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社内起業家で組織を活性化させよう

京都企業で注目される社内起業家

日経新聞によると、電子部品大手を中心として京都の企業で社内起業が盛んだという。関西での社内起業というと、20年前にパナソニックの取り組みが注目を集め、広く普及した。近年では、DeNA創業者の南場 智子氏が「社員よ起業せよ」と檄を飛ばし、それに呼応するかのように社内起業も1つの選択肢として活気づいている。
その一方で、社内起業の評価はさまざまだ。社員の成長を促すことができると肯定的なものもあれば、結局は本業と並ぶ新たな事業の柱を生むことは難しいと否定的な評価が下されることも少なくない。

そもそも、新規事業が成功する確率は低い。これは起業でも、新規事業でも、社内起業でも同様だ。南場氏も「エコシステムが正しく機能しているなら、スタートアップは大半が失敗します」と述べている。それでは、失敗確率の高い社内起業をなぜ推進するのか。
社内起業を推進している企業の方と話をしたり、公開されている国内外の記事を読んでいると、4つの方向性が見えてくる。

社内起業家施策の4つの方向性

1つ目の方向性は、人材開発だ。ゼロから事業を立ち上げ、起業するという体験は、社内起業という会社の中に留まった状態であっても挑戦的でタフな試みに違いはない。そして、企業経営に関わるほぼすべての事象について学習し、成果を出し続けることができないと新しい企業は立ち上がらない。起業体験は、将来の幹部候補を育てるときに非常に良い教材となる。
特に、大企業では業務が細分化されているためにビジネスの全体像を把握することが難しい。日本企業の人材育成はゼネラリスト志向だというが、実際にビジネスの全体を体感できるようなキャリアを歩む人材は稀で、営業畑・経理畑という言葉があるように、その多くが似たような職種の間を行き来するだけだ。社内起業を体験することで、ジョブローテーションでは身に着けることが難しいビジネスを俯瞰して捉え、経営者の視点で物事を考える思考力を身に着けることができる。
2つ目の方向性は、企業文化の醸成だ。イノベーションのジレンマで知られるように、成功している既存事業があると、その成功体験に引きずられて新しい挑戦をすることが難しくなる。挑戦を避けて、変化に遅れ、柔軟性を失うと企業は競争力を急速に失う。それを防ぐために、社内起業を奨励し、新しいことに挑戦し続ける組織なのだという文化を醸成する。醸成した文化が社外からも認知されると、イノベーション志向の強い人材が集まり、挑戦的な事業に対するステークホルダーからの評価も高まる。
3つ目の方向性は、足りない管理職ポストの拡充だ。年功制の性格が大分薄まってきたとはいえ、ある程度の職歴を重ね、成果を出している社員の次なるキャリアとして管理職が期待されることは多い。しかし、管理職のポストには限りがあり、よいタイミングで昇進できるとは限らない。そのままタイミングを逸して機会を失ったり、外に機会を求めて離職してしまうケースも多い。そこで成長の速い社員を社内起業として抜擢し、自分で自分のポストを創らせる。例えば、なかなか進まない社内のDXを推進するために、意欲のある若手社員を抜擢して、DX推進の社内起業を勧める。また、役職定年を迎える管理職層が社内起業によって自分のポストを創造する例もある。地方銀行で役職定年者が持つ地元経済界との豊富なネットワークを活かし、地域商社を立ち上げたりする。
4つ目の方向性は、純粋に収益の新しい柱としての期待だ。歴史を紐解いてみても、社内起業としてスタートして、大企業へと成長した例は多い。有名どころで言えば、トヨタも元々は1933年に豊田自動織機製作所自動車部としてスタートし、1937年に新会社として独立したのが起源の社内ベンチャーとも言える。近年では、三菱商事の社内ベンチャー制度から生まれた、スープストックトーキョーを運営する株式会社スマイルズがある。

人材を組織内外で循環させるために社内起業は良い手段

社内起業を新規事業開発の1手法として考え、収益の柱となることを重視し過ぎてしまうと、思うような成果が出ずに施策として失敗の烙印を押されることも多い。前述したように、そもそも社内起業は失敗する確率の方が大きい。しかし、社内起業に挑戦することによって得ることができるメリットも大きい。
特に、イノベーションが求められる世の中で、社内の人材に多様な視点や経営感覚を養うなど、イノベーションを喚起するリーダーシップ開発の文脈で期待値は大きい。また、事業が成功して独立し、組織外に出ていったとしても、それによって得ることができた人材輩出企業としてのブランド価値や、社外に強力な仲間を得ることができたネットワーク構築の面でもメリットは大きい。
イノベーションを生むには、組織内外の人材をバランスよく混ぜ合わせ、ダイバーシティを生み出すことが肝要だ。そういった意味で、社内起業に積極的に挑戦させ、失敗した時には本業に戻し、成功した時には独立も視野に入れて関係性構築をすることで、人材を組織内外で循環させることができる。この循環があることで、組織はイノベーションを生み出し、競争力を更に強化させることが可能となる。


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