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私が“さん”と“くん”の使い分けを25年間していない理由

【日経COMEMOのお題企画「 #心に残る上司の言葉 」をテーマに執筆しています】

新卒研修の一場面が、今なお鮮明に脳裏に焼き付いています。同期10名ほどとともに参加したこの研修では、外資系企業で長年マーケティング業務に従事してきた上司が講師を務めていました。研修全体の雰囲気は穏やかで、私たち受講者も適度な緊張感を持ちながらも、その言葉に耳を傾けていました。しかし、特定の話題に移る際、上司の語調が一転し、場に新たな緊張感が漂いました。

議題は「“さん”と“くん”の呼称の使い分け」に関するものでした。

“さんくん交代はやめておいたほうがよい。”

その一言は、上司の深い経験に裏打ちされた洞察を垣間見せるものでした。能力主義が支配する外資系企業では、部下が上司となるケースが頻繁に生じます。そのような状況下で、昨日まで“川崎くん”と呼んでいた人物を、今日から急に“川崎さん”と呼び直すのは不自然であり、時に信頼を損なう要因にもなり得るという指摘でした。

上司はさらに次のように述べました。

“フェアであるということは、他者を尊重し、公平な基準で判断するだけでなく、自分自身の価値観や行動にも一貫性が求められる。これは信頼を築く基盤であり、そのためには日々意識的に努力を重ねることが不可欠だ。”

その言葉は私の内面に深く響きました。上司の真剣なトーンと語る内容の重みが、私自身の働き方への意識を一変させた瞬間でもありました。この言葉が、彼自身がアップオアアウトの厳しい競争環境を生き抜く中で得た知見であることを理解したとき、言葉の背後にある経験の重さをより深く感じました。

その日以来、私は社会人生活25年以上にわたり、すべての同僚や部下を“さん”付けで呼ぶことを徹底しています。この慣習は、外資系企業での勤務時代だけでなく、スタートアップにおける多様な挑戦の中でも、人間関係の構築において大いに役立ちました。それは単なる形式ではなく、相手への敬意とフェアネスを体現する行為であると確信しています。

新卒研修の日に上司が語ったこの教えは、一時的なアドバイスにとどまらず、私のキャリア全体を通じた行動規範として根付いています。その言葉がなければ、多様な環境で信頼を得ながら働くことは困難だったでしょう。

上司の教えは、単純に“フェアであれ”というメッセージを超え、それを持続的に実践する覚悟と準備の重要性を私に教えてくれました。この洞察は職場の範囲を超え、私の人生全体において価値ある指針となっています。

#心に残る上司の言葉


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