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個食の増加は必然。個食を豊かにできれば、食の未来は明るい

コロナ禍による自粛で、家族と一緒に食事をする機会が増えたひとは多いだろう。一方で、一人暮らしの場合、自然と同僚と出かけていたランチや飲み会がなくなり、ほぼ毎日三食の個食を必然とされるひとも増えていると想像される。

晩婚化、少子化、高齢化を背景に、2040年には一人暮らし世帯が4割に達すると予想される日本では、個食はコロナ以前から増加傾向だ。これにコロナによる外出抑制が拍車をかける。

もちろん、外食産業にとっては大きな打撃だが、個食自体を否定的にとらえる必要はないと考える。個食=孤食、なんだか寂しいイメージに直結するが、芸術でもあり科学でもある「食」には、たとえひとりであろうと十分に楽しめるポテンシャルがあるはず。デジタルの力を借りて、個食を豊かに盛り上げることが、食の未来を明るくするテーマだ。

個食を彩るために、食の提供者側ができることは多い。まず、消費者に料理が面倒くさいと思わせる大きな理由は、料理する行為そのものよりも、献立を考え、材料を買いこみ、下準備する手間にある。特に一人暮らしの場合、生鮮食品を使いきれず、腐らせて自己嫌悪した経験があるひとは多いだろう。

この課題を解消してくれるのが、食材と調味料をセットにした「ミールキット」だ。もちろん家族にも便利だが、ひとりでも使え、いためたり盛り付けたりする、料理の「美味しいところ」だけ残してくれる。オイシックス・ラ・大地によるとキット出荷数はコロナを境に同期比約3割増えているという。

さらに、食は世の中とつながるチャネルでもある。野菜のネット直販や、漁師さんの網任せなど、中間流通を飛び越えて、直接生産者とつながる流れは不可逆だろう。生産者側が、個食の消費スタイルを考慮した商品体系を提供することで、一人暮らしでも十分に応援消費ができる。

食を文化ととらえれば、さらに奥行きがもたらされる。例えば、料理番組として、調理台に置いたタブレットを見ながら一緒に料理できるコンテンツを作ったとする。もう一歩踏み込んで、その料理にゆかりある地方の観光情報と組み合わせて、娯楽として提供してはどうだろう?あふれる情報をテンポよく処理することに長けた視聴者には人気が出そうだ。

一方、消費者側も、個食を積極的に楽しむ意識が必要だ。食の目的は、バランス良く栄養を取ることに加えて、楽しみであり、社交である。個食には社交の側面が欠けるが、それでも、十分な楽しみを得ることはできる。そのためには、食や料理についての好奇心が欠かせない。

特に、「男子厨房に入らず」で育った中高年男性が心配だ。一部にはパスタマシーンを使いこなす料理好きもいるものの、ほぼ料理ができない、興味がないひとも多い。2040年に全世帯の4割を占めるシングル世帯のうち、4割が65歳以上と予想されている。奥さんに取り残された、あるいは離婚する男性も含まれる。ひとりになったとき、個食を豊かなものにできるかどうかで、日常の質が大きく左右されるだろう。料理を億劫な家事のひとつではなく、楽しいものととらえてほしい。

ギグワーカーを利用した宅配を否定するものではないが、ひと手間をかけた食には愛着がわく。誰かが作ってくれた食事はありがたいが、自分で自分のために作る個食もアプローチによって実りあるものになる。個食を豊かなものにするため、食の提供側も、消費者側も、双方が歩み寄ることが大切だ。

#日経COMEMO #毎日UberEats有りですか

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