メディアの存亡と政治
BBCの報道部門で大規模なリストラが実施されるという。
背景としては、
ボリス・ジョンソン首相率いる保守党政権は、BBCによる報道の公平性を疑問視しており、国民から受信料を徴収する仕組みをめぐっても圧力を強めている。
ということであるらしい。受信料に関する圧力を強めることで、経費削減を余儀なくされ、そのしわ寄せが報道部門に及んだ、ということのようだ。
BBCといえば、世界でも名だたる報道機関の一つ、特に欧州を代表する放送メディアと言えるだろう。英語国である有利性もあるが、米国のCNNとならんで、世界のどの主要ホテルでも見られるチャンネルの一つである。
そうした報道機関が、政治の圧力によって人員削減を余儀なくされ、それが報道のクオリティに影響する可能性があるという事態には、危機感を持たざるを得ない。
もちろん、BBCの報道責任者が
BBCは視聴者の変化に「正面から向き合う」必要があると発言した。その上で「われわれは従来のリニア放送へ過度に資金を費やし続け、デジタル放送への支出が十分でないことを正直に認めなければならない」とした。
と述べているということは、視聴者はいわゆるテレビ=リニア放送から離れてネットに移行しており、そこに十分な力点が置かれていなかったことは、内部の人も認めざるを得ない事実なのだろう。この点については、改善の余地があることをBBC自身が認めているということになる。
一方で、メディアの公平中立な報道というのは、誰がどのように判断するのか、極めて難しい問題である。本当は、自由な言論というものがあり、複数のメディアが競うことによって、どのメディアが支持されるのか、あたかも支持政党が決まるように決まっていく、というのが本来のあるべき姿ということになるのだろう。しかし、BBCもそうだし、日本のNHKもそうだが、広告費(だけ)に頼らない公共放送機関ないし非民間放送機関が、どのように報道の公正公平を保つのか。力を持つ人、たとえば政権を握った人が不公正・不公平だと言った時に、その当否を誰が判断するのか。民主主義社会であれば、その当否は選挙で示される民意が判断する、というのが建前であるが、そもそも報道に政治が介入した場合、その報道によって有権者の判断が左右され、選挙結果に反映されることになるので、ここで民意を示すという仕組み自体が機能しないことになる。
これは民主主義とメディアの関係の問題として、テレビが普及するはるか以前の民主制の誕生と新聞の役割という頃からついてまわる、おそらく永遠に解決されない課題だろう。
そして、ここにきてソーシャルメディアが、アルゴリズムによって意図的な情報の取捨選択を、見る人が意識しにくいなかで行っている問題がある。ある人が好んで見ているニュースや情報を、その人の志向を表すものとしてアルゴリズムが判断する結果、似たようなニュース・情報ばかりが届けられる結果、反対意見が見えなくなったり、特定の話題が届かなくなったりするという危険性は、すでに現実のものだ。
加えて、真偽の判断が難しいフェイクニュースの問題も起きており、フェイクニュースが主要な国の選挙結果に影響を与えたのではないか、という疑義も呈されている。そして、それが他国を自国に有利な方向に誘導する情報戦の一環として行われているのではないか、という懸念も持たれている。
こうした現代において、私たちはどのように情報をとり、それを受け止め、解釈すればよいのか。正解はないのだが、この点で思い出すのは、かつてスイスで各家庭に配布されたという民間防衛のハンドブックだ。日本語に訳されていて、私も読んだことがある。
リンク先によれば、この本は発行当時、スイスでは内容が物議をかもしたということだが、スパイ活動や妨害工作、敵国の宣伝に対する心得を説いたページもあって、大国に周囲を囲まれた永世中立国ならではの難しさと知恵を感じたことを覚えている。
ヒトラーは民主政治のなかから生まれ、ナチスがプロパガンダなどメディアを巧みにコントロールすることで人々の支持を取り付けたということは、よく指摘されることである。それと同じ轍を踏むことにならないか。EUからの離脱をきめたこともあり、イギリスが今後どのような道を歩むのか、注視していきたい。そして、ひるがえって自分たちの国のメディア・情報環境はどうであるのかについても、油断せずに判断していかないと、取り返しのつかない事態に陥ることさえ、起きうると思う。
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