ポイント整理:「アカデミア人材が企業で活躍するには」
民間企業では、アカデミア人材活用が課題にっている
日経COMEMOで、「#どう活かすアカデミア人材」という投稿企画があり、多くの投稿が集まりました。
私も、投稿を行いました。そして、企業のアカデミア人材の活用に問題意識を持っている方が、実に多く存在していることに、驚きを覚えました。
ある意味、アカデミア人材は、企業の新たる成長には重要なパーツなのかもしれません。もし、そうだとしたら、日本の大学や大学院の教育・研究活動にも、企業から、大きな支援のメッセージを送って頂けたらと思うのです。多くの大学では、研究予算の確保については、以下のように、本当に苦労しているのです。
大学も民間企業にラブコールを送っている
近年の大学運営は、民間企業からの支援なしにできない状況になっている。日本全体の財政の問題もあり、以前のように大学への予算が増加しているわけではないからである。
ところで、ここでさらに問題になるのは、産学連携の問題である。大学が企業と共同研究などの、共同プロジェクトについて、さらに進めていきたいとアカデミア側も考えているだろう。それは、以下のインタビューでも述べられている通りだ。
ところで、日経COMEMOの「アカデミア人材が企業で活躍するには」という、問いは企業側の問いとして、出現した問題だと思われます。しかし、実際には、企業、アカデミアで、両方で知恵を出すべき問題でしょう。そこで、この問題の背景を少し整理してみることにしました。
私の整理の論点は、企業に起きた、以下の2点の整理が、まず必要だと思います。
・企業の働き方の多様性の出現
・企業の人材教育の変化
そして、その一つの答えとして、企業がアカデミアの人材を求めているのだと思いますが、そこも両方向で考えるべきでしょう。つまり、
・企業がアカデミア人材を求める理由
・アカデミアが企業の課題を知りたい理由
の両方向での整理を行ってみたいと思います。
企業の働き方の多様性の出現
実は、企業の働き方の多様性は、企業の中のビジネス・パーソンのキャリア形成に大きな影響を与えているだろう。終身雇用制から、さまざまな雇用形態になり、そして実際の勤務形態にも、以下のような多様性が出現している。
・働き方改革(過度な残業の抑制)
・フレックス(時間管理から、成果管理)
・副業解禁
・キャリア採用の活用
これらの変化の登場は、ビジネス・パーソン、個人としてのキャリア形成を見直す変化が起こしている。そして、時間と収入に余裕がある方の中には、自分のお金を支出して、リカレント教育を受けている方も多いだろう。
ただ、このようなビジネス・パーソンの学び直しには、大きな問題も存在している。全員が受けられない。そして、リカレント教育のお手本を探しにくい、などである。そこで、企業の研修の強化というテーマが、論点になるが、そこにも、以下のような問題が発生している。
企業の人材教育の変化
今までの企業の人材教育は、終身雇用型の上に存在していた。しかし、その前提が崩れた今は、以下のような変化が起き始めた。
・年次教育から、スキル別教育
・強制教育から、参加者選択型教育
・社会人教育は行えても、専門領域の研修を社内で行うことが困難になっている。
・科学の進化が早く、企業の中での科学領域教育が難しくなっている
この変化、問題については、少し丁寧に解説したい。
まず、「年次教育から、スキル別教育」についてである。以前は、日本の企業は多くが終身雇用で、かつ新卒採用が中心だったこともあり、会社の経験年数と、ビジネス経験歴が一致していた。この頃の、人事、人材教育グループが行っていた教育は、その企業の社員全員に提供する、年次別研修であった。
ところが、終身雇用100%の時代も終わり、そして、中途・キャリア採用が増えてくることで、従業員全員に一斉に教育を行うことが困難になってきた。そこで、出てきた解決策が、仕事に必要なスキルを、その時々に選択しながら教育を受けてもらう補法、参加者選択型教育である。例えば、海外赴任者用の語学研修や、データ分析者用のコンピューター研修などが、それに該当する。
この変化が、結果として、次の「強制教育から、参加者選択型教育」への変化につながる。今までは、全員に同じ教育を受けてもらうということが「公平」と言われていたが、教育機会を均等に提供し、参加するかどうかが従業員の意思とする、あらたな「公平」サービスに移行した。
意思と時間がある従業員は教育は受けられるが、時間がない従業員は教育を受けられない可能性も発生している。つまり、本当にこの「参加者選択型教育」は、「公平」なのかという問題が生じているだろう。例えば、勤務時間が自由に選べる勤務体系になりつつある中で、「成果主義」を求めると、なかなか勤務時間の中に「教育」の時間を取れない人も存在しているからである。「教育」とよりも、仕事の「成果」を優先するからである。
この2つの変化が生じている途中で、実は教育の内容にも変化と問題が生じているだろう。それが、3つ目の「社会人教育は行えても、専門領域の研修を社内で行うことが困難さの存在」である。年次教育が行えていたころは、会社の基本的な事業の知識に関しても、教育が行えていた。それは、年次と、会社の経験・知識は比例しており、会社独自の専門知識の教育も行いやすかったからだろう。
しかし、近年は、従業員が多様な入社方式で参加しており、全社一斉の教育が行いにくくなったこと。そして、今までよりも、個人に求める専門性が細分化され、かつ深くなっている。結果、専門領域の教育が少人数の教育の場になり、そして高度な専門領域の研修が求められるようになった。
例えば、「語学研修」にしても、「コンピューター研修」にしても、社内の従業員が先生を行うのではなく、外部からより専門性の高い講師を招聘する方式が増えてきている。さらには、例えば、「データ・サイエンス」の研修や、「デジタル・トランスフォーメーション理解のための研修」などの、きわめて高度な「専門領域の研修」が必要になってきた。
さらに追い打ちをかけていることとして、「科学の進化が早く、企業の中での科学領域教育が難しくなっている」ことがあるだろう。例えば、私が得意である、「科学数値計算」でも、以前の計算方法やプログラミングと、現在の計算方法では大きく異なる。人工知能について、企業で学ぼうとしても、企業の中で講義を行えるまで理解している人も少ないだろう。このような企業なのかで講義を行える人が少ないという事例は、数多く皆さんの周りにも存在しているのではないだろうか。
このような整理を行うと、実は多くの企業で、雇用している人材の育成が上手に、そして現在の要求に合わせた形で行いにくいという課題があるのだ。そして、「アカデミア人材の活用」は、ある意味、この人材育成できないことの、解決策として登場しているのではないだろうか。
企業がアカデミア人材を求める理由
企業の中で教育しきれない「知識」を、アカデミア人材の登用で、企業の中に導入したい。これが、企業がアカデミア人材を求める理由のようだ。
、ところで、企業がアカデミア人材を求める理由は、もう一つ存在しているだろう。しかし、多くの企業がその理由を重要視していないと思う。
その理由は、アカデミア人材の、「研究力・探求力」ではないだろうか?大学や高等教育・研究機関において、人は2つのことを学んでいると、常に私は学生に伝えている。一つは、まさに向き合っている「学問」。もう一つは、未知の問題に対して、あきらめず向か合う力。そして、小さな解決の糸口を見つけて、誰も知らない答えに近づく力である。これらを、ここでは「研究力・探求力」と呼ぶ。
私の考えでは、アカデミア人材の登用、活用の企業の価値は、短期的な「知識」の導入と、中・長期の「研究力・探求力」の入手と両方あり、実は企業に圧倒的に不足しているものは、後者の「研究力・探求力」なのかもしれない。
そして、企業が「研究力・探求力」を入手したいと考えるならば、アカデミアの人材を企業に招く方法よりも、企業の方がアカデミアに飛び込んだほうが学びが多いのではないだろうか?
もう一度、企業がアカデミア人材を活用・登用したい理由を整理してみることも必要だろう。
さて、残りの「アカデミアが企業の課題を知りたい理由」については、後日この続きとして公開したい。