現場の努力では解決しない人手不足問題
これはあくまで個人的な感想に過ぎないのだが、最近、飛行機を利用して旅行すると、預けた手荷物が出てくるまでの時間が以前よりもかなり長くなっているように感じる。
最初にそれを感じたのは羽田空港に国際線ターミナルができた時だった。到着の際、手荷物の受け取りにかなり時間がかかると感じたのだが、最近では国内線の羽田以外の空港でも同じような状況が見られるようになった。
実際に、それがどのような理由によるものかは分からないが、手荷物の受け取りに限らず、日本全体で人手不足が深刻化していることが一因になっているのではないかと推測する。こうした問題の対処として賃金の引き上げが必要だという意見もある。確かに、賃金が安いより高い方が人は集まりやすいかもしれない。しかし、日本は人口が減少し、そもそも働き手が不足しているため、賃金を上げたところで、低賃金の職場から高賃金の職場へ人が移るだけであり、結果として別の職場で人手不足が発生するだけの話になる。これでは、日本全体の人手不足問題は解決しない。
では、どうすればよいのか。考えられる解決策は3つある。
一つ目は、海外からの労働者を受け入れる、つまり移民を増やすこと。
二つ目は、これまで人手に依存していた業務を機械化・自動化することだ。
三つ目は、仕事やビジネスのプロセスそのものを見直し、より効率的な方法を導入することである。
最初の二つは、実際に出来ているかどうかは別として当たり前の考え方だと思うが、三つ目の点について深く考えさせられたのが、先日、ある外国の航空会社を利用した際の出来事だった。普段利用しない航空会社で、しかもエコノミークラス利用だったこともあり、空港でのチェックインの列に長時間並ばされることを覚悟していたが、予想に反して手続きが非常にスムーズに進んだ。何が予想と違ったのか観察すると、その航空会社では搭乗客に対し、事前にオンラインチェックインを済ませるか、空港の自動チェックイン機で搭乗券を発行してから列に並ぶよう、強く推奨していたのだ。
その結果、チェックインカウンターに並ぶ乗客はすでに搭乗券を持っており、あとは手荷物を預けるだけの状態になっていた。そのため、係員はパスポートで本人確認を行い、手荷物にタグをつけるだけで済むため、列がスムーズに進んでいた。もし、事前チェックインをしていない乗客が列に並んだ場合、その場でパスポート確認や手荷物預かりはもちろん、危険物の確認、座席指定なども行う必要があり、手続きが長引くことになる。特に、希望の座席が空いていない場合、選択に時間がかかることもある。このように、チェックイン手続きを簡素化し、乗客側の行動を変えることで、チェックインカウンターのスタッフ数を減らし、乗客の待ち時間も短縮することができるのだ。
このアプローチは、顧客を「神様」として扱う日本の航空会社ではなかなか考えられない。しかし、顧客に一定の負担を求めることで、全体の効率を向上させるという考え方は、今後の日本のサービス業全体にとって、重要な示唆を与えているのではないだろうか。
ここで挙げた三つの解決策――移民の受け入れ、機械化の導入、顧客の行動変容の促進――は、いずれも組織のトップが主導しなければ実現できない。特に、移民の受け入れに関しては、政治家のリーダーシップにより国全体の意思決定が必要である。また、機械化の推進や顧客対応の見直しについても、現場レベルではなく、企業の経営層が主導するべき課題だ。
しかし、日本の組織では「トップが動かない」ことが長年の課題となっている。例えば、太平洋戦争の際には、東京が焼け野原になるまで戦争を終わらせる決断が下せなかった。さらには、「竹槍で原爆に立ち向かう」といった極端な発想が象徴するように、日本は長らく「現場の努力」で状況を支えてきた。しかし、現在の人手不足は、もはや現場の努力だけでは解決できないレベルに達している。
言い換えれば、今こそ日本の組織のトップが本当に仕事をしているのかが問われているのではないだろうか。ただ単に賃上げをすれば人手不足が解消するわけではない。問題の本質を見極め、どのような方法で課題を解決し、現場の人々にどのように動いてもらうのかを、意思決定層の人々には真剣に考えてもらいたいと思う。