実はマイナスだった23年度の実質設備投資
「2025年問題」と「賃上げ」、投資への影響は? 2025年のブレイク予測(6) - 日本経済新聞
① 増加から減少に改定された23年度の実質設備投資
12月9日に2024年7-9月期GDPの二次速報値とともに、23年度の国民経済計算年次推計値も公表された。
これによれば、23年度の経済成長率は速報値の+0.8%から+0.7%に下方修正された。最大の要因は民間在庫変動の寄与度が▲0.2%ポイント下方修正されたことだが、驚くべきことは、好調とされていた民間企業設備投資が速報値では実質で前年比+0.3%であったが、年次推計値では同▲0.1%に下方修正されたことである。
一方で、日銀短観における23年度の設備投資計画を見ると、名目GDPの設備投資に概念が近い「ソフトウェアを含む設備投資額(除く土地投資額)」が全規模合計で前年比+11.2%に着地した一方で、23年度の名目GDPにおける設備投資額で見ても同+3.5%しか伸びていない。こうしたことから、短観の設備投資計画が強いからと言ってGDPの設備投資も強くなるとは限らないことがわかる。
こうした実質設備投資の変化を成長会計に基づいて解釈すれば、23年度のように設備投資額が減少し、有形・無形の固定資産の蓄積が停滞すれば、資本投入量や全要素生産性の低迷を通じて潜在成長率の低下につながることになる。このため、いくら投資財の価格の上昇によって名目の設備投資額が膨張しても、実質の設備投資額が低迷すれば、実質的な生産性の低迷などを通じて実質賃金も上がりにくくなる。経済成長の好循環に繋がらないことによって、長期停滞から抜け出せない可能性がある。
② 24年の経済成長率もマイナス成長の可能性
さらに、2024年以降の実質GDPを見ても、マイナス成長の可能性が高まっている。例えば、2024年7-9月期の経済成長率は2次速報段階で前期比年率+1.2%と、2期連続のプラス成長と楽観的な報道がなされている。しかし水準で見れば、ピークとなった2023年4-6月期からまだ▲0.6%低い水準にとどまっている。
そして、仮に2024年暦年の経済成長率がプラス成長になる条件をはじき出せば、来年2月に公表される24年10-12月期の実質GDPが水準では前年比+1.3%で過去最高を更新し、前期比年率の伸びに至っては+4.4%程度の成長が必要になると試算される。
こうしたことからすれば、既に国際機関が予測しているとおり、24年暦年の日本の実質GDPはマイナス成長になる可能性が高いといえよう。
③ 今年度の実質設備投資は2年連続減少の可能性
以上を踏まえて、これまでの12月短観の設備投資計画と、GDPにおける名目設備投資額の時系列データの関係を基に今年度のGDPにおける設備投資額を予測してみた。すると、23年度実績の名目101.8兆円、実質91.2兆円から24年度は名目102.7兆円と既往最高の91年度に並ぶ水準になる。しかし、実質に至っては89.3兆円と23年度から▲2.1%も減少する計算となる。これが実現すれば、実に2年連続で実質設備投資が減少することになり、今年度の経済成長率のみならず潜在成長率の足も引っ張ることが懸念される。
なお、24年度に設備投資が軟調になっている背景としては、2023年10-12月期をピークに大企業の設備投資が減少トレンドにあることが指摘できる。実際、財務省の法人企業統計季報を基に規模・業種別の設備投資額の推移を見ると、製造業・非製造業とも昨年10-12月期をピークに設備投資額が減少していることがわかる。
④ 更なる国内投資支援や金融政策の慎重な対応が必要
こうした中、諸外国を見ると、国内設備投資の呼び水となるような政府の支援策に積極的となっていることがわかる。例えば中国では、外国企業の投資環境の改善・誘致促進や輸出管理の対象品目拡大、新たな質の生産力の発展加速、超長期国債の発行、製造業の競争力強化等を打ち出している。
米国でも、国内発明・製造政策や対中投資規制、重要産業に関するサプライチェーン調査、対中関税の引き上げ等を打ち出している。さらにEUでも、ドイツで成長機会法や産業政策の方針発表、フランスでEV補助金制度変更、風力発電タービンを供給する中国企業調査等を実施している。
日本でも、経産省における経済産業政策の新機軸の中で、ミッション志向の産業政策が掲げられている。例えば、GX分野として今後10年で150兆円超の官民投資のために、20兆円規模の政府支援を掲げている。またDX分野では、2030年までに国内半導体生産企業の合計売上高15兆円超を目指すとしている。さらにグローバル・経済安全保障分野では、2030年に対内直接投資残高100兆円の早期実現を掲げている。
加えて日本では、為替が円安水準にあることや新興国での人件費高騰、経済安全保障への意識の強まりなどにより、国内回帰を決断しやすい環境にあるにもかかわらず設備投資が低調となっている。こうしたことからすれば、政府がより強力な国内設備投資を誘導するような税制優遇であったり、日銀が国内設備投資の抑制要因になりうる金融政策の正常化に対してより慎重な対応をすること等が必要となってくるのではないだろうか。