なぜ適切なフィードバックは人を成長させるのか。大切なのは、本人の納得感を引き出すこと。
皆さん、こんにちは。今回は「フィードバック」について書かせていただきます。
引用した記事には、従業員から見て社員の士気が高い会社のランキングの発表がありましたが、上位の企業には以下のような特徴があるようです。
1つ目は、フィードバック文化があり、成長できる環境があること。
2つ目は、権限委譲を進めていて、経営にスピード感があること。
3つ目は、明確な評価基準があり、企業文化を確立していること。
今回は、その中でも、
とある通り、フィードバックによって得られるメリットは何か、どのようにフィードバック文化を構築していけば良いのかについて考えていきます。
■なぜフィードバックは人を成長させるのか
そもそもフィードバックとは、フィードバックを行う相手(主に部下)の業務における成果や行動に対して(主に上司が)評価を行い、改善すべき点を伝える行動のことですが、これは個人や企業の成長に必要不可欠なものです。
フィードバックを受けることで、
仕事に生かし、パフォーマンスを向上させられる
日々の業務や仕事の進め方、成果に関する洞察を深め、改善する機会へとつなげられる
客観的な視点でのフィードバックによって、自己認識を向上させられる
新しいスキル習得や、適切なアクションを取るきっかけとなる
成長意欲や達成感、仕事に対するモチベーションを向上させられる
継続的な能力開発につながる
自分が尊重されているという実感を得やすい
フィードバックをくれた人に対して、コミュニケーションや信頼関係の基盤を築き、関係の質を向上させられる
というような効果が期待できます。
ところが、フィードバックの重要性を認識しつつも、お互いのことは干渉し合わない、改善点を見つけても何も指摘し合わない組織も存在します。さらに、フィードバックの仕組みを取り入れようと取り組んだ結果、定着しない組織もあれば、そもそも全く導入の必要性を見出せない組織も残念ながらゼロではないのです。それは、主に以下のような理由からです。
●フィードバックをする側の労力がかかる
→フィードバックをいざしようと思ったら、相手の仕事における成果やプロセス、行動、周囲の評価など、ある程度網羅的にフィードバックをするだけの材料を収集しなければなりません。その手間を省いて適切なフィードバックをすることはできず、中途半端な材料だけで評価してしまうと、相手に「全く自分の仕事を見てくれていない、理解されていない」と思われ、逆効果になります。
●フィードバックをする側とされる側の時間の確保が必要になる
→実際に1対1で定期的に対面でフィードバックをしようとすると、それなりの時間の確保が必要です。お互い事前準備もある程度必要だとすると、目の前の業務に追われている中で、フィードバックのための時間の確保が後回しになってしまうケースも少なくありません。
●フィードバックをすること、されることの心理的なハードルがある
→特に今の時代は、良かれと思った指摘が、相手にハラスメントだと受け取られてしまうかもしれないとヒヤヒヤする経験は誰にでもあることかもしれません。ハラスメントだと言われるリスクがあるくらいなら、そもそもフィードバックをしない方がラクだと考える人も多いはずです。また、フィードバックされる側も、自分ができていないポイントをわざわざ指摘されたくないと逃げ腰になってしまうこともあります。
●得られたフィードバックを受け入れ、実際の行動に移すことにも負荷がかかる
→フィードバックをもらうところまで行き着いても、それを自分なりに解釈し、改善のためのアクションにつなげていくにも負荷がかかります。フィードバックを正しく受け止められずに、間違った方向に頑張ってしまうとその軌道修正にも時間も労力もかかってしまいます。
少し話が逸れますが、私自身も、直近で第三者(経営人材育成の専門会社)からフィードバックを受ける機会がありました。当社のようにフィードバック文化がもともとある会社であっても、年齢や経験を重ねるとその頻度は自ら働きかけない限りどうしても少なくなっていきます。フィードバックを受ける側ではなく、する側にまわることの方が自然と多くなっていくからです。
会社の直属の上司ではない立場の方から、適性診断や個別のインタビュー、社内メンバーの360度評価などを経て浮かび上がってきた内容は、私自身も大いに新たな発見があるものでした。
一番良かった点は、「何(特定の役割を担うために必要なスキルや能力)に基準を置いた場合にそのレベルの能力や経験が足りていないのか」「どのような経験がネクストレベルに行くために必要なのか」という、あらかじめ理想とするレベルやゴールの定義を行い、そこからのギャップを明確化していくフィードバックであった点です。
単に、よく社内での会話でありがちな「あなたはこうだよね」「周囲からこういう声があるよ」「今半期はこうだったね」という話ではなく、「この役割を担うためにはこれらの能力が必要であって、その中でもこのレベルにいかないと求めるラインに達しない」というようなフィードバックは、受けた側の納得感を存分に引き出し、翌日からの行動の変化に確実につながるものとなりました。
このように、適切なフィードバックは個人の成長やスキルアップ、モチベーション向上につながり、ひいては組織の成長や事業目標の達成にも寄与していきます。市場環境の変化や雇用の流動化、個人の価値観の多様化など、あらゆることが急速に進む中、継続的なフィードバックはますます重要なものになっていくでしょう。
フィードバックが組織に定着し、習慣化されると、定期的にフィードバックを受けることが当たり前の状態になり、その分、社員の成長機会や能力開発の機会が増えていくことは間違いありません。
■良いフィードバックと悪いフィードバック
前述した通り、良いフィードバックとは、指摘をした相手の納得度が高く、すぐにでも行動につながるようなフィードバックではないかと思います。フィードバックをしても、相手が全て受け流してしまうなど、何の変化もないようなものなら、有効なフィードバックではなかったということです。
具体的に、良いフィードバックとは、以下のような特徴があるのではないかと思います。
フィードバックの目的を明確にしてから伝える(改善を求める“指導”なのか、現時点の“評価”なのかなど)
ネガティブフィードバックばかりではなく、良い点や強みをしっかり伝える
個人の成長や学習の機会につながるような、建設的、かつ具体的な改善案を伝える
フィードバックによって“正解”を提示するのではなく、目的を達成するまでに必要な“情報”を提供する
できるだけリアルタイムに適切なタイミングで伝える
できるだけ定期的に、高頻度でフィードバックを実施する
もともと定めている目標や基準に基づいたフィードバックをする
いきなりフィードバックをするのでなく、特定の問題に対する相手の目的や意図、認識を確認してから開始する
遠回しな言い方や抽象的な表現で伝えるのではなく、できるだけ率直にストレートに伝える
相手がフィードバックを受け入れやすいように双方向のコミュニケーションを意識する
実現可能なフィードバックをする
相手の価値観を理解した上でフィードバックをする
最後の「相手の価値観を理解する」という点は非常に重要で、相手が仕事をする上で何を最も重視しているのかを知ることが大前提必要です。「自分やチームの成功を大事にしている」のか、「昇給や昇給、表彰など目に見える形での評価を追求している」のか、「意思決定に関わることや大きな役割を担うことが大事だと捉えている」のか。
相手がどのような価値観を持ち、何がその人の根源的な原動力なのかを理解した上でフィードバックをすることが、より行動に繋がりやすい効果的なフィードバックと言えます。
逆に、悪いフィードバックとは、以下のようなものです。
本質的ではない、場当たり的な指摘をする
相手への敬意や思いやりが足りない発言をする
人格否定をする
ネガティブな側面ばかり見る
高圧的で相手を思い通りに動かそうとする
相手の主体性を奪ったり、委縮してしまいそうな伝え方をする
客観性に欠ける指摘ばかりする
相手がどのように改善すべきか理解しにくい伝え方をする
フィードバックの本来の目的や意図が分からないまま伝える
フィードバックの重要性は言うまでもないのですが、なんとなく闇雲に行っていても、期待通りの効果は得られず、やり方次第では、目的に反して逆効果にもなりかねません。フィードバックを行った後に、実際の行動にしっかり反映されているのか、変化を定点的にチェックすることが大事です。
また、フィードバック文化を根付かせるためには、主に上司がくれたフィードバックを受け取る側の姿勢も重要です。
受け手が意識すべきポイントとしては、
意見を言ってくれたことに対しての感謝の気持ちを持つ(意見を言う側も、一定の勇気が必要)
フィードバックが自分を高めるものであると認識する
自己認識がない指摘の場合は、複数の人から意見を聞いてみる
何を変え、何を変えないか、自分なりの軸を明確にする
第三者からのフィードバックの前後に、自己フィードバックの機会を取り入れる
などではないかと思います。他者からのアドバイスや指摘を受け入れない、聞き入れたくないといった人が組織の中のマジョリティになってしまうと、それだけで組織の成長は鈍化していきます。周囲からの助言に耳を傾け、成長の糧にできる集団を作っていくことが、そのままその組織の文化醸成につながっていきます。
■フィードバック文化を醸成・定着させるためのポイント
日本人は特に、“空気を読むこと”や、言わなくても“察すること”が得意と言われています。ですが、それは時として、ただ直接的なコミュニケーションを取ることから逃げたり、ネガティブな指摘をして相手から嫌われることを回避していることにもなってしまいます。フィードバックを避けることは、結果的に相手の課題や改善点をそのまま放置して、より成長するチャンスを奪ってしまうことになるのです。
日々の業務の中で、部下に対してフィードバックをするかしないかは、その上司に依存してしまっているのが実態です。いざ会社全体で「フィードバックを徹底しよう」と呼びかけても、またはルールで縛っても、いずれ形骸化していってしまうことはよくある話です。
それでは、フィードバックすることを文化として定着させていくためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。
一言で言うならば、経営層や幹部層も定期的にフィードバックを受け、フィードバックを受けること自体に意味があり、有効であると実感することが大事ではないかと思います。そこから、組織全体にスケールさせていくというステップが必要であり、さらに、いかに一つ一つのフィードバックが表面的ではなく、一歩踏み込んだ“本音”のフィードバックができる雰囲気にするかが重要です。
そのためには、「本音で率直な対話は、個人の成長につながる」という理解と、それができるための「組織の中での信頼関係をしっかり構築しておく」ことの重要性が、明確に組織の中で認識されていなければなりません。
まとめると、
STEP1:フィードバックの重要性や有効性を経営層や幹部層がまず理解する
STEP2:社員一人ひとりに真剣に向き合い、本気で育成しようという組織の雰囲気を作る
STEP3:厳しいことや改善点など、お互いに率直に指摘し合える関係性を作る
STEP4:定期的に組織課題や個人の課題に向き合い、フィードバックをする(または受ける)機会を作る
STEP5:指摘されたことに対して、自ら改善に向けたアクションを考え、実行する習慣(そしてそれを振り返る習慣)を作る
このようなステップがあるからこそ率直な対話が生きるのであって、信頼関係がない中でダメな点やできていない点ばかりを指摘する組織風土は、社員のやる気を削ぎ、個人の成果や業績、組織力の向上そのものが期待できなくなってしまうことは明白です。
組織的に、上司部下同士、社員同士でコミュニケーションの量と質を高めるための投資をすることも欠かせません。夜の飲み会などだけでなく、業務や定期面談を通じてオフィシャルな場で日常的に信頼関係を築けるようなコミュニケーションがとれているかどうかが大事です。その上で、厳しいフィードバックや耳の痛くなるような指摘も、相手にとって「もっと頑張ろう」と思えるようにポジティブに受け取ってもらうことが重要なのです。そうなると、「この人は良いことも厳しいことも、自分のことを想ってしっかり伝えてくれる」と、また一段と信頼関係が深まっていくのではないでしょうか。
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