だからこそ、世界の人に視聴されている。
イカゲームだけではない。冬のソナタ・宮廷女官チャングムの誓いから愛の不時着・マイネームもそう。東方神起・少女時代・KARAからBIGBANG・BTS・BLACKPINK・TWICEにと、韓国発のエンタメが世界に広がっている。それらは日本の映画LOVE LETTERやジャニーズなどを観て聴いて育った韓国の人々がそのコンテンツから本質をつかみ、洗練させ、韓国国内ではなく「世界」を前提に編集して創り出され成功した。
ストーリーや演出といった作品内容だけではない。ユーチューブ・ストリーミング・ネットフリックスなど、新たな技術を活用したビジネスモデルを積極的に取り入れて世界展開をおこない成功させている。
このように、外からのモノ・コトに触れた人が自らの「変換システム」にて洗練させたり高度化させたり、進化させたり、新たな魅力的なものを創りだした。この「変換システム」が、より良いものを創りだす「知的基盤」である。
ここで大切なことがある。コードは暗号化されている。外のものそのままでは、「本質」がつかみにくい。このコード(暗号)を解読しないと、そのコンテンツの中核である本質はつかめない。
このコードをモード化するのが得意だった日本は、この30年で暗号解読・翻訳をはじめとする「変換システム」の機能を大きく低下させているのではないだろうか。DXしかりNFTしかり、コードそのままで、意味がわからない。
3.あなたはだれを見ているのか?
日本家電メーカーの技術者だった人がサムスン電子に行ったが、3年くらいで帰ってきた。日本の技術を手にしたから、サムスン電子は世界企業になれたのではないか。
という人がいる。先行する世界メーカーの技術を吸収したあと、差別化し独創的な商品開発をするため、ソニー・パナソニック・日立・東芝・三洋・シャープなど名だたる家電メーカーの技術者だった人たちをヘッドハンティングしたから、サムスン電子の開発設計技術は飛躍的に伸びたという人がいる。だから日本の家電メーカーを大きく上回る世界企業となれたのだという。本当にそうだろうか。
「日本メーカーの部品が入っていないと動かない」
「日本は部品で儲かったらいい」
ともいうが、それだけではない。日本の産業のモノづくりから、完成品・パッケージをつくる力がなくなったら、どうなるのか。
人が見えなくなる。
完成品をつくらないようになると、コードをモード化する「変換システム」が機能しなくなっていく。外のコードを変換せずに、外にあるコードのまま取り入れるようなると、それを使いたい、持ちたい、感じたい、経験したいと思う・考える・願う人の姿が見えなくなると、モノ・コト・サービスがつくれなくなっていく。
「人の姿を見る力=想像する力」が弱くなっていく
日本や世界の技術を学んだだけというならば、サムスン電子が世界企業になったのはなぜか。サムスン電子にとって、大切な戦略がある。
「サムスン電子のデザイン思考」
サムスン電子は世界で最もイノベーティブなデザインコンサルといわれる「IDEO」のアプローチを取り入れるため、1990年代後半にシリコンバレーのIDEOの本社隣に事務所を置いた。このIDEOとの共創が、その後のサムスン電子躍進の原動力となったのではないだろうか。このデザイン思考こそが、コードをモード化する「変換システム」の中核といえる。
「人からはじまり、人に戻る」
である。このデザイン思考によるアプローチを駆使して、サムスン電子はコロナ禍での現場の変化を観察して、コロナ禍後の社会を「ホーム」の重要性と変化が増す時代と読み解き、「New Home New Life」と再定義して、サムスン電子の「デバイスを通してエクスペリエンスを提供する」という戦略に再構築した。
「デザイン思考なら、知っているよ」
「デザイン思考は話題になったから、勉強したよ」という日本企業も多い。しかし勉強をしたり、検討したりしたとしても、具体に実践していない。仮に実践していても、形だけの真似が多い。
「デザイン思考」だけではない。仏造って魂入れずの企業が多い。本質をつかまず、形だけスタイルだけ真似して「やっている気」になるから、進化できなくなった。このように実践せず、勉強だけ、形だけの人・企業が多くなり、日本は停滞した。
そんなの当たり前、分かっている。
と日本人はいうが、実行しない。誰かが「こうしないといけない」といっても、会社としてGOできない、意思決定しない。なぜか。たとえコードをつかんでも、勉強しても、その本質をつかんで自分・自社のものにしていないから、進まない。デザイン思考の本質は「人から始まり人に戻る」こと。しかし「モノから始まりモノに戻る」ハード思考の日本企業の多くは、「人」を見ていない。
最近、韓国ドラマばかり見ているという人が多い。コロナ禍でネットフリックスが普及したことも一因であるが、そもそも日本のドラマが面白くないから、観なくなったという人も多い。
そんなの、ありえないようなドラマが多い
すぐに答えが分かってしまうドラマが多い
単純・幼稚・クオリティが低いドラマか、現実離れしたドラマかというように、「ど真ん中」を外している。それに引き換え、韓国ドラマは「ど真ん中」で、ワクワクし、面白い。シリアスで、リアリティがある。共感でき、感情移入できる。クオリティが高く、日本のドラマのように10話くらいで終わるのではなく、20話、30話、50話と長編なので、観おわると「ロス」状態になる。
この差が、日本企業とサムスン電子のちがいにもあらわれている。「ど真ん中」を外す企業と「ど真ん中」を貫く企業のちがいではないか。「人から始まり、人に戻る」経営と「モノから始まり、モノに戻る」経営のちがいといえるのではないか。そのうえで、ど真ん中の核である「人から始まり人に戻る経営」において、「その人は誰なのか」が大事となる。この「誰」が見えているのか見えていないのか。コロナ禍後社会を見据えた「誰のため」の経営は、次回考える。