「ユーロ圏の日本化」を理解するヒント
海外市場を中心として、にわかに「ユーロ圏の日本化(Japanification)」が持て囃されるようになっております。この視点に関しては5年前、私が拙著「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(14年7月、東洋経済新報社)でかなり深めに議論させて頂いた経緯があります。全容についてはもちろん本を御一読頂ければ嬉しいのですが、まずはその要旨だけでも今回の寄稿で掴んで頂ければということで以下に寄稿をさせて頂きました:
注目の「ユーロ圏の日本化」を元祖が徹底解説~ISバランスなどマクロ経済の構造が重要~
https://toyokeizai.net/articles/-/272229
1つ言えることは、 一部の報道で取り沙汰されているような、単に「ドイツ10年金利がゼロに近い」だとか、「債券市場の変動が小さい」だとかという現象は日本化でも何でもなく、ただの「場況」に過ぎないということです。それだけであれば先進諸国で大体にして起きていることであり、さして特別な話ではありません。問題は動学的な資源配分の要と言える貯蓄・投資(IS)バランスにおいてユーロ圏が日本に特有であった構図へ変容し始めているという事実であり、それは具体的には「民間部門が貯蓄過剰で定着する」という事態です。とりわけドイツについては日本でも経験したことのない「政府部門までもを含めた国内経済部門が全て貯蓄過剰」という異形の経済に変貌していることが見逃せません。こうした「異形」な傾向はユーロ圏全体でも実は進行しています。ユーロ圏は日本化と同時にドイツ化しているのです。
そのほか近年のECBがやたらと通貨高に敏感になっていることやその背景で膨大な経常黒字の蓄積が慢性化していることもどこかで見た風景です。ドイツ単体に目をやれば、「世界最大の対外債権国」という日本が四半世紀維持してきた地位を脅かす雰囲気があります。この点についてもBloombergで私を取り上げていただきました:
日本は世界最大の債権国から陥落間近、ドイツが猛追-そのとき円は?
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-03-22/PONESA6TTDS201
EUやユーロが現行制度を維持すると仮定すれば、ドイツが日本を越える対外債権国家となる可能性は必然的に予想されるものでしょう。もちろん、紆余曲折を経て、そう簡単な話ではないとも思いますが。とはいえ、徐々にしかし確実に、ドイツ率いるユーロ圏が日本的な特徴を帯びてきていることは見逃せないと私は思っています。その懸念は5年前に本を出した時よりも強くなっているというのが正直なところです。