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未来への事前投資をせずにラッキーパンチで新規事業は生まれない

コロナによって急変したオフィス家具需要

2020年度は、多くの業界にとって急進的な変化が求められた。最も注目を集めたのは、飲食店や宿泊業、エンターテイメント業界といった余暇や娯楽を提供する業界だろう。現在も、緊急事態宣言下で多くの企業や事業主が対応に追われている。

そのような中、同様に苦戦しているのがオフィス家具だ。在宅勤務によって、例年通りであれば、老朽化した設備の定期的な買い替え需要のあったオフィス家具の買い控えが起こった。また、これを機にオフィススペースを削減し、オフィスのフリーアドレス化を進める企業が増えたことで需要の減少が見込まれた。

大手オフィス家具メーカーであるオカムラの中村雅行社長も、就任以来、はじめての赤字決算を覚悟するほどであった。しかし、2020年度の決算では、赤字どころか過去最高益を更新する事態となる。それは、「ライトサイジング」と銘打たれた新たなオフィス・スタイルの提案がけん引することになった。

 例えば、個人単位でのテレビ会議が行いやすいように電話ボックスのような会議ブース「テレキューブ」が飛ぶように売れた。また、一人用ワークスペースの「ドレープ」も飛沫感染対策として注文が殺到した。

コロナによる変化は未来の前倒し

このような商品群は、コロナの感染拡大に伴って需要が増大した。それでは、コロナの問題が起きなければ、このような需要は生まれなかったのだろうか。おそらくはそうではないだろう。コロナが起きなければ、これほど急進的に変化が起こることはなかっただろうが、このようなオフィス家具の変化は近い将来起きていたと予想される。

オフィス家具における変化の予兆は、コロナ以前から確認ができた。フリーアドレスによる組織の活性化は、2008年にはサッポロ飲料が導入し、新しいオフィスの在り方の模索をしている。同様に、2011年には日本ヒューレットパッカードが組織活性化の手段としてフリーアドレスを用いている(同社は、フリーアドレスの制度自体は2001年から導入している)。

フリーアドレスによる組織活性化のためには、最適なオフィスの在り方を一から構築する必要が出てくる。そのためのオフィス家具やオフィスデザインは、従来の延長線上とは異なるものだ。

このような変化に対して、オカムラはコロナ前から準備し、商品開発のための投資を行ってきた。これらの事業アイデアは、先に紹介した日経新聞の記事によると、アメリカでの視察がヒントになっているという。たしかに、テレビ会議用個人ブースや一人用ワークスペースは欧米企業では珍しいものではない。

このようなオフィス家具の変化を予測し、投資をしてきたのはオカムラだけではない。コクヨなどの同業他社も新しいオフィスの在り方を予測し、投資をしてきた。

オカムラの最高益がこのタイミングで生まれたのは、ある意味、テレワーク特需といった、狙って出せたものではないという意味でラッキーパンチな性格が含まれるだろう。しかし、そのパンチは将来の市場の変化を予測し、しっかりと投資ができていたからこそ打てたものであり、遅かれ早かれ、クリーンヒットとして成果を出していたものだろう。

このことは、私たちに現在重要な「金の生る木」となる事業にばかり目を向けず、将来の軸となる新規事業を生み出すことに投資を怠ってはならないという教訓を与えてくれる。この教訓は、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの基本となる考え方だ。テレワークのように、遅かれ早かれ来ることがわかっている未来というものは存在する。このような未来を確実につかむための準備を怠らないようにしよう。



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