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誰が、物語を紡いでいくのか

会社に向かう朝の道で、イヤホンから聞こえてきた音楽は「Who Lives, Who Dies, Who Tell Your Story」という曲。

10ドル札にも描かれているアメリカ建国の父の1人、アレクサンダー・ハミルトンの生涯を描いた「Hamilton」というブロードウェイで上演されているミュージカルの最後に歌われる1曲です。アメリカ合衆国の初代財務長官であり、独立戦争ではジョージ・ワシントンの右腕として活躍し、ニューヨーク・ポスト紙やバンク・オブ・ニューヨークを創業したなど様々な偉業を成し遂げたはずのハミルトンは、他の建国の父と比べてあまりその功績を語られることがなかったそうです。彼の妻、イライザがハミルトンが決闘で命を落とした後、彼の物語を紡いでいくということが歌われた一曲です。

何度も聞いたことがあるこの曲なのにふと頭を過ぎったのがこの前行ったアムステルダムのゴッホ美術館のことでした。

前職のお金のデザインで、THEOというプロダクトのPRを担当していました。THEO(テオ)というのはゴッホの弟の名前なのですが、このサイトにも出てくる「花咲くアーモンドの木の枝」は、ゴッホがテオに子供が生まれたことで生まれてきた子どもの寝室に飾るように、と描いた絵です。

縁あって、子孫のウィレム・ヴァン・ゴッホさんにお会いする機会があったのですが、ぜひいつかアムステルダムのゴッホ美術館に来てくださいね、とお話しいただいたのが会社を辞めても心のどこかに残っていて、やっと先日ヨーロッパ出張の合間に訪問することができたのです。

10年ほどの画家としての生活の中で、フィンセント・ファン・ゴッホが描いた絵は1,600枚ほどと言われています。そして美術館には様々な作品が飾られていますが、実は生前に売れたゴッホの絵はたったの1枚。でも、弟のテオは兄の才能を信じずっと支援をしていて、だからこそフィンセントは活動を続けることができ、様々な絵を書くことができた・・・と言われています。

美術館にはフィンセントがテオに宛てて書いた手紙が展示されています。実はフィンセントの作品よりもそれが見たくて行ったのですが、兄弟の手紙だけではなく改めてテオの妻、ヨハンナについても知る機会に。

弟のテオは、兄のフィンセントが亡くなって1年後に亡くなります。テオの死後、兄弟の手紙をまとめて本を出版したり、フィンセントの回顧展を企画してフィンセントの絵を世の中に出していったのは、実はヨハンナがいたからこそ。

・・・長くなりましたが、「Who Lives, Who Dies, Who Tell Your Story」を聞いて思い出したのが、ハミルトンの妻イライザの話と、このテオの妻ヨハンナの話なのです。

世の中にはハミルトンや、ゴッホの話が溢れています。でも、それは紡いだ人がいるから。素晴らしい功績を残したから、”その人”や”その出来事”、または”その会社”などの話が世の中に残っていくこともあると考えがちです。でも、本当はそうではなくて”誰かが残そうと思った”から残るのではないでしょうか。

今日は3月11日。あの東日本大震災から9年という月日が経ちました。

誰が生きのび、亡くなり、そして誰が後世へと物語を紡いでいくのか。誰かの物語を、誰かが残そうと思うからこそ、その物語は誰かに届くのです。

私がPRとして仕事をし、そしてこのようにコラムを書くのも、また一つの物語の紡ぎ方なのかもしれませんね。

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