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株価の影響を受ける大都市エリート人材の生活

 国連は発表している「World Urbanization Prospects」のレポートによると、世界人口(72億人)の54%は都市部に住んでいる。さらに2050年までには66%に都市人口は上昇することが予測されている。田舎から大都市への人口移動は、年収の高い仕事を得ることと、近代的な生活をすることを目的としたものだが、大都市に人口が集中することの弊害も深刻化してきている。

大都市の家賃相場は年々高騰しており、その費用を賄うために高年収の仕事から離れられない、負のスパイラルが生じてきている。ドイツ銀行が、世界主要都市の家賃相場を調査したレポートによると、世界で最も家賃水準が高いのは米サンフランシスコで、2ベッドルーム(2LDK)の物件で平均3,449ドル(約37.9万円)、ニューヨークは第3位で2,909ドル(約31.9万円)となっている。

そのため、米国の大都市では、大企業に勤めるエリート人材でも、単身者はルームシェアをして家賃コストを下げるのが一般的である。

米シリコンバレーには、高い給与を求めて優秀なハイテク人材が集まっているが、彼らの給与明細は、株式報酬の割合が高いことから、株価の下落が生活にも直接的に影響するリスクを抱えている。

たとえば、アップルに勤めるソフトウエアエンジニアの平均年収は約18万ドルと高額だが、その中の、およそ2割は株式報酬として支払われている。たとえば、年収13万ドルの新人エンジニアにも、アップル社の株式が年間で180株支給されているが、これは一定の期間を経過しないと売却できない。その間に中途退職をすれば、株式の権利が一部消失するルールになっている。

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企業にとって、株式で給与の一部を払うことの利点は、人件費の金銭的負担を軽減しながら、全社が一丸となって「業績を上げる(株価を上げる)こと」へのモチベーションを高められることがある。その一方で、業績の低迷期に入ると株価も下落するため、社員は物価が高い大都市での生活水準を維持できなくなるリスクを背負っている。

これは未上場の新興企業にも言えることで、株式市場が好調な段階では、投資家からの資金調達がしやすく、社員を高給で雇うことができるが、今回のように世界的な株価暴落が頻繁に起きると、新興企業の資金繰りも一気に苦しくなる。米シリコンバレーのスタートアップ企業に勤める社員の平均年収は、金銭と株式報酬を含めて約12万ドルである。

シリコンバレーに限らず、現代のエリート人材は、株式相場の影響を受けやすい報酬体系になっているため、経済状況が悪くなれば、都会を離れることも想定した人生設計を立てなくてはいけない。新型コロナウイルスの感染拡大は、世界大都市での生活スタイルにも、次第に影響を与えることになるかもしれない。

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