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「働き方」ではなく「生き方」を考える時代へ ~ ライフシフト✕(r>g)=出世しなくてもよい豊かな人生、というキャリアパスの誕生

2022年も終わろうとしている。新型コロナウイルスによる様々な社会的行動の制約が元に戻ろうとしつつある中で、改めてこの約3年の変化を各自が感じるタイミングになっているのではないだろうか。

3年前と同じ状況が戻ってきたという人もいるだろうし、3年を経て行動の自由は元に戻りつつあるけれどまったく違った生活を送っている人もいるのではないかと思う。

自分なりにこのコロナの3年を経て変わったのは何だろうと考えてみると、3年前までは「働き方」がイシューであったものが、今は「生き方」にフォーカスが移っているのではないか、というのが個人的な感想だ。

なぜ「働き方」が問題になっていたかというと、ひとつは、無理な働き方をすることによって心身を病んでしまう人が多く生まれたこと。もう一つは、そもそも働くことの目的は生活の糧を得る、端的に言えば報酬(給料)をもらうことで、それが次第に上がっていくことが期待されてきたにも関わらず、ここしばらくは一生懸命働いても給料が上がらないという現実に直面したり、といったことが根本的な問題にあったのではないかと思う。残業規制の強化や「ワーク・ライフバランス」といった言葉がもてはやされたりといった現象が起きていたのがコロナ前の状況だった。

それが約3年間のコロナによる大きな社会的制約の下で働くことによって一変した。ひとつは、オンライン・ミーティングが多くの人にとって当たり前になったことがあるだろう。必ずしも自分と合わない人と顔をあわせたりデスクを並べて働かなくても、必要な時だけオンライン・ミーティングをし、終了したら退出ボタンを押すだけ。会議前後に無理に雑談をしたり気の進まない会食をする必要もないことが当たり前になった結果、無理をして心身を病んでまで働かなくてもすむ方法がある、ということに気がついた人も多かったのではないだろうか。また、働くことに伴う通勤や出張といった移動がオンライン会議にとって代わられることによって、移動の負担が減ったことで楽になった人もいるだろう。

もちろん、顔合わせないことのデメリットがないわけではない。しかし、何でも顔を合わせなければいけないというものでもない、ということが、対面を重視してきた日本のビジネス界においても、このコロナの3年間を経て大きな意識の変化が起きたことは間違いがないだろう。

また、給料はいつまでも上がらないが、うまく節約して資金を投資し、資産運用すれば経済的独立を果たせるし、場合によっては早くリタイアすることもでき、FIREと言われる生き方ができるということも、ここ数年で若い人を中心に広く認知されるようになった。これはピケティが指摘した 「r(資本収益率)>g(経済成長率)」ということ、つまりは資産運用をした方が働くよりお金の増え方が大きいということについて、本の中の理論的な話ではなく、実際にそれを体現する人が出てきたということだ。多くの人にとって難しくリアリティのないピケティの本の内容としてではなく、具体的にFIREという人生の送り方、つまりは r>g が多くの人にとって(さらには r>g など知らない人にも)実感として見えたのだと思う。ピケティはrを引き下げることを提唱したが、実際には期待しにくいそれを待つよりも、gの方に乗ってしまえばよい、というのがFIREを実現するための方策であり、r>g 問題への現実的な対処法である。

これはつまり、お金を稼ぐために働くということの人生における相対的な重要性が低下したのがはっきりしたのがこの3年間だった、とも言えるかもしれない。

無理をして働かなくても、上手に r>g の法則を活かしていけば必ずしも給料が増えなくても豊かな人生を送ることができる。そして働くことの本質を、稼ぐことにフォーカスしてごまかすことなく追求することができると気がついた、ということでもある。

それは「ライフシフト」が提示した生き方そのもの、あるいは書かれていることのさらに少し先を行くスタイルかもしれない。

つまり、食べていくために働くことの重要性は薄れ始めており、報酬(給料)の額を増やすために無理をすることの必然性ないしは必要性が薄れているということになる。拡充されることが決まった新NISAのような制度は、こうした動きを加速させるものとなるかもしれない。

むしろ大切なことは、自分の人生にとって働くことにどんな意味があるのか、働いてお金をもらうということは価値交換の手段として大切ではあるがそれが最終目的ではなく、働くこと自体の意義や満足ということに改めて焦点が移り始めているのではないだろうか

そうした動きを示す断片としてFIREムーブメントがあり、特に一定以上の年齢の世代がFIREの考え方に対してネガティブな反応したのは、こうした従来のキャリアに対する考え方が変化していることを敏感に感じ取り、自分たちの足元のキャリアの前提が揺らぎ始めている、ということを直感的に理解したからなのかもしれない。

もちろん FIREの考え方も万全ではなく、長く続いた超低金利と無視できるほどの弱いインフレというここ十数年の世界的な経済状況を前提としたものであるため、急激にインフレ率が高まりまた金利も上昇してきている昨今の世界的な状況では、そのまま通用するものではなくなるかもしれない。現に「FIRE卒業」といったキーワードが今年の後半には語られた。

しかし、金利やインフレの問題を置くとしても r>g の法則が変わらないのであれば、FIREというライフスタイルはひとつの「生き方」として引き続き有効なのではないだろうか。もてるお金を上手に運用し、仕事の稼ぎとともに資産運用で稼いだお金で生活をしていくこと。できるだけ生活コストを安くするために、リモートワークやオンライン・ミーティングを活用して家賃が高い都心に住まなくてもよくすること。自分にとって本当に必要なものだけを所有し、そうでないものについてはメルカリなどで流通させること。

こうした環境のもとでは、従来型の「働き方」について考える重要性は低下し「生き方」に改めてフォーカスが当たるのではないだろうか。「ワーク」
と「ライフ」はバランスさせるものではなく、「生き方(ライフ)」のサブセットとして「働き方(ワーク)」があり、ワークの中でも働きがいといったものに人々の関心が移ってきていることが見え始めたのが2022年
、と記憶されることになるのではないだろうか。


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