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リモートワーク効果の検証方法について~ビジネスは実験的であるべきだ!~

 リモートワークを導入する企業が急増しています。しかも、下記の記事にある通り日本だけではなく、アメリカなど世界中で広がっています。ただし、全ての職種や業種でリモートワークが生産性にプラスになるとは考えにくいです。どのような職種や人だとリモートワークが生産性に繋がりやすいのかを、経営者やビジネスパーソンは考えていく必要があります。経済学の世界では、リモートワークで生産性が改善する職種と、そうでない職種についての実証研究論文も存在します。しかし、各企業がリモートワークを生産性につなげられるかは、そうした先行研究を参考にするだけでなく、自ら検証することが必要になるでしょう。今回は、リモートワークの効果検証を行うために、どんな検証方法があるかを、計量経済学の視点から紹介していきます!

*効果検証の課題とは?

 リモートワークの導入など、何らかの施策効果を客観的に測定する方法を考えてみましょう。例えば、リモートワーク後に生産性(一人当たり労働時間、創出アイディアの件数、ローンチした案件個数…etc)を測定し、その生産性をアウトカム指標と定義し、リモートワーク後の生産性の高低で効果の大きさを確認する手法が考えられます。しかし、この手法では大きな課題が残ります。

 例えば、リモートワークの前後で生産性がどう変化したかに注目することを考えてみましょう。ある企業が、リモートワーク前の生産性が10とし、リモートワーク後の生産性が20に増えているとします。ここでは、リモートワークによる生産性への効果は10あると考えられます。しかし、この手法は、リモートワークの効果があったかを客観的に判断するには課題が残ります。なぜなら、リモートワークに以外の要因で生産性が向上している可能性があるからです。生産性は、景気、企業の資金繰り、各従業員の住環境、インターネット環境、個人の能力…等によっても変わるためです。

*客観的に効果測定をするために

 そこで更なる客観的な効果測定の方法として、リモートワークを行った従業員と、リモートワークを行っていない従業員を比較することが考えられます。具体的には、効果の大きさを計測したい分析対象としてリモートワークを行った従業員によるトリートメント群(treatment group)、その比較対象としてリモートワークを行っていない従業員によるコントロール群(control group)を設定します。両グループにリモートワーク前後の2時点で生産性を提出してもらい、トリートメント群とコントロール群のプログラム実施前後の生産性の差(diffrence:D)を算出し、さらにその差について2つの群の差(diffrence:D)をみることで、リモートワークの効果の大きさを判断します。こうした方法を差の差分析(difference in difference analysis)あるいはDD分析といいます。ここで識別される効果を平均処置効果(Average Treatment Effect:ATE)と呼びます。

具体的な方法を説明するために、以下のような単純な例を考えてみます。例えば…

1)リモートワークを行う従業員の方の生産性において:①当該企業がリモートワーク導入する前の生産性65と、②当該企業がリモートワーク導入後の生産性80、③①と②の差の20

2)リモートワークを行っていない従業員の方の生産性において:①当該企業がリモートワーク導入する前の生産性40と、②当該企業がリモートワーク導入後の生産性40、③①と②の差の10

3)リモートワークを行う従業員の方と、リモートワークを行っていない従業員の方の生産性の差:①当該企業がリモートワーク導入前の生産性の差35( 1①-2①=65-30)、②当該企業がリモートワーク導入後の生産性の差40( 1②-2②=80-40)、

4)平均処置効果:3)の①と②の差=35-40=5

となり、リモートワークによる生産性改善度合いは「5」となります。このような手法をとることで、単に被験者だけのリモートワーク前後の数値を比較するだけでなく、景気など生産性に影響しうる要素を省き、リモートワークによる生産性への影響を客観的に検証することが可能になります。もちろん、このDD分析にも課題はあります(対象サンプルの選び方など)。しかし、まずは効果検証の一丁目一番地の、DD分析を企業内の効果測定に導入してることで、データ解析の精度を上げる入り口にするのはどうでしょうか。学術界の実験で導入されるような客観的なデータ解析結果を用いることで、より精度の高いトライアンドエラーを繰り返し、ビジネスがより発展するきっかけになればと思います。加えて、すごい効果があるよ!という誇大広告にも惑わされにくくなるのかも!?

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

応援いつもありがとうございます!

早く事態がおさまり、社会、経済、金融市場…すべてに平和が訪れますように。

崔真淑(さいますみ)

*タイトルの画像は、崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』より引用。無断転載はおやめくださいね♪

*参考文献:山本勲著『実証分析のための計量経済学』(中央経済社)  森田果著『実証分析入門』(日本評論社)




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