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日本にとって最善のコロナ対策は何か?

イギリスでは一日の感染者が18万3千人という、驚くべき数になりました。

これは、昨春のコロナ禍の拡大以後、一日当たりの新規感染者数として過去最大であると同時に、一年前の感染拡大のときと比べても圧倒的に数が多い。とはいえ、下記の記事にあるように必ずしも重症化や死者数増加は抑制的であって、マスク着用以外に政府が強力な対応を準備しているわけではなさそうです。

日本は、オミクロン株の感染拡大の懸念を前に、より強力な措置を導入すべきでしょうか?あるいは、重症化の懸念が小さいことから、ワクチン接種が十分に実施された現在、むしろ経済活動の拡大へ向けて舵を切るべきでしょうか?

「日本にとって最善のコロナ対策はなにか?」

このようなタイトルで書き始めると、あたかも私自身がその「答え」があるように感じる方もおられるかもしれませんが、もちろんそのようなものはありません。ただ、今年の10月から3ヶ月弱、イギリスでの生活をスタートしてから、イギリスと日本とで国民や政府として、何を優先して、何が必要か、その認識が違うことを興味深く観察してきましたので、それについて少し書いてみようと思います。

もちろんこれは、どちらが正しくて、どちらが間違っているという優越を論じる目的でもなければ、イギリスの経験から日本は学ぶべきという教訓を論じる目的でもありません。コロナ禍のとても難しい問題に対して、多くの矛盾する、相対立する利益があることを、考えなければならないという自らの実感に基づくものです。

まず、10月にイギリスに来てから最も驚いたのは、デジタル化が進んでいるということです。途上国の「リープフロッグ」と呼ばれる現象のように、カエルが一気に跳び越えてしまうように、電気通信分野である程度進んでいると思っていた日本が、むしろそれゆえに、新しいデジタル化の波に乗り遅れてしまった。iモードが進んでいたが故に、スマホの導入に遅れた日本。またた、4Gである程度全国レベルでネットワークが広がっていたが故に、5G導入が遅れた日本。技術革新の分野は、インフラがある程度広がる方が、むしろ新しいイノベーションを導入するのが遅れてしまうというパラドクスが存在します。

イギリスでは、ちょっとした食料品店や、ロンドンの地下鉄など、ほとんどが「コンタクトレス」と呼ばれる、電子決済で済んでしまいます。日本ではJR東日本が「Suica」としての電子マネーを普及しましたが、逆にある程度そのような「インフラ」があったことで、「Apply Pay」や「Google Pay」導入が遅れている。イギリスに来てからの3カ月弱で、合計でもおそらく、1万円以上現金を使っていないのではないか。現金を実際に払うのは、おそらく、二週間に一度ぐらいで、あとはすべて電子決済。それゆえ、それまで健康管理の目的でFit bit Senseというスマートウォッチを利用していましたが、イギリスに来てからさらに、Apple Watchを購入して、こちらのApple Watchやウォレット機能を使って、ほとんどの支払いを、このApple Watchで行っています。

これは、イギリスでコロナ禍が深刻に広がったことで、「コンタクトレス」やレジの無人化が進んだみたいです。二度の世界大戦で、イノベーションや社会の変化が加速したように、人間は深刻な困難に直面して初めて、われわれの生活の慣習を根元から変容させる必要性を感じるのかも知れません。言い換えれば、日本では21世紀に入ってから、水際対策などで日本国内で深刻な感染症の脅威にさらされることがこれまでなく、また今回のコロナ禍でも感染者数が主要国の中で例外的に少ないという状況によって、皮肉にもデジタル化が遅れているのかも知れませんね。

それとも少し関連しますが、イギリスでは感染拡大を抑制する必要性よりも、人々の行動の自由を維持する必要性を強く感じているように思えます。これは何よりも、昨年から今年にかけて、二度にわたる強力なロックダウンを経験したことで、国民の間にかなりつよい抵抗が生じているように思います。他方で日本の場合は、緊急事態宣言下で、一定の行動の自由が維持されたままの、いわゆる「ソフトロックダウン」に止まったので、現在でもマスク着用やソーシャル・ディスタンスなどの行動変容を持続しているのでしょう。

オミクロン株の感染拡大により少しばかり変化があるとはいえ、少し前までイギリスのパブはマスクを付けない客で溢れかえり、ロンドンの地下鉄もマスク着用率は二割程度の印象です。今年の7月に、ジョンソン首相が「Freedom Day」と宣伝して、完全な規制の解除を宣言してから、イギリス国民は自由を満喫し、規制のない日常生活に慣れてきました。ですので、一日当たりの感染者数が18万人という驚異的な数になっても、多くのイギリス国民はこれ以上の規制やロックダウンには強い抵抗があるようです。

これは言い換えれば、ロックダウンをしても、政府の強制力で営業の停止を求めた場合の補償措置としての財政出動がほとんど不可能となっており、それゆえに財政的理由からもロックダウンがとりにくいという実情もあるようです。少なくとも、ワクチン二回接種に加えて、三回目のブースターワクチンの接種を加速することで、日常生活に制限を加えることなく人々が自由で安全な生活を維持できるよう、政府はギリギリのところで現状維持を続けているのでしょう。もはやイギリスでは、一日当たりの新規感染者数はほとんどニュースにならずに、重症化や死者数の増減に関心が集中しています。

経済活動の再開と、感染拡大の抑制。この二つの、しばしば矛盾する要請に対して、それぞれの国がどのように対応するか。イギリスは経済活動の再開に重心を置いたことで、新規感染者数は爆発的に増えています。他方で日本は、感染拡大抑制に重点を置いたことで、対外的な経済活動や人の移動が滞っています。

何が正しいのか。何をするべきなのか。「ベスト・ミックス」をそれぞれの国が摸索する中で、どの国も一定の経済活動の拡大と、感染拡大の抑制をどうにか維持しようともがいています。日本ははたして、感染拡大の抑制に軸足を置くことで、コロナ対策の成功モデルとなるのか。あるいは、あまりにもそこに軸足を置いたことで、国を閉じて国民に行動変容を課すことで世界経済の成長の中で置き去りにされるのか。引き続きこの難しい問題に対して、政府も国民も、われわれ一人一人も、最適な「解」を探し続ける必要があるのだろうと思います。




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