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これからの私たちの居場所

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、4月と5月の2か月は、必要がある時以外は外出しないという生活を送ってきた。

自分の交通ICカードの記録をみても、仕事でやむなく外出した日も、長ければ1週間の間があく、といった具合だった。

この生活を送ってみて気がついたことは、時間と距離に関する大きな意識の変化だ。

これまでは通勤や打ち合わせのために、主に「都心」と呼ばれる場所に30分や1時間の時間をかけて、電車や車で移動していたというのが、仕事をしている人の多くの日課であったと思う。職住は必ずしも近接していなかったし、それを求めるなら高いお金をかけて都心に住まなければならなかった。

しかし、外出制限によってこうした移動時間は使われることがなくなってしまった。自分の場合は、この時間は、オンラインでの雑談も含めた幅広い意味でのミーティングに使われることになった。

また、移動時間以外でも、特に夕方以降の時間の使い方について大きな変化があった。従来であれば知り合いなどと飲みに行ったり食事をしたり、あるいはリアルなセミナー・講演会などに出るといった時間が、まるごと浮いてしまったのだ。そのかわり、オンラインのセミナーに出たり、あるいは「zoom飲み」などと言われるようになったオンライン飲み会に出席したり、もちろん家族と過ごす時間が増えるといったことが起きた。

オンラインであれば、距離の遠近は基本的には関係がない。インターネットが繋がる場所でありオンラインコミュニケーションのリテラシーを持っているのであれば、相手がどこにいてもコミュニケーションを取ることができる。もちろん時差の問題だけは残されるが、相手の時間帯に合わせて時間を設定すればよいし、もっと言えば、文字や音声、動画でメッセージを送っておけば、それを相手が自分の都合のよい時間に見てもらうということも可能である。

こうしたコミュニケーション方法は、技術的にはCOVID-19の問題が起きる前から可能であった。しかし私たちの日常生活にとって、オフラインの時間というものの存在があまりにも大きかったために、どうしてもオンラインはサブのもの、後回しのものになってきたというのが、これまでの実態だった。

それが顕著に現れているのはリモートワークやテレワーク、在宅勤務だ。これまでも、リモートワークやテレワークの必要性は、主に BCP の観点から言われてきた。しかし、日本では毎年大きな自然災害が起きるにも関わらず、こういったものの実際の導入・活用については、オフラインの強さゆえに後回しになってきたのだと思う。
それが今回、外出制限の必要から急速に利用が進んだ結果、私たちが気がついたことは、実はこういったオンラインのやり方でも一定の成果を出し得るということだ。
このような生活の変化の結果、自分の中で起きたことは、図にあるように、自分の自宅や地元と、遠く離れた友人や知人のいる場所あるいは自分とご縁のある場所との繋がりが非常に深くなり、その中間に挟まっている、いわゆる「都心」と呼ばれるような場所、言い換えれば「密」な場所が取り残されてしまった。この2か月、丸の内にも銀座にも渋谷にもまったく足を運ぶことなく過ごしてしまったのである。そのかわりに、頻繁に連絡をとっていた欧州やアジアの友人たちが過ごしている街の様子の方にリアリティを感じるようになってしまった。

これまで私たちは、図の中間に挟まれている「都心」に相当する部分にアクセスすることの容易さを重視して、住む場所や生活する場所を選んできた。しかし、いま現実に起きている変化を考えると、私たちがそういった都心部への交通の便利さや近接性を基準にして 家の場所を選ぶ必要は必ずしもないということに多くの人が既に気がついているのだと思う。

スタートアップに限らず、多くの企業が都心のオフィスを縮小したりあるいは借りるのをやめる、といった動きがあるようだ。実際に私の知っている範囲でも、オフィスを縮小する検討に入った企業が出始めている。

それだけでなく、アメリカでは実際に人々が郊外に移住して行くという動きも生まれているという。アメリカと日本の状況を同列に語ることはやや飛躍があるようには思うが、世界中でこうした動きが起きているということは興味深いことだ。

これからの私たちの居場所は、在宅勤務やリモートワークを、100%ではなくても取り入れることを前提に、そのためのスペースを自宅の中に確保できる場所だったり、あるいは自分にとって大切な人たちや、自分にとって大切な場所で働くということで決まる・選ぶことになるのかもしれない。そうであれば、図の中では、真ん中にある自宅と外側の遠隔地というものが重なってしまうのかもしれない。その時に、オフラインの役割、あるいは都心の役割が全くなくなってしまうとは思わないけれども、重要性というのは、少なくても量的には後退していくものだと思う。それだけに、質的にはオフラインの価値が、その希少性ゆえに上がるのかもしれない。

こうしたことが実現するのであれば、これは長年言われながらもなかなか具体的な成果を生んで来なかった地方創生に繋がる動きなのだと思うし、同時にやはり長年の課題であった一極集中してしまった大都市、特に東京が抱える問題への有効な解決策になりうると思う。


COVID-19の陰に隠れてしまっているが、日本が高齢化社会を迎え、地方の問題がクローズアップされてきたことを改めて思い起こす時、このコロナウイルスの問題が地方創生を加速する方向に作用するのであれば、それはひとつの前向きな活かし方ではないかと思う。 

なかなか自治体の手も回りきらないかもしれないが、スーパーシティ法案が成立するなら、これをうまく活用する地方自治体が出てくることに期待したい。

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