誰も代わりに考えてはくれない。”ずっと”がない時代の働き方と暮らし方
この問に対して、どれぐらいの方が、答えを持っているだろうか?
ひとまず今、この質問に私が答えるならば、『ずっと都会で働かないし』『ずっと地方で働くこともない』である。
暮らしたい場所は、自分で決めたい。
『ずっと都会で働かないし』『ずっと地方で働くこともない』私は、その時々の働く場所を、自身の興味や家族や仲間の状況に合わせて選びたい。
働き盛りの20代前半は100%都会での暮らしを楽しみ、視野を広げたい30代は、都会と地方のバランスを9:1でとりたい。今後は、都会と地方と海外と、3拠点をフィールドに仕事ができたらと夢見ている。子供の成長も合わせ、どうデザインしていくかは分からないが、今は根拠もなく出来る気がしてワクワクしている。
コロナ禍になる前も後も変わらず、私はひとつの場所にずっと留まる仕事はしたくないと強く思っている。長年、そう思いすぎた結果、『暮らしたい場所は、自分でデザインする』という考えは、私の中で強い信念のようなポジションを取り始めている。
『Uターンしなさい』への拒否反応
そんな確固たる信念が生まれたのは私の生い立ちが関係している。
農家の娘に生まれた私。家の周りには、(後を継がなくてはいけない匂いがする)田畑が広がり、子は跡取りとして育てられている。
自身の両親や祖父母からは、『この家を継ぐんだ』『いい大学に出なさい』そして『富山に帰ってきなさい』という言葉を浴びるほど聞いていた。そしてお盆や正月になると親戚からも、この言葉が投げかけられてくる。
この言葉の意図をしっかりと消化できない多感な時期に、たくさん聞きすぎたせいで、私は『帰ってきなさい』という言葉に拒絶反応を持つようになった。
日本には、世界にはたくさんの素敵な場所があるのに、なぜ一つの場所に留まらないといけないのか。
一度しかない自分の人生は自分のもの。それなのに、住む場所を誰かに指示されるのはナゼなのか?どうして帰らなくてはいけないのか?
この問を考え続けた結果、私は『Uターン』や『移住』をしないと心に決めた。(人生の時間の10%をふるさとに使う『10%for HOME』は実施中)
そう決めてからは、自身が仕事を選ぶときは、それが完全フルリモートで行えるか確認する。どんなに素敵な団体でも、対面でのコミュニケーションが重んじられる方とは、ご縁がない。そう思うようになっていった。
都会にもいたいし、地方にもいたいを、そのまま受け止めてほしい
私が2拠点生活を始めた2018年では、”移住”も”Uターン”もしない2拠点居住者は、(よくわからない)中途半端者と見られることも多かった。
『なぜ、家賃が高い都会に住み続けたいの?』
『富山は住みやすいよ、帰ってきたほうがいいよ』
などなど、いろいろな言葉を受け取ってきた。
都会にもいたいし、地方にもいたい。そう思う自身の存在を、そのまま地方の方に受け止めてほしい、そう思って悶々していた時がある。
そのときに私は、自身の心を軽くしてくれる言葉に出会った。それは、農学者として、元信州大学で教鞭をとっていた玉井袈裟男氏の「風の人、土の人」という考え方だ。
玉井 袈裟男(たまい けさお、1925年 - 2009年)は、日本の農学者、社会教育指導者、信州大学名誉教授。農村における実践経験に裏付けられた独自の実践的風土論を軸として、長野県を中心に、各地の農村における地域おこし、社会教育にたずさわり、農産物等、様々な特産品の開発にも関わった。
風土論では、「自然界」のものを「人」の性質に例えて表現している。
風は、遠くから理想を含んでやってくるもの。
土は、そこにあって生命を生み出し育むもの。
以前は、『風』は旅人、『土』は地方の人という分け方をしていたが、改めて時代に合わせて読み返してみると、私は『風』と『土』。この2つの性質は一個人の中に同時に存在していると考えるようになった。
今の自分にないものを求めるときは、風のように旅をして暮らしてみる時間があってもいい。一方で、仲間と一緒に変化を生み出そうとする時は、ひとつの場所に根付くことも尊い。
昔はできなかったが、今はデジタル(IoT)の力を活用すれば、一つの場所で何かを生み出し、同時に風のように旅をすることは両方実現できる時代になった。
人生に「ずっと」はない。
人は変化する。移動することで変化できる。
人生100年時代。人の寿命より仕事の寿命のほうが短い時代になった。自身がずっと働き続けられる仕事を見つけることは決して簡単ではない。終身雇用を提供してくれた企業が人生全てのキャリアを提供してくれる時代は終わってしまった。
今、いる場所での仕事を頑張りながら、理想を求める風のように、少しの時間を都会で、もしくは地方で暮らす。
変化する人こそ自分らしい生き方ができる時代。だからこそ、そのきっかけに、無理のない旅や移動、地域での暮らしを取り入れていってほしい。『Uターン』や『移住』でなくてもいい。
小さくも、行動することで、非日常の中から、自分らしさが見てくるのではと思ったりする。