インフレ鈍化傾向に油断は禁物!
ユーロ圏の5月のインフレ統計は大部分が軟化傾向を示している。エネルギー価格が12か月前の水準を再び下回った他、食品については、緩やかだが低下傾向が確認できる。特にフランスやイタリアの国家統計によると、5月の鈍化は未加工食品よりも価格変動幅の小さい加工食品に集中していると見られるため、こうした軟化をノイズとして無視するわけにもいかなそうである。また、コア財価格上昇率は2か月連続で低下した。
ただ、欧州のインフレが簡単に低下局面に入らないと考えられるのは、サービス価格上昇率の方向性が依然として上昇する可能性を排除できないからである。
第一に、サービス価格上昇率は4月前年同月比5.2%から5月同5.0%にやや低下したのだが、一部には2022年5月の高い上昇率によるベース効果が反映されている。実際、今年5月のサービス価格の前月比上昇率は0.2%であり、通常の季節的なパターンをむしろやや上回っている。第二に、サービス価格上昇率の鈍化の一部はドイツ政府による49ユーロチケット(1か月49ユーロで国内公共交通機関が乗り放題になるチケット)を導入したことに伴う影響など、ブレの大きい輸送サービス価格によって説明できることもある。基調的なサービス価格上昇率はそれ程低下していないことになる。第三にサービス価格上昇の内訳を見ると、イタリアとドイツではレストラン、ホテル、健康といった労働集約的なサービスの価格が前月比で大幅に上昇したこともある。サービス活動の力強さが続いていることを示す5月PMIや3月に前年同月比4.3%の伸びを記録した妥結賃金指標に整合的である。
以上よりサービス価格の上昇率は鈍化傾向に入ったように見えてもそうならない可能性は大きい。これが正しければ、コアインフレ率が6月、7月に押し上げられる公算も大きい。
5月のインフレ統計では、ハト派、タカ派の双方に論拠をもたらす面があった。総合インフレ率とコアインフレ率の低下は金融引き締めが予定通りインフレ圧力を抑制している、と読めばECBは利上げサイクルの最終段階に入っているというハト派に安心感を与えよう。一方、コアインフレ率の低下はあっても、基調的なインフレ圧力を見ればECBにとって居心地はよくないはずで、それがラガルド総裁の「基調的なインフレ率がピークを打ったという明確な証左はない」という示唆の背景になっていると言える。
記事指摘の9月以降はまた難問になるが、とりあえず当面は6、7月の25bpの金利上昇と金利着地3.75%までは目指して利上げモメンタムを継続させることになるのではないか。
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