専門性が高まるほど難しくなる中途管理職のカルチャーマッチ
管理職の中途採用が日本で増加している。7年間で求人数は4倍、転職者は2.4倍に増加し、特に就職氷河期世代の人員不足に対応するため、企業は外部から管理職を採用するようになってきている。しかし、中途採用の管理職が新しい職場に適応できず、再び転職を余儀なくされるケースが多く見られる。これは企業文化や人間関係とのミスマッチが大きな要因であり、その防止には採用プロセスにおける丁寧な条件の擦り合わせが不可欠である。
日経新聞の記事では、管理職の中途採用がうまくいかない背景には、企業側と転職者の双方に存在する誤解や期待の違いがあると述べている。特に専門性の高い人材は、自分の市場価値が正当に評価され、その専門性を十分に発揮できる環境を求める傾向が強い。しかし、企業文化がその専門性の発揮に制約をかけると感じる場合、転職者は不満を抱くことになる。特に管理職以上のポジションに就く者にとっては、職場の上司や同僚、部下が「当たり前」と考えていることが、自身にとっては必ずしも「当たり前」でない場合が多く、それが大きなストレスとなることがある。
また、日本の企業文化では、終身雇用の中で新卒者を中心に人材を育ててきた歴史があり、組織文化はある程度入社後に学ぶことができると考えられてきた。そのため、20代の若い中途採用者であれば、職場の文化に適応することも期待できるが、専門性の高い人材や管理職以上のポジションに就く者に対しては、適応力を求めることは現実的ではない。こうした人材に対しては、むしろ採用段階での組織文化とのマッチングを徹底し、ミスマッチの原因を丁寧に分析することが重要である。
しかし、現状では多くの企業が管理職以上のポジションであっても、採用時に面接しか行わないケースが多い。筆者が以前共に働いていた、戦略コンサルティングファームのマネジャー経験を持つドイツ人女性も、日本の管理職採用において選抜にコストをかけないことにショックを受けていた。
経営学的な観点から見ると、多くの企業が取り入れている「訓練を受けていない面接官が実施する構造化されていない面接」は人材の適性を見極めるための精度が低い手法だ。面接以外の選抜手法としては、シミュレーションやワークサンプリング、さらには臨床心理学的手法(心理テストやカウンセリング等)といった、多様なツールが存在する。特に重要なポジションを採用する際には、面接に加えてこれらの手法を取り入れることで、より高い精度で候補者の適性を見極めることが可能となる。
さらに、採用後のミスマッチに関しても、課題を特定し、対策を講じるにはピープルアナリティクスの活用が重要だ。多くの企業は採用後の人材に関するデータを保有しているが、それを効果的に分析し、ミスマッチの原因を特定する取り組みが進んでいないのが現状である。データを基にした分析は、採用後の定着率向上や、転職者が新たな職場に適応できるよう支援するための有力な手段である。
中途採用の管理職が組織に溶け込むためには、採用プロセスでの組織文化の共有や相互理解が不可欠である。たとえば、意思決定の速さや根回しの有無、上意下達型か権力分散型かといった企業のカルチャーについて事前に詳細に説明し、候補者と擦り合わせを行うことで、ミスマッチのリスクを低減できる。また、入社後には、趣味やプライベートな話題を通じて部下や同僚と信頼関係を築く「1on1」などの取り組みを積極的に行うことも有効である。転職者が新しい職場で成功するためには、企業側の受け入れ態勢の整備と、丁寧なフォローが求められる。
重要なポジションの採用は企業にとって大きな投資であり、そこでの失敗は大きなコストを伴う。だからこそ、採用時の選抜手法や入社後のフォローに関しては、従来のやり方にとらわれず、科学的なアプローチを積極的に取り入れることが肝要だ。多様な選抜手法の活用やピープルアナリティクスの分析を通じて、管理職の中途採用の成功率を高めることが、企業の競争力を高める鍵となるのである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?