就活のAI活用以前に、ESと面接はそもそも精度の低い選考ツール

AIでよく見せようとする学生と本質を知りたい企業

生成AIの普及は私たちの生活を大きく変えている。生成AIが普及を始めた当初、まずは学校教育での混乱が起きた。学生が課題やレポートを作成するのに生成AIを使ってしまい、学びにならないという問題だ。既存の教育方法では、生成AIで楽をする学生に対処できなくなってしまった。
加えて、生成AIの性能が上がるのにあわせて、出来栄えを見抜くこともできなくなっている。特に、外国語の授業では顕著で、ペーパー課題では完璧なのに面接では全く駄目だというケースが多くの教員の頭を悩ませている。それではビデオ提出させるかというと、やろうと思えば音声翻訳AIが本人の声を学習して、外国語で話すこともできてしまう。現状では、そこまで使いこなせる学生はそれはそれで優秀だが、もう少し時間がたつと誰でも使える世の中になってもおかしくない。
このような生成AIの活用で、ただしく相手の能力を評価できないという問題が様々な領域で起きている。学校教育以外の場で深刻なのは採用の場だ。
日経新聞の記事によると生成AIでズルとする学生と企業でいたちごっこが起きているほか、企業側もAIの活用が過剰に行き過ぎると倫理問題に発展しかねない危険性もでている。数年前に某社がAIで「内定辞退率」を計算し、学生の同意なしで企業に販売していた問題が起きたが、同じような問題は今後、いつ起きてもおかしくない。
AI関連の技術が進歩する中で、企業と個人の双方の倫理観を問われる事態が起きている。

AIは既存の採用を見直す契機

一方で、生成AIの普及は日本企業にとって既存の採用手法を見直し、大幅にアップグレードする契機でもある。というのも、多くの企業が似たような採用手法を選択し、尚且つ、硬直的だという問題が古くからある。

多くの企業が用いる採用のプロセスはおおよそ以下の通りだ。

求人サイトに広告を載せる ⇒ 求職者の応募を集めて母集団を形成する ⇒ 書類選考&適性テストで面接可能な人数まで削る ⇒ 面接を複数回繰り返す ⇒ 内定

採用手法としては、書類選考・適性テスト・面接という3つのパターンしかない。新卒採用の場合には、たまにグループディスカッションが入ることもあるが、グループディスカッションを選抜ツールとして用いるのは本来は高度な評価者訓練が必要になるが、そこまでのコストを用いている企業は少ない。そもそも、面接ですら、面接官トレーニングにコストをかけなくては選抜の精度が著しく下がるが、そこもコストをかけることが難しい企業がほとんどを占める。
つまり、科学的には精度の低い手法で、なんとか人材を見抜こうと四苦八苦しているという課題が日本企業の採用プロセスには構造的に潜んでいる。

選抜の精度を高める方法は単純だ。基本原則は、実際の業務に近い状況を作り出して、疑似的に業務に従事してもらうことだ。しかし、これまでは実際の業務に近い状況を疑似的に作り出すには大きなコストが必要だった。そのため、現実には難しいという事情があった。加えて、日本企業の特殊性として、新入社員に任せる仕事を採用後に決めるため、入社前に職務内容が決まっていないという問題があった。いわゆる、人材に職務を割り当てる「人に仕事をつける」文化によるものだ。職務に人材を割り当てる(「仕事に人をつける」)欧米では生じない問題だ。
だが、ジョブ型雇用が日本でも進むと、この問題も解消するだろう。そもそも、3~5年間隔のジョブローテーションで身に着けることができる専門性の程度で付加価値を生み出せる時代は過去のものになりつつある。

テクノロジーを活用することで、疑似的に業務を仮想空間に作り出すことはコストをそこまでかけずとも可能になる。特に、ゲームをうまく活用することで採用手法は自由度が跳ね上がる。ゲームの利点は、現実ではコストのかかる状況を低コストで再現し、尚且つ何度も繰り返すことができる点だ。

テクノロジーの発展が目覚ましい中で、変化のスピードに慌てるのではなく、契機ととらえて、採用プロセスを進化させてほしい。

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