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森会長発言を5つの論点で整理してみえてくる森会長の遺すレガシー〜無意識に利得を得てきた日本人男性は沈黙してはいけない〜

はじめに

森発言は1週間経過後、沈静化する様子はなく余波を呼んでいる。

その理由は、森会長の存在と発言が、今の転換期の日本社会の論点を多く含んでいるからだ。

以前、カルロス・ゴーン逮捕のケースについて、5つの様々な対立軸があると整理したことがある。

この時も、カルロス・ゴーンは、会社とは、国家とは、法とは、正義とは、という複数の論点が交差する場にいた象徴だった。

今回のケースも、複数の論点が複雑に交錯する。

本来、冷静な議論をするためにこの問題が含む5つの論点を分析整理した。詳細は下記のNewsWeekに書いた記事を読んでほしい。

すなわち、これまでの長く続いた昭和の論理である、①男性優位、②長老支配、③內部(身内)の論理優先、④理念よりも義理人情、という4つの論点と、⑤当事者か評論者かという立場の違いの論点、それぞれの論点が複雑に絡み、そのそれぞれの論点の象徴として「森喜朗」が存在する。

一人の人間でも5つの論点ごとの立ち位置は微妙に異なり意見表明は複雑な様相をみせ、さらにコメントの一部がSNSで切り取られ炎上し、報道により皆疲弊し、オリンピックの機運は冷めていく。

二階幹事長

ここで今一度各方面の方のコメントをこの5つの論点に沿って整理してみる。

本人含めて誰もが発言の不適切性は認めてるので、ここでいう「男性/女性」はより強い言葉で非難しているか(右)、不適切失言程度か(左)。「內部/外部」は組織委員会のインナーかアウトサイダーか、だ。(位置はあくまで個人の主観に基づくイメージ)

まずは男性陣。

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森会長と一体、完全一致。

「撤回を既にしたことだし、問題はない」「周囲の期待に応えて、しっかりやっていただきたいと心から念願する」

舛添要一氏

舛添氏は、野党の女性議員の抗議のスーツにも失笑を禁じえないと、マッチョな対応。

「失笑を禁じえない。国会は言論の府であって、パフォーマンスの府ではない。五輪の利権の構造などをきちんと調査して、森会長が辞任できない背景に議論で迫ったらどうか。白い服を着るだけなら国会議員でなくても出来る。これでは政権はとれない」

当事者ではもはやないが、当時都知事になれたのも森会長のおかげなので、元都知事として內部の立場、気配りの達人と義理人情も評価の典型的な森会長応援の立場。といいつつ、「利権の構造」など、オリンピックの闇について口を滑らせている。

「一緒に仕事をした私は、評価すべき点も言う。今回、森氏の功績を語らない五輪関係者に絶句」
「都知事に就任した私は、巨額の競技施設建設費に仰天した。そこで、各地の既存施設を活用して経費削減を図る方針を決め、組織委の森会長に他県知事や反対する各競技のNFを説得してもらった。おかげで、私の在任中に建設費4584億円を2567億円に削減できた。その点では、都民は森氏に感謝せねばならない」(筆者注:NF競技団体)

ご本人も不祥事の弁解の記者会見が益々炎上し退陣に追い込まれたためか、発言も「失言」として同情的。典型的な女性の敵の立ち位置。

「気配りの達人だからこそ失言も多くなる」

室伏長官

一方、室伏長官は「女性の味方」と発言し、スポーツ界の目指す理念も忠実に即座に発信している。

我々はすべての女性の味方であり、今後も女性が輝くことのできる環境づくりに、また、感動していただけるスポーツ界を目指し、真摯に取り組んでゆく所存です」
「我々は日本のスポーツ界における古き悪しき習慣を根絶するために、また、これまで中央競技団体の不祥事が相次いだことから、具体的なプランとして『スポーツ団体ガバナンスコード』を策定し、女性理事40%以上、外部理事25%以上、在任期間制限原則10年等を定め、率先してその達成に向けた方策を講じることを強く求めてきました」

但し、先日まで組織委員会の理事であり、內部の当事者だ。失言には触れない。

経団連中西会長

経団連の中西会長は、日本社会にはマイノリティ配慮に課題があると課題認識を示したが、「課題認識の表明」が「事実の容認」と捉えられ一部で炎上している。

「長い間、男は男、女は女で育てられてきましたし、それ以外のいろんな意味でのダイバーシティー(多様性)に対する配慮ってのは、まだまだ日本は課題があるんだろうなっていうのは思っていますが、それが、ぱっと出るか出ないか、そんな意味で申し上げました」

但し、長老の1人として、森会長については

「コメントは差し控えたいなと思います」

という立場。

では女性のキーマンたち。

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橋本オリンピック担当大臣

「森会長の発言は、あってはならない」「コロナ対策を万全に講じて準備していこうという時だったから、衝撃だ」

と女性の立場から強く非難している。一方で、森会長に対して、

「全精力を挙げていかなければいけない。それに努力を」

と内閣を代表して伝えたとして、担当大臣として続投容認の立場

「公益財団(組織委)が今後、どのように結論を出していくかだ」

人事権は国にはないとして、判断は組織委員会の自助作用に任せると放棄している。

小池都知事

「オリパラを安全安心に進めるのが私のミッションであり、組織委員会のミッションだとすれば、大きな事態に直面している」

私自身も絶句したし、あってはならない発言だと思っている」

とコメントした一方で

「IOCは非常に大きな組織で交渉が必要で、森会長はこれまでの交渉を重ねてきた累積もある」

と義理人情交渉力での功績を、当初は当事者として評価もしていた。

但し、発言から1週間経った今日午前中、国内外の批判が高まる中、4者協議に出席しないと一気に揺さぶりをかける。

今はポジティブな発信にならないと思うので私は出席することはない」

明後日12日に開かれる組織委員会の臨時会合の懇談会において進退に関する判断を出さないままの4者協議など、国内外の世論が持たないという判断に舵を切ったか。

大江キャスター

蓮舫・辻元議員等の野党の女性議員は当然、全ての意味でアンチ森会長だが、大江キャスターの異例のコメントが話題になっている。

「多くの人が“またか”とスルーしそうになるんですけど、社会全体が“あーあ”と思ってスルーしたり傍観したりした結果が、今につながっている感じがする。傍観しているだけだと、容認するのと同じ結果を生むということが今回分かったと思うんです。重要な役職に就いている人がエラーを起こした場合は、その組織がちゃんと処分を下す。それができていないのが日本だと、今回分かった気がします」

男性は沈黙せず発信すべき(傍観は容認)

ジェンダー問題については、多くの男性は発言を避けているように感じる。

問題を深堀りせずに、一過性の炎上ニュースとして消費し、個人の資質の問題に矮小化して社会的に抹殺していっちょ上がり。

「森さんの発言ひどいね。」
「辞めるんじゃない。」

多くの男性としては、これくらいにとどめておくのが無難だ。経団連中西会長のように、更に何か言うと誤解され批判される可能性があるからだ。

そして社会は、何も変わらない。

日経COMEMOのKOL篠田さんが、この問題について「ジェンダー課題は、広範で、複雑で、重い」と書いている。

社会的責任をその分より多く負ったという自負があっとしても日本社会において男性が女性よりも有利な立場にあったことは事実だ。

女性の比率は上場企業の社長は41社で1%、東京大学の学部生女性比率19%、国会議員は衆議院10%、参議院20%だ。海外から見て異様だ。

この篠田さんの言葉に勇気を得て、これを機に男性は自分なりに、この広範で、複雑で、重いジェンダー問題を掘り下げて考え、自分の意見を表明してみよう。

森会長の発言は、民間企業やグローバル組織の常識では当然、出処進退相当だ。ただ、この問題は最早、個人の出処進退の枠を超え始めたと思う。大江キャスターが声を上げたように「社会全体が(特に男性が)はスルーしてはいけない」ところまで来た。「傍観は容認」だ。結局、中西会長のように、日本ってそういうところあるよね、で留まってしまう。

「森喜朗は老害だ、辞めて当然だ」ではなく

「森さんは人柄は良い人だ、功績もある、時々おちゃめなことを言ってしまうけど、いざというときは必要だ。」

そういう存在だと一旦認めて、それでも今、自分に身近にいる、さらには、男性は自分自身の中に潜む「森喜朗」を切らないといけないのだ。

良い人で実績があって必要とされている人を、新しい時代の大切な価値観に基づきあえて切る。日本男性が何がしか内面化させている「昭和男」の「根切り」を今、行わないといけないのだ。

森会長は「昭和男」の負の側面を全て発現させて見せつけて、たった数行の冗談交じりの発言のために、人生最後の大仕事の千秋楽直前に舞台を去る。そして、日本の多くの「昭和男」に時代の変化について認識させ覚醒させる。

個人的には、納得せずに不本意に退任して頂くよりも、心から認識を改めた上で謝罪会見をし、生まれ変わった姿で続投し露出し続けるのも、それが社会が認識を改める契機になるのであれば、それでも良いとも思う。

要するに森会長の首を取ることが目的ではいけないのだ。これを機に社会が多様性(ダイバーシティ)と包摂(インクルージョン)を持った社会に変わっていけるか否か、が問題なのだ。

もしこれをきっかけに日本社会が(特に男性が)大きく覚醒し、日本社会がダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に本当の意味で近づけば、それこそが(篠田さんの言うように)森会長が後世日本に遺す東京2020大会最大のレガシーなのかもしれない。




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