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AI婚活の可能性と限界。かつてクルマが恋愛に不可欠だったわけ

このニュースが話題になっています。

政府は来年度から、少子化対策の一環として、AI(人工知能)を活用した自治体の婚活支援事業を後押しする。年齢や年収などの希望条件に合わなくても、相性の良い見合い相手をAIで選び出すことで、婚姻数を増やし、少子化を食い止める狙いがある。

このニュースを見て、漫画「恋と嘘」を連想した人も多いと思う。このお話は、「少し先の未来の日本では、超・少子化対策基本法(通称:ゆかり法)により16歳になると、政府から「国民の遺伝子情報に基づいて決めた」結婚相手が指名される世の中になっていた」というもの。

これだけ聞くと、一見良さげで、恋愛弱者のための救いの施策だとか歓迎する人もいるかもしれないが、とんでもない。漫画は虚構なので、登場人物は皆かわいいわけだが、現実はそうとは限らない。恋愛弱者ほど「自分のところにアイドルみたいなかわいい子が来る」と妄想しがちだ。

というより、圧倒的に美男美女の比率は低いわけで、男女とも紹介された相手を気に入る確率の方が低い。しかし、これは、個人の「気に入る・気に入らない」なんて一切関知しない。「満16歳以上の少年少女は自由恋愛が禁止となり、指名された相手を拒絶することはできない」のだ。隣の男にかわいい子が来て、自分のところがそうじゃなかったとしても拒絶できない。そんな世界を望みますか?

今回のニュースは、当然ながら、人間性を否定するこんな国家管理的全体主義みたいな話ではない。とはいえ、ツッコミどころは多々ある。

AIを活用したシステムでは、趣味や価値観などの質問への回答やシステム内の検索傾向などを基に、「自分に好意を抱く可能性のある人」を割り出し、提案することが可能だという。

と記事にはあるのだが、なんでもかんでもAIと言えば済むと思っているが、大体こういう系のAIなんて心理テストに毛が生えたレベルで、それをAIとは言わないものが多いはず。

「自分に好意を抱く可能性のある人」というが、一体その基準はどうやって決めるのだろうとすら思う。官僚は理屈で人を好きになれると本気で思っていそうだし、事実そうなのかもしれない。

百歩譲って、本当の優れもののAIで「自分に好意を抱く可能性のある人」を提示してくれるとしよう。

「あなたに好意を抱く可能性のある方は以下の通りです」
→該当者が見つかりません

とか出てきて、絶望するか、スマホを投げつけて叩き壊す人が大勢出そうだ。

こんなもの、結局今あるマッチングアプリが一部の恋愛強者の狩場になっていて、モテる男はどんどん女性と出会っていい思いをする反面、誰ともマッチングされない非モテ男たちは、報われない課金をひたすら続けるということになる。

何より、こういうのが出てくれば、当然、「AIで素敵な相手を紹介してもらうためのプロフィールの書き方」とか、そっち方面で詐欺商法をやり出す輩もたくさん出てくる。そして、そういうのに引っかかるのも相当いるだろう。

そもそも論ここでも何度も書いていますが、未婚男女の人口差は300万人もの男余りなのであって、(ありえないことだが)未婚女性が全員結婚しても300万人の未婚男性は余ります。物理的に無理なんです。

と、さんざんネガ意見を書きましたが、真面目な話、こういう形でAIを活用するのはアリだとは思います。しかし、それは、自分に好意を抱く相手を提示してあげるとか言うのは語弊がある。せいぜい、自分と同類(考え方・趣味・性格)を提示してあげる程度だろう。

ただ、それでも意味はあって、少なくとも同類であれば、話をするここと等で好意は醸成される。正確に言えば、好意があると錯覚する。

2018年に、1000組の夫婦のビッグファイブ診断(性格診断)をしたことがあったが、夫婦の性格は非常に似ています。似た者同士が結婚するのか、結婚すると性格が似るのか、という点もありますが、基本的に人間は同類とつるむわけです。

結婚したいけどできない人の理由に「出会いがない」というのがありますが、そういう人達にこういうシステムで、「あなたと同類がここにいます」と提示してあげることで助かる人もいるだろう。

もうひとつのメリットとしては、婚活女子が結婚できない最大の理由「相手の年収」を除外することがデフォルトならば、逆説的に、婚活女性も救われるのではないかと思う。彼女たちが結婚できないのは、ひとえに相手の年収という呪いの問題だから。

これも何度も書いているが、人口は300万人の男余りなのに、婚活市場では逆に女余りになってしまうという事実がある。それは、たった3割しかいない年収400万円以上の未婚男に、7割以上の婚活女子が殺到するからだ。そもそも年収400万未満の相手には目もくれないから、男の未婚人口が多くてもそれは透明化されて、いないも同然。結局、運よく相手を見つけられた3割の女子以外は、いつまでたっても「結婚相手がいない、いない」と女子会で愚痴るだけのことになる。

ちなみに、実際に20代-30代で結婚している男の年収のボリュームゾーンは300万円台であり、「男の年収にこだわりすぎる女は結婚できない」というのは断言してもいいと思う。

ツイッターなどでは、「AIのマッチングなんいいらないから金よこせ。金がないから結婚できないんだ」という意見もあるようだが、間違いなく「金をもらえば結婚できると考える男は金をもらっても100%結婚できない」よ。仮に今全員の未婚男に年間100万円が支給されたとして、年収400万の男が多少増えたとしよう。そうなれば、結婚希望相手の条件が全体的に100万円上がるだけであって、何も変わらない。

所詮「金がないから結婚できない」は、心の安定の言い訳として使われているのものなんでしょう。


日経のこちらの記事でも「経団連がオンライン婚活アプリを推奨している」という話を記事にしている。

ここでは、婚活にしても医療の診断、はては学校の授業など、なんでもかんでもオンラインで済ませられるというのは違うんじゃないの?という話なのだが、それはそう思う。

特に、恋愛感情とは何によって生まれるか?という根本の話をすると、理屈ではないわけです。

「キン」ですよ、「キン」!

「金」ではなく「菌」。

恋愛とは、会話なりで互いの持っている菌やウイルスを無意識に交換しあうことで「この人ならやっていける」と確認しあうことが恋愛だと僕は定義している。キスもセックスもその発展形。

つまりは、直接対面して菌とウイルスの交換なしに人は恋愛なんてできない。生理的に無理というのは、まさに少し吸い込んだ相手の菌に、自分の身体が猛烈に拒否反応をしているということです。

「どんなにイケメンでも体臭が嫌いだと付き合えない」というのは女子には鉄板の法則です。

明治から昭和まで皆婚社会を実現した「伝統的なお見合い」も必ず、対面して話をした上で決定した。写真だけで決まったという話はあまりない。話の内容なんかは実はどうでもよく、会話して自分の菌とウイルスを相手に感染させてどうなるか?っていうのを判断するのが「お見合い」だったのだろうと思うわけです。

1980年代、世の若者たちは金がなくても、無理してでもローンを組み、中古でもいいから自分のクルマを買った。クルマがあるとモテるというより、クルマがないと相手にされないという時代でもあった。

しかし、これもよく考えると、クルマでのデートに誘い、1時間でも2時間でも目的地に行く間狭い車内で二人きりになる。これはもう互いの菌とウイルスの混ざり合う空間に二人はいるわけで、本人たちより先に、いわば互いの菌と菌同士のセックスをしているようなものだ。「会話がないからつまらない」のではなく、それは「菌の交換がないからつまらない」のです。モテる男は大抵おしゃべりだ。多分、クルマを持つ意味というのはそういうところにあったのではないだろうか?

互いの菌の交換なしのマッチングなんてありえないし、うまくいくはずがない。恋愛に限らず、仕事の上司部下も友達関係もみんなそうだと思う。

長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。