ブランディングネイティブ世代のブランディング戦略
広がりつつあるブランディングという言葉の幅
ブランディングというワードが、一般的になり急に幅広く使われるようになった昨今。最近では「デザイン」や「編集」に続き、「ブランディング」は一般的に広く使われる言葉になってきた感じがします。マーケティングの専門用語として限定的な意味の「ブランディング」と、多くの人が使う何にでも取ってつけられる「ブランディング」。同じ言葉を使っていても、両者具体的に指すものが異なっていることが多く、わかっていないと混乱が起きます。
私は、作る人が魅せて売るためのWebサービス KATALOKooo を運営していて、日々たくさんのブランドや作家さんと関わっています。私ごとではありますがはっきり言って、「ブランディング」という行為が好きです。大切な、尊いブランド・作家さんのことが届けるべき人たちに伝わるにはどうしたらいいのかを考えるのが、本当に好きなのです。自社ブランドとお客様のことを毎日毎日考えて、勝手にブランディングに漬かっていた会社員時代を経て現在は、ブランディングや新規ブランド立ち上げのサポート、ブランドリニューアル時のコンサルテーションなどのお仕事をいただくことも増え、冒頭のブランディングという言葉がマーケ用語の意味から進化して一般的になりつつあると実感しています。
ブランディングネイティブ世代
ブランディングという概念が広がり始めたのは1980年代。私は1981年東京生まれで、銀行員の父が「これからの時代はマーケティングだ!」と口うるさく言っていたのが忘れもしない小学3年生・8歳だったので(お陰でなんとなく今でもマーケティングというワード苦手)ちょうど記憶ともマッチしています。
その頃といえば、テレビではジャニーズ事務所のタレント(少年隊や光GENJI)がアイドルとして活躍しはじめ、東京ディズニーランドは行くたびに行列で何度でも行きたい夢の国として確立され、伊勢丹新宿はいつ行っても賑わい活気といいものに溢れたまるで宝箱のような百貨店だったとき。
あのときのジャニーズにジャニーズ帝国は永遠に栄えると思わされたし、ディズニーランドという夢の国の世界観がより高まっていくと期待しかしなかったし、伊勢丹が文化をつくっていくと信じさせられた。ブランディングの力で、完全に思わされたのです。
この圧倒的にブランディングされた存在により、私の脳に刷り込まれたのは、「すべてのものはブランディングされている=ブランディングされていないものなんてない」でした。8歳の私には3/3社=100%。近所の八百屋は、ブランディングでランニングと腹巻をしていると思っているやばい小学生だったんです…私。
その当時は、ブランディングされていないものがまだまだあった。ブランディングされていないものが多くあり、されているブランド…例えばハイブランドだけがブランドとして識別される時代。にも関わらず、突如圧倒的ブランディング強者というイナズマに打たれた私は、30年先駆けて「すべてのもはブランディングされている」と勘違いしたというわけです。
今現在は、見渡す限りブランディングされているものばかり。ということは、物心ついたときからブランディングされているものに囲まれて育った人たちはブランディングネイティブ。私と同じ、すべてのものはブランディングされていて当たり前と捉える方が多数派でしょう。
ブランディングが当たり前になった今どうあるべきか
ブランディングとは何かというと、ハイブランドや、広告に大きな予算をかけられる企業の事例の印象が強いからか、ブランディング=「かっこよく見せること」だとふんわり勘違いしている一般の方も多いのが現実です。しかし、本質的には「かっこよく見せること」がブランディングではありません。例えば「かっこいい」の他にも、「ちょうどいい」「親しみやすい」など、色々な方向に矢印の向けたブランディングがありますよね。昔、誰もブランディングしていなかった時代には、「一番かっこいい」という点で他との差異を伝えるためにブランディングされたものが多かったため、勘違いを生んでいるのかもしれません。
ブランディングがもたらすものは、競合との差別化です。その差別化で、適切なターゲットに認識してもらえるかが最重要。ブランディングが当たり前になった今、どうすればそれが叶うのでしょうか?「意味はないけどなんとなくかっこいい」は競合内で無数にあり、どうしても埋もれてしまいます。
ブランドが生きて何百倍のパワーを得るブランディングもあれば、ブランドが滅びるブランディングもある。オファーを受ける中で、ブランディングネイティブとしてこんなブランディングだとブランドは滅びる(ろ)と感じたポイントは、5点あると思っています。
×プロダクト自体が良くない
商品開発に特にこだわりなくプロダクトアウトした後、ブランディングの金払うから業界1位よろしくというような、文字通りの横行…。これが少なくありません泣。そういったブランディングを進めているプロダクト・ブランドは近々滅びると思います。ブランディングで表面だけきれいにしても、検索すればある程度のことがわかる時代である今、もう消費者は誤魔化しきれません。
プロダクトが良いという大前提で高得点を出していれば、ありのまま素直に表現する正直者ブランディングが成功する確率も高い。なんなら戦略ではない天然のブランディングが響くことも多いのも最近の流れです。
×背伸びし過ぎる
レタッチ詐欺をはじめ、こんなに良くはないよね?という盛りすぎブランディングもよく見かけます。これは前述の、「かっこよく見せること」に重きを置きすぎた結果だと思うのですが、等身大・安心感があることをきちんと表現した方が共感を得て、実は間違いなくたくさんの方に届きます。
よい事例:
「コーヒーとショートケーキ、おいしい」というコピーを打ち出せるドトールコーヒーはすごい。しっかり話題になってました。これぞ競合との差別化。
×真似・コピー
明らかな真似・コピーは論外ですが、悪気なく展開されていて心配になるのが「○○風」ブランディング。例えば、「北欧風」「アンティーク調」などのことです。経営者の方に話が通りやすくプレゼンが通りやすいのでしょうが、○○風が増えても本質的に幸せにできる人いないのでは…と残念に思います。様々な事例を研究し参考にすることはあれど、ブランディングするのであれば、オリジナルであることにはこだわって欲しいと強く思います。
プロダクト自体が良くない=うそ、背伸びが過ぎる=おおげさ、真似・コピー=まぎらわしい。そうです、日本広告審査機構通称JAROってなんじゃろのあれと同じくだめラインナップ。これらに関しては、これ以降の時代では、バレる、炎上する、ダサいと思われる。いいことなし。100歩譲って短期的なマーケティング施策であればいいかもしれませんが、ブランディング的にはマイナスです。
×ストーリーが虚像
プロダクトが良くない場合と若干かぶりますが、語られているストーリーが実態から語られていないブランディングもつらいです。こういうのが流行ってる、こういうの好きでしょ?という態度は消費者にいつか伝わります。長く信頼関係を築くには物語りが下手でも良いので、実態あるタネから物語りが広がっていくことが何より大事です。
よい事例:
IKEUCHI ORGANICの企業指針は「赤ちゃんが食べられるタオルをつくる」初めてこれを見たとき、本当に秀逸だなと思いました。実現できるの?これを本気で言っちゃうんだ!それなら共に歩みたい…とぞっこんになってしまいますよね。
×独りよがり
よく、ブランディング的にそれはやりたくない…という意見が出ます。これは重要なことでもありますが、独りよがりの場合は誰も得していない、と感じることが多いです。ブランディングは、「こうありたい」だけから発生するものではないのです。届けたい人に届いていなければそれはブランディング失敗。ブランドとしてこうありたいを突き詰め、行きすぎて独りよがりになるのはブランディングとは言えません。こうありたい、より届けたいと思っている人の心に刺さっているかが重要です。顧客を見ながら、さらにはできれば業界や社会への影響も考えたいものです。
…の逆をちゃんとやる、が然るべきユーザーに届く時代
このように並べるとげんなりしてきますが、母数が増えれば、このような質の悪いものが増えてくるのは世の常。こういったものだらけだからと諦めずに、粛々と取り組んでいきましょう。
まとめると、ブランディングネイティブ世代のブランディングとは、
◯プロダクトがいいこと
◯表現がリアルであること
◯オリジナリティを感じられること
◯ストーリーの実態があること
◯届けたい人の心に刺さるよう頑張ること
であればいいのです。ブランディングが当たり前になった今、とにかく大声を出して目立てるかにこだわるのでなく、個性・独自性を適切に表現することが最重要で、その上で1人でも多くのターゲットに伝わることの方が意味があるといえると思います。単に「目立つ」だけではなく、こういったことにこだわって絞り出したブランディング施策だけが、ハイレベルかつ誠実な情報発信が求められているこの時代。一点突破する方法は、そこに愛があるのかがキーになるでしょう。それが、ブランディングネイティブ世代のブランディング戦略。
以上、ブランディングに関して最近感じる雰囲気をまとめてみました。私は少なくとも、こういう感覚で常にそういう目で見られていると思って取り組んでいます。ブランドをしている方、ブランディング担当者、共感してくれる方はどれだけいるでしょうか?直感的にこういうの好きだ!という経営者の方、これからはきっとこういう時代だと思うのです。一緒に頑張って行きましょう…!