カンファレンスは終わっても「働くのこれから」はこれからも続いていく
At will work が主催する、働き方を考えるオンラインカンファレンス「働くのこれから」を視聴した。
私自身は働き方や人事・労務の専門家ではないし、約5年前に自分が会社を辞めるまでは、働き方について考えることはあまりなかった。日々の業務の進め方や、どんな新しい企画・提案をしようかということに意識を使うことはもちろんあったけれども、自分の働き方については、あまり関心がなかった、ということだろう。
そんな自分だったが、会社を辞めるきっかけとなったのが、働き方改革の一つの出発点とも考えられている、電通での若手社員の自殺問題だった。これによって私が当時所属していた会社の新たな事業に関する動きが事実上ストップすることを余儀なくされ、自分が手掛けるはずだった仕事も当分の間は前に進む見込みがなくなり、無為に待ち時間を過ごすよりは、と思って会社を辞める時期を早めることになった。
そのようなわけで、自分が会社を辞めることに決めて以来、働き方はどうあるべきか、あるいは自分の働き方や仕事をどのように組み立てていくか、ということは、常に関心の一定の割合を占めている。
今回のカンファレンスで一番印象に残っているのは、クラシコムの青木さんが「働き方の分断がはっきりしてきた」という趣旨の指摘をしたことだ。働き方改革の推進に伴って、例えば副業解禁であったりリモートワーク推進であったりといったことが取り沙汰されているが、実はこうした動きに柔軟に素早く対応している企業とそうでない企業に二極化してきている、ということだと思う。自分が働いている会社の環境が当たり前になってしまうと、もう一方の働き方をしてる人たちのことが分かりにくくなってしまうが、現在の日本はこの二つの両極化した働き方に分断が進んでいる状態と考えることができる。今冬の2度目の緊急事態宣言中に、昨春の緊急事態宣言中では考えられないほど混雑した東京の通勤電車に乗ってびっくりしたが、これも分断が進んでいることを象徴的に表していると思った。政府が、どちらの時期にも7割の外出自粛やテレワーク実施、という目標を掲げているにも関わらず、こうなっているのだ。民間企業もさることながら、省庁が事前通告ありで調査しても目標に満たないところにも、根深い問題を感じる。
一方で、テレワークを積極的に導入している企業では、都心オフィスの縮小や撤退に動いているところもあり、非常に対照的だ。
また、働き方の制度面もそうだが、仕事のツールについてもここ5年ほどの間にも大きく充実したと、COMEMOのKOLの江頭さんがカンファレンスの中で指摘していた。たとえば、クラウドを活用した各種サービスについては、情報セキュリティに対する考え方の違いもあって、利用できる企業とそうでない企業がこれもやはり二極化している。また、添付ファイルとパスワードを別メールで送る、いわゆる「PPAP問題」も、このツールの問題の範疇に入ると考えてよいだろう。
こうしたツールの充実と利用については、例えば過去のパソコンの普及やスマートフォンの普及の時期においても、会社が社員に支給して使わせるかどうかということは常に議論になってきていたと、当時会社員であった私も実感を伴って記憶している。パソコンにしてもスマートフォンにしても、使わせることで社員が仕事をしなくなるとか、仕事以外の目的で使うのではないかという議論が必ず起きるが、後から振り返ってみれば、こうしたものを使わざるを得ない状況になっているということは周知の通りであり、導入を躊躇した企業はその分だけ遅れをとっている。
遅かれ早かれ対応することになるものであれば、早く導入してしまえば良いと思うのだが、おそらくこれは日本の経営者層の主流が年長者であり、自分の任期を無難に、つまり変化なく勤めあげることに大きな力点が置かれているせいであろうか、変化に対しては常に慎重な会社が多くなってしまう。副業解禁といった制度変更も、厚労省がモデル就業規則を改訂した(しかも3年前に)のであるから変化することが既定路線だと思うのだが、若手が求人に集まらなくなってはじめて、重い腰を上げる企業が多いのだろう、と予測している。
カンファレンスの最後に、この5年間常にゲストであったという自民党の世耕議員が「自分の人生を自分で決めることが重要である」という指摘をしていたが、これはその通りだと思う。
私自身も、この5年で会社に所属して仕事をするのではなく、自分で独立して仕事をする形に変わった。この変化はとても大きなものであり、自分に必要な生活の糧を自力で稼いでいくということは、会社に属していた当時を思えば簡単なものとは言えない、ということも実感としてわかっている。一方で、仕事そのものに対する自分の向き合い方や考え方などは、会社員であった当時からの連続性を保っており、変わりがないとも感じている。
現在の自分の仕事のあり方や生活のあり方は、自分の選択によって決定したもので、その点において、自分の力の及ばないところで自分の仕事や生活が決められてしまうストレスから解放されたことは事実である。一方でそのトレードオフとして安定ないしは安心感を失ったこともまた間違いがない。複業と言っていいスタイルで仕事をしているのも、積極的に言えば自分の様々な興味関心に素直に従うということであるが、消極的にいえば仕事をポートフォリオ化することで安定的な収入を得るため、という両面がある。
くしくもこのカンファレンスが開催された5年と、自分が独立して働きだした時期が重なっているのでとても感慨深いのだが、このカンファレンスが5年で一区切りを迎えたからといって、働き方が変わり続けていくことが終わるわけではない。むしろ、これからの方が、多くの日本人にとって働き方が本格的に変わり始めるのかもしれない。今にして思えば、これまでが変わらなさすぎたのだ、と思う。
課題だと思うのは、こうした動きがあることは情報としては知っていて頭では理解しているけれども、実際に自分のアクションとして動けないでいる人たちをどうするのか、というところにあるように思う。
自分も会社を辞めてみてその課題に気がつき、2年ほど前から Facebook グループ「人生後半戦の泳ぎ方」で関連記事にコメントをつける形での情報提供を始めているのだが、この問題になかなか終わりは訪れないという気がするのが本音である。
そんなことを考えていた矢先に、グループにも参加して頂いており、以前副業についての相談を受けた知り合いから、いよいよ副業始めましたという連絡をいただいた。船出に例えるのであれば、船が港を離れるまではなかなか踏ん切りもつかず大変かもしれないが、一旦船が岸壁を離れてしまえば、次の寄港地までは否応なく船を動かし続けなければならない。つまり、いやがおうにも自分が様々な状況に対応する経験をせざるを得なくなる。ごく短い「航海」でもよいので、一度船を港から出してみることで大きく自分の経験値がアップすることは間違いがない。
それは副業を経験することかもしれないし、あるいは地域活動を行うとかボランティアを手伝うということかもしれない。いきなり転職や独立をするのはハードルが高いだろうが、小さなことからでよいので、新しい経験をし、働き方について考える機会を作ることが、多くの人にとって必要な時期が来ている、というのが会社を離れて5年目の実感だ。