出会いに「見た目」という情報は、最初から要らなかったのかもしれない。
・膝を突き合わせて話す
・百聞は一見にしかず
・同じ釜の飯を食う
日本には「リアル(オフライン)」を重視する言葉がたくさんある。
これらの言葉が生まれた頃は、こんなにも「デジタル(オンライン)」のコミュニケーションが台頭するとは想像もしなかっただろう。
これまではオフラインのコミュニケーションが基本で、オンラインはそれを補完するものだった。
ビジネスシーンなら「基本的には会って話すべきですが、それが難しければメールでもいいですよ」といった具合だ。
しかしコロナをきっかけに「基本的にはオンライン」になった。
オンラインとオフライン、これからのコミュニケーションはどうなる?
僕の本業が若者研究ということもあり、先日そんなテーマで取材を受けた。
取材は順調に終わったが、記者さんとのやり取りの中で、自分の中に存在していた無意識の固定観念に気がついた。
今日はそんな話。
■オフ会が一般的になっていく
一部の業界やカテゴリだけで使われていた専門用語や表現を、若者が使いはじめ、一般化することはよくある。
・フラグ(元はプログラミング用語)
・エモい(元は音楽用語)
・ワンチャン(元は麻雀用語)
など、例を挙げればキリがない。
これは言葉だけでなく、行動にも同じことが言える。
ゲーム業界では以前から「オフ会」というイベントがあった。
これはオンラインゲームなどの仮想空間(オンライン)で知り合った人と、現実世界(オフライン)で会うことを指しており、かつては一部の世界の習慣、とされていた。
しかし今、「出会いの初手はオンライン」が当たり前になりつつある。
かつては入学式で出会い、仲良くなってオンラインの連絡先を交換するという流れが「当たり前」だった。
しかし今、これが逆転しつつある。
例えば大学生は入学前から #春から**大学 のようなハッシュタグを活用してSNS上で交流を持ち、気が合った人とオフラインの場でもつながるようになった。
これは学生に限ったことではなく、出会いの新しい形としてスタンダードになったマッチングアプリも同じ構造だ。
オフラインで会う前に、オンラインで交流してみる。
オフ会は今後一部の世界の習慣ではなくなり、コミュニケーションの基本的な流れに組み込まれるだろう。
取材ではこんな話をした。
すると記者さんは訝しげな表情をして、僕に1つの質問を投げかけた。
■素顔にそんな機能は備わっていない
「小島さん、効率的なオンラインのコミュニケーションが基本になることは分かりました。では、膝を突き合わせて話すようなオフラインのコミュニケーションは廃れてしまうのでしょうか?」
でた。
冒頭にも登場した「膝を突き合わせて話す」という表現。
膝を突き合わせて話す、とは互いの膝が触れあうほど近くに座って話すこと。
「真摯に向き合って話し合う様子の象徴」として使われるこの表現では、オフラインの距離感をもってこそ、それが成立するとされている。
よくある質問だったが、この時だけは妙な違和感を覚えた。記者さんの質問にすぐ答えるのはやめて、一拍だけ考えてみた。
あれ、これってアンコンシャスバイアス(無意識の固定観念)かもしれない、と気づいた。
・効率的なオンラインのコミュニケーションが台頭する
・膝を突き合わせて話すような(オフラインの)コミュニケーションが廃れる
この2つをセットだとを、私たちは無意識に思っている(人が多い)。
その背景には
「直接会って、顔を見せて話すのが本当のコミュニケーション」
という無意識の固定観念がある(少なくとも、僕にはあった)。
本当にそうだろうか。
顔を出せば本当のコミュニケーションになる?
本来、素顔にそんな機能は備わっていないはずだ。
むしろ発言の中身を表情でカバーしたり、カモフラージュできるという点においては「本当のコミュニケーション」から遠ざかっている、と言えるかもしれない。
つまり
・オンライン(デジタル)で、アイコンだからいまいち信用できない
と
・オフライン(リアル)で、素顔だからちゃんと信用できる
は「見た目に惑わされている」という点で両者とも「本当のコミュニケーション」から遠ざかっているのではないだろうか。
記者さんの質問に答えず、僕はそんなことを考えていた。
■判断の順番が、本質的になっていく
自分の頭が整理できたところで、記者さんの質問に改めて回答した。
「○○さん、オンラインのコミュニケーションが台頭して、オフラインのコミュニケーションが廃れるということはありません。要は順番が変わったということなんです。それによって、むしろオフラインの価値は高まっていくでしょう」
順番が変わった、とは情報公開の順番のことだ。
オフラインが出会いの初手だった頃は、どんな相手にも最初から素顔や表情などの情報を公開する必要があった。
一方、冒頭のようにオンラインが出会いの初手になれば、最初から素顔や表情などコミュニケーションの付随情報を公開する必要がなくなる。
「見た目」という情報に捉われず、発言や(オンライン上の)振る舞いなどで自分との相性を確認し、信頼関係ができたら徐々に素顔などの付随情報を公開していく。
つまり「オフラインでのコミュニケーション ≒ 自分のスクリーニングを通過した人」となり、オフラインでのコミュニケーションはよりポジティブなものに変わり得るだろう。
僕は記者さんにそう回答し、取材を終えた。
もちろん、オンラインが出会いの初手になったことで、
・顔や表情が見えないから不安
・信用に足るかの判断材料が少ない
といった懸念は残る。ただ、それ以上にオンラインでの出会いは「便利」だ。
「便利さ」は不可逆であることが多い。多少の寄り戻しはあるかもしれないが、出会いの初手がオンラインからオフラインに戻る可能性は低いだろう。
だったら「あの頃はよかったな」と懐古主義的になるのではなく、変化をポジティブに捉え、無意識のバイアスを壊していく必要があるのではないだろうか。
そう考えながら、実名と実写でSNSをはじめてしまった自分を少し後悔した。
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