地元が128個の公式アカウントを乱立していたことに絶望しながらSNSとPRについて語る
(1)滋賀のSNS活用が本当にしんどい件
先日、こんな記事を読んで愕然としました。
滋賀県が持っている県公式のアカウントが128個あるらしいです。128個!そのうち僕が知ってるのってせいぜい数個で、その数個もうまく活用できてるという印象がほとんどありません。暗澹とした気持ちになりました。特にこの部分がきつい。引用入れますね。
インスタグラムのアカウント「shiga_covid19vaccine」は、新型コロナウイルスワクチンの接種呼び掛けに活用しようと、県ワクチン接種推進室が昨年8月に取得した。だが、投稿は2件にとどまり、現在は放置されている。同じ時期に同名のツイッターアカウントも取得していたが、投稿は1件もないまま今月18日に削除した。(上記記事より引用)
無料で簡単にSNS作れちゃうので、予算考えずに作る。「SNSさえ作ったら若者たちが見てくれるだろう、だって若者はSNS大好きだから!」そんな安易な思惑が透け透けに見えてくる感じの、見通しも何にもないPR戦略の無さが、この128個の幽霊アカウントから浮き彫りになります。もはやSNSの墓場ですね、滋賀県。
そしてこのような状況って、官公庁だけではなくって、企業さえ滋賀県はそんな感じのところがあります。例えば僕は、年始にこんな投稿をしました。
大津駅前に「大津はまだバズってない。だから、お願い!バズらせて…」という、かなり攻めたポスターが掲げられていたのがきっかけです。気になって調べてみたら、なんと大津駅自体が考案したポスターでした。Yahooニュースになってるやん!!
このニュースを読んで、「よっしゃ、いい感じでニュースになってるし、多分これは色々と後を考えての取り組みかもしれん。いっちょやったるか!」と思って、友人たち(合計フォロワー100万超えてそうな、いかつい友人たち)にも頼んで上のツイート拡散してもらいました。万バズとか10万バズとは言わずとも、一応小さいバズにはなったはずです。
当該ツイートのインプレッションは192万なので、それなりの人の目に届いてます。エンゲージメントも6万弱。悪くない。よしよし。
それから1ヶ月経ちました。本日2月1日。ツイート出して以降、後に続く何のフォローもありませんでした。全く、何にもつながらなかった。虚無。いま僕、虚無を見てますよね、ほんと。ニーチェに言われなくても、虚無見つめすぎて怪物なりそう、マジで。
「大津をバズらせて」と言うからバズらせてみたのに、せっかく情報が拡散したタイミングでフォローが何ひとつない。何だこれ、何のためにバズったんですか?情報駆け回って、「いいね!」で消費、それだけ?典型的な「虚無のSNS消費」そのまんまやん!!
これ、ほんと意味なくって、最初に例に挙げた滋賀県庁のSNSの下手さと共通した、根っこの部分のまずさがあるんです。つまり「SNSを使う上でのPR戦略が全くない」ってことであり、そして「SNS使えば(あるいはバズさえ作れば)PRは大成功」という、視野狭窄&時代遅れの感覚です。もはやそれは3年前で終わってて、2022年現在においては、SNSはロングテールを志向して使わなきゃ意味がないっていう意識が、滋賀県にも大津駅にも全くありません。いや、あるのかもしれないけど、伝わってこない。そして伝わらないバズとか、結果が続かないPRって意味ないんですよね。
ていうかね、愚痴らせてもらっていいですか?大津全然バズってるんです。大津駅の人は知らなかったかもしれないけど、僕何十回も大津でバズらせてもらってるんです。てか、僕だけじゃない。僕のいかつい写真仲間たちも、それこそ何百回と大津バズらせてくれてるんです。例えば下のツイートなんて、インプレッション520万ですよ。正真正銘のバズです。頼むから、SNSでPRする前に事前情報くらい集めて、頼む!!それが出来ひんのやったら、頼むからちゃんとした広告代理店入れて!な!
方や税金を使うことのできるお役所のお仕事、方や日本のインフラの大動脈であるJR。両者ともに一般の私企業とは比べ物にならない人材もリソースもあるはずなのに、SNSやPRのことを全然真面目に考えてない。だから冒頭に書いたように、暗澹となったわけです。僕の地元ですよ、ここ。普段からSNSとかPRの大事さを切々と書いてる僕の地元が、全然運用できてない。絶望で死んじゃいそうです。
(2)鳥取県大山町はマジですごい
では、全ての官公庁や大企業がそうかというと、全然そんなことないんですね。例えば僕が関わらせていただいた中では、同じ滋賀県でも長浜市さんはすごく大事にSNS運用されてる。去年の頭に行った小笠原の観光事業は、未来を見据えた素敵な試みでした。兵庫県香美町もとても丁寧に丁寧に事業を進められてたし、僕の地元の大津市も、JR大津駅の例は残念だったけど、大津市役所の観光振興課はがんばってらっしゃるのをよく知ってます。
個々ではめっちゃがんばってるところ多いんです。
中でも最近特に深く関わらせていただいた例を一つ挙げますね、鳥取県の大山町の取り組みです。大山町からご依頼を受けて、今年の冒頭にこんな動画を作成しました。
元々は「自治体と大学の連携ができればいいなー」くらいに考えてたんですが、大山観光局さんとミーティングを重ねるうちに、自治体と大学という、全然トンマナが違う両者でありながら、同じ問題意識を共有していることに気がつきました。それは
「一過性のバズを作っても仕方がない」
ということでした。上のツイートに連ねる連続ツイートの中で、僕はこんなことを書きました。
この中でも特に僕が自治体案件で強く意識するのは、この部分です。
地方をPRするというのは、短いスパンで考えることではなくて、それこそ10年単位くらいの長期の視野で、ゆっくりと広くて硬い地盤を作るようにして築き上げていくものです。長く関わってくれる人たちをどれだけ生み出すことができるのか、つまり意図を持った「関係人口の創出」が、地方の命運をこれから変えていく。だから、一度何十万のバズを作ったところで、毎日どこかで何十万のバズが起こる今の世界においては、全く意味がない。お金のかけどころはそこじゃない、というのが、大山観光局さんとの共通意識でした。
だからこそ、将来にまで残っていく形でいろんな種を蒔いていこう、そのための準備を今から始めようということで、上の動画を作って形にしました。そしてさらに、「若者だから高価な機材ではなくて、今ならスマホで撮るだろう」という観点から、Googleさんにこれらの意図を説明したところ、大変快くサポートに入ってくださいました。超大企業だけど、超フッ軽企業ですよ、Google。やばい。
こうして、最初は「自治体と学生でなんかできたらいいなあ」というくらいのぼんやりとした思いつきだった話が、あれよあれよという間に、しっかり未来を見据えた「産官学連携」の枠組みとして機能し始めたのが、2022年の頭だったんです。
この鳥取県大山町&Google&関西大学の取り組みは、未来を見据えて展開され始めたものであって、そこには「どうやってSNSやインターネットを使えば、未来につながるだろう」という、極めて深刻な問題意識が根っこにあります。この意味で、ネットワークの王者であるGoogleさんに参加してもらったのは、二重の意味での「SNSとPRの未来」へ向けた布石になるはずであるということも、今回考えたことでした。
ここまでやっても、この目が未来に芽吹くかどうか、せいぜい1割もあるかといったところです。いや、1割もないかもしれない。それでも、大山町というのは、極めて意識的に、長い目線で地元をPRしていこうという意志を持って、今回の事業を始めてくれました。そのような意志があれば、今回の試みが上手くいかなかったとしても、いずれ次に繋がる道をどこかに作ってくれるもんです。
そこから冒頭の問題に帰ります。滋賀県は128個のSNSアカウントを作って何がしたかったんだろう?JR大津駅は、「お願いバズらせて」といって、実際バズって、何がしたかったんだろう。それを伝えるべきコンセプトも、ロングテールの視野も、全くみえてこない。見えてくるのは「SNSさえ使っときゃいいだろう、無料だし」とか、「バズらせたらお客が来てくれるだろう」とかいう、極めて視野狭窄した、未来のない、虚しい「SNSのダメな活用」の実態だけです。
(3)「SNSだけ使えばいい、バズればいい、インフルエンサー使っときゃ良い時代」の終焉
上にも書きましたが、SNSだけ使っておけば若者が見てくれる時代は、5年前に終わりました。SNSでバズったらその後観光地が自走して人がいっぱい来てくれる時代も3年前に終わりました。そして1年前ほどから、インフルエンサーがただインフルエンスを行使すれば商品なり観光地なりが人気になる時代も終わりになりました。その理由はたった一つで、SNSにおいて、「数の持つインフルエンス」が飽和しているからです。別の言い方をすると、何度も言っていることですが、全てがコモディティになったからです。商品も、情報も、観光地も、インフルエンサーも、全てがコモディティになりました。
物も場所も人も、「他の誰でも何でもいい時代」が、2020年代に入って来てしまってるんです。高品質が当たり前だから、特定のバズにこだわる必要なんてない。バズっても、もうほとんど意味がない。
その代わりに必要になってくるのは、長い視野でで見たSNSの活用や、戦略的に意味を持ったPRの作成です。それは一言で言うと、「語り継がれるストーリー」をSNSやPRの中にしっかり埋め込んでいくと言うこと。
注意しなければいけないのは、その「物語」でさえ、もはや定型が溢れかえってコモディティになっているので、安易なエモエモ系ストーリーなんて、もはや誰も見てくれないってことです。もちろん一瞬はバズったり話題になったりするかもしれませんが、見てから3時間後には、似たような何かで書き換えられて、本来伝えなければならなかった「モノ・コト」の重要性は、他の何かの中に紛れて忘れ去られてしまいます。
だから息の長さが必要なんです。何かをやる、何かにお金をかけると言う時には、その時間と金をかけるだけのちゃんとした意味と、その結果を受けて都度、軌道修正しながら、未来へとつなげていくロングテールの活動が必要になってきます。なぜかというと、そのような「息の長さ」は、コモディティになり得ないからです。コモディティの大波は、極めて高速で回転していく時は、全てを同質化していく凶悪な潮流を作り出しますが、ゆっくりと長く時間かけて作られたものに対しては、実は驚くほど簡単に跳ね返されてしまう。
そのような意識を強く持って取り組んでいる自治体は、上に挙げた鳥取県大山町だけではないんです。この記事を見てください。
奈良県の自治体が、どれほど真剣かつ息の長いSNS活用をしているか、如実にわかる記事です。だって、人口の何倍ものフォロワーを各市町村のSNSが持ってるんですよ?凄すぎます。この記事の中の下の引用が、実に僕には痛いです。
戦略的に取り組む自治体がある一方で、都道府県別でみた関西2府4県のSNSフォロワー数は全国の中では低調だ。人口比のフォロワー数で全国平均(6.6%)を上回るのは奈良県と和歌山県だけ。大阪府と滋賀県は全国平均の半分以下にとどまる。市町村の間でもSNS活用の温度差は大きい。(上記記事より引用)
ほら、ここでもきました。「大阪府と滋賀県は全国平均の半分以下にとどまる」。記事を見ると数字入りの表があって、それがまたつらい。滋賀県は実に、関西で最下位なんです。SNSやPRに対する意識の差が、効果に2倍以上の差をつけてる。数字は残酷なほどに、事実を突きつけてきます。
もちろん、そもそもの大前提として「SNSをPRで使うことに意味があるのか」とか「観光よりももっと別の事業にお金使うべき」と言う疑問はあります。でもSNSやオンラインのPRは重視しないというならば、128個もアカウント作るのに費やしてほぼ無駄に終わった時間や労力のリソースを、ちゃんと別のことに回すべきなんですよね。
そして、それは僕の地元滋賀県だけではなく、おそらく今後全国の自治体や、あるいは中小企業の大きな課題になっていきます。PR TIMESでPR出して満足してちゃダメなんです。一つのバズで、朝のニュース番組で取り上げられるのを喜んでちゃダメなんです。違う違う、そうじゃない。そうじゃなくって、そうしたバズやらPRやらが、一体何を目的としていたのか、そしてそれはどんなふうに未来につながっていくのか、そのために何が必要なのかと言うことを、多くの人を巻き込みながら長い視野で考えていき、そして一つのネバーエンディングストーリーを展開していくこと、これが大事。それが一番大事。
語り継がれる「物語」を作り上げるために、それに参与してくれる関係人口を増やしていく。それこそが、縮小していく経済規模や人口という問題を抱えている日本において、生き残っていくために必要な戦略なんですね。
ということを、今日は暗澹たる気持ちでお伝えします。128個のアカウント作ったりとか、大津駅バズらしてもしゃーないんやで、ほんま。大事なんは「その後」なんや...
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