水野泰孝 Global Healthcare Clinic
発熱外来のリアル
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症やコロナワクチンについては、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
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発熱外来のリアル

水野泰孝 Global Healthcare Clinic

 新型コロナの流行が始まってこれまでで最も高い波の真っただ中で7月が終わります。昨年の今頃は東京五輪開催中で第5波の真っただ中であり、自宅療養中に状態が悪くなり入院される方、学校は夏休みでしたが学童クラブなどでの集団感染など、その時はかなり大変だったと記憶しています。当時は夢にも思いませんでしたが、現在の新規感染者数はその時の約6倍であり、しかもそのほとんどが軽症者であることから入院施設のある病院よりも外来機能が中心の診療所やクリニックの負担は計り知れないものとなっています。私の施設でも第6波まではよほどのことがない限り、高熱がある患者さんをお断りすることはありませんでしたが、今回の大きな波は7月中旬頃から電話の問い合わせが殺到し、午前中のうちに夜までの予約が埋まってしまう毎日です。一方で、これまでの波の特徴(5波は7月中旬から増加して8月中旬にピークアウト、6波は年明けから急増して2月初旬にピークアウト)や諸外国の状況(BA5が先行して流行したポルトガルではすでに収束傾向)などから、あと1週間程度で頭打ちになるのではないかとも推測しています。実際に今月前半までは前週比で2-3倍、いうなればアクセル全開であったのが、今週は(HER-SYS不具合があった日の翌日を除き)前週比でアクセル半開くらいになっているような感じです。ただ実際に陽性と判定されていない潜在的な感染者も相当数と推定され、ワクチン効果も免疫原性ならびに接種者数の伸び悩みなどからそれほど望めないような印象で、6波の時のように急減していくのは難しいかもしれません。いずれにしても、来週の新規感染者数(特に水~金曜)が今週に比べてどの程度増加したのかがひとつのポイントになるのではないかと考えています。

 発熱外来に患者さんの行列ができている様子がメディアなどで放されていますが、私の施設は医師は私1人で、同時間帯に診ることができる患者さんも1人なのと、住居スペースの1階部分にあるので患者さんに行列を作っていただくことはできません。また院内では空間的ゾーニングを明確にし、予約制にすることで時間的ゾーニングも徹底していますのですいているように見えてしまうかもしれません。実際の診療では通常の発熱患者さんの場合、問診や検査などは5-10分程度で終了しますが、陽性と判明した後の事務的な説明に多くの時間を要します。具体的には、

①療養期間の説明(いつまで隔離が必要でいつから解除されるのか、解除時の対応など)

②どこで療養するかの説明(自宅療養の場合はMy HER-SYSの入力方法などの説明、施設入所の場合は連絡先や施設の紹介)

③同居家族がいる場合の説明(接触者として観察期間と症状が出た場合の対応など)

④ワクチン接種歴の確認(発生届に記入が必要ですが、多くの方が明確な接種日を覚えていません)

⑤重症化リスクのある患者さんへの薬の説明(モルヌピラビルの承諾書をいただくための説明)や療養期間中に解熱薬などを希望される方への処方

 これらの説明だけでどんなに早口でがんばっても10-15分程度を要しますので、途中で質問などがあればさらに時間がかかります。そしてスタッフへの感染を最小限に抑えるために、会計は隔離室で私が行っています。すなわち、発熱患者さんの診療を始めてから終わるまで何も質問などがなければおおよそ20-25分、いろいろ質問があると30分は超えてしまいます。この後に感染症発生届の入力をHER-SYSで行います(この業務は後回しにすることもできます)。そして一息する間もなく次の予約の方が来られますので、部屋を消毒して入っていただきます。ちなみにこの一連の流れは感染症法に基づくため省略することはできません。最近ようやく具体化する兆しがみえてきた感染症法の見直しによってこの煩雑な事務作業が省略されれば発熱外来の負担はかなり軽減すると思われます。

 私のところは渡航外来にも多くの方が来られるので、普通に渡航相談や渡航ワクチン接種も行っていますし、感染症内科として寄生虫症をはじめとした他の感染症専門診療も行っていますが、最近ではあまりにも発熱患者さんが多いので、発熱のないかかりつけ患者さんや渡航ワクチン接種などの方をゾーニングされた別の空間でお待ちいただき、同時間帯に並行で診療を行うようにしてできるだけ多くの発熱患者さんをお受けするようにしています。発熱外来では新型コロナの患者さんだけを診ていると思われている方もおられるかもしれませんが、普通に受診される方も同時並行で診療しているのです。もちろん院内で両者の動線が交差することはありません。

 あまりにも説明することが多いので、その時はすべてを理解できない患者さんもおられます。また慌ただしい対応があまり良くはうつらないこともあるかもしれません。一方で予約枠を確保していながら無断キャンセルされる方(その時間に他に受診を希望される方を診ることもできたかもしれません)、時間通りに来ない方(次に時間通りに来られた方を外でお待ちいただくことになります)によりすべての流れが総崩れになることもあります。しかしながらその背景をご理解いただけないのか「機械的だ」「説明が悪い」「対応が雑だ」など、誹謗中傷を受けることもときにあります。一人でも多くの患者さんを受けるために尽力しているのにもかかわらず本当にやるせなく心が折れます。

 通常であれば月末に切羽詰まって投稿するようなことはあまりなかったのですが、今回ばかりはさすがに切羽詰まってしまいました。しかも心が折れることややるせないことも少なくはなかったので、愚痴っぽくなってしまいましたが、発熱外来のリアルを文字にしてみたところです。失礼しました。

#日経COMEMO #NIKKEI

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水野泰孝 Global Healthcare Clinic
東京慈恵会医科大学大学院修了。タイ王国マヒドン大学熱帯医学部留学、在ベトナム日本大使館医務官、東京医科大学准教授、同大学病院感染制御部長・感染症科長を歴任。専門は熱帯医学、渡航医学、予防接種。日本感染症学会指導医、日本小児科学会指導医、米国熱帯医学会認定医(CTropMed®)。