学生起業初期で陥りやすい5つの落とし穴_前編(1つ目から2つ目の落とし穴)
伴走型は支援する方も学びの毎日
2018年から大学教員として学生と接する中、ありがたいことに多くの学生起業の挑戦に携わる機会をいただいている。学生の挑戦する業種もさまざまで、カフェや飲食店、ECサイト、モノツクリやアート活動、アプリ開発など多岐にわたっている。おおよそ、毎年、教え子の中から2人か3人が新規事業に挑む中で、伴走している教員にとっても多くの学びを得ている。
日経COMEMOのお題募集で「#若手から学んだこと」は、職業柄、ほぼ毎日の体験だが、そのなかでも学生起業の支援をするなかで目にしてきた、起業初期に陥りやすい5つの落とし穴について、前後編で紹介したい。
落とし穴1:自分の事業アイデアに疑心暗鬼になる
学生起業で事業化まで行こうという段階になると、何かしらのビジネスプランコンテストで賞をとったり、産業創造機構や中小企業の経営者から支援を得ることができるなど、事業アイデアに対して第3者からの評価を得ることが多い。当然、賞をとった段階の事業アイデアは、実現までにクリアすべき課題が数多くあり、そこから更に事業を軌道に乗せるにはさらに多くの障害が待っている。しかし、第3者からの評価を得ることができた事業アイデアには価値がある。
いざ起業準備をしようとすると、直面する課題の前に「この事業アイデアはダメなのではないか」という考えで頭の中がいっぱいなり、自信がなくなってくることがある。そうすると、事業アイデアを全部捨てて、ゼロから作り直したいという欲求に駆られる。当然、賞をとるくらい時間と労力をかけて練り上げた事業アイデアと比べて、不安に駆られて急いで作った事業アイデアだと前者の方が品質が高い。
加えて、事業アイデアを捨ててゼロからやり直そうという決断は、それまで一緒に頑張ってきた創業メンバーのモチベーションを著しく減退させる。チームマネジメントの観点からも、やるべきではない。やるとしてもビックマイナーチェンジに留めるべきだ。
このような事業アイデアに対する不安から、これまでやってきたことを棄却してゼロからやり直したくなるという衝動は、プロジェクト・マネジメントでも起きる。世界的なプロジェクト・マネジメントのガイドラインであるPMBOKの第6版でも「作成したプロジェクトのプランは最高のものだと信じて疑わないこと」とある。
起業するのであれば、自分の事業アイデアを疑ってはいけない。不安に駆られた時、立ち返るのは「今作っている商品は、顧客の課題を本当に解決できているのか」であって、上手く行っていないのは事業アイデアに原因があるのではなく製品やサービスの品質だ。そもそも、学生が初めて作った製品やサービスの品質が高いことはほとんどあり得ない。学生起業は何度も試行を繰り返しながら、製品やサービスの品質を高めていくことが前提だ。
落とし穴2:うまく行かない理由を外部に求める
事業を始めた当初、いきなり顧客が押し寄せて、順風満帆なスタートを切ることはほとんどない。これは学生起業に限ったことではなく、多くの起業家が開業当初はまったくの売り上げがあがらないところからスタートする。このとき、お客が来ないことと売り上げがあがらないことから大きな不安に襲われ、非常に重いストレスがのしかかる。
過度な不安とストレスは、人から正常な判断力と活動するためのエネルギーを奪う。そのとき、お客が来なかったり、売上があがらない原因を外部に求め、自分がアクションを起こさない言い訳を作りがちだ。
例えば、知り合いの会社のスペースを間借りしてカフェを始めたとき、普通にカフェを開いただけでは当然、お客は来ない。そこで、お客を集めるために友人・知人を招いてイベントを開いたり、各種SNSで毎日投稿をして宣伝したり、お店のウリになるような新メニューの開発をすれば良いのだが、そういう活動はしない。お客が来ない理由を、立地だったり、普通のオフィスの一角を間借りしているからインテリアが整っていないなどの外部要因に求めて不満を口にしてしまう。お客を呼び込むために活動をするようにアドバイスを他者からもらっても、「お金がないからできない」と今できることで創意工夫することをせずに思考停止してしまう。
こうやって書き出すとありえないような話だが、何人もの学生が繰り返し嵌る失敗パターンだ。教員として接していると、この思考パターンには別の場面で見覚えがある。アルバイトだ。
お客が来なくて暇なカフェでアルバイトが、「立地が悪い」「インテリアが今風じゃない」「商品に魅力がないのにオーナーが商品開発しない」といった愚痴をこぼす場面は少なくない。アルバイトなら、与えられた環境で言われた仕事をするだけなので、売上を伸ばして事業を活性化させるために自ら行動することはない。アルバイトは、受け身の姿勢で仕事をしても、労働時間に応じて時給を貰える。
しかし、経営者で受け身の姿勢は自殺行為だ。お客を呼び込み、満足してもらい、リピーターや他の顧客の紹介に繋げることができないと事業を安定させることができない。そのために、できることは何でもしなくてはならない。
学生だと「働くこと=アルバイト」の頭になっていることがよくある。アルバイトという受け身の価値観を捨てて、チャンスは自分が動いて作るもので誰かが御前立てしてくれるものではないことを理解しなくてはいけない。
前編のまとめ
前編であげた2つは、働く人にとっては至極当然のことだが、当事者になったとたんにできなくなる現象だ。誰だって、課題が多少あるからと事業アイデアをコロコロと変えたり、上手く行かない理由を外部に求めて自分から動かない経営者はダメだとわかる。しかし、多くの学生が同じ罠にはまる。
誰でもわかるやってはいけない現象に陥るのは、不安やストレスに耐え切れず、正常な判断が出来なくなっていることが多い。冷静になって振り返ると、なんでそんなことをしていたのかと、後々になって頭を抱える姿もよく目にする。
そのため、これから起業しようという学生は、起業当初は思うようにいかないことからくる不安とストレスで押しつぶされないように予め自覚することが大切だ。起業当初の自分は不安とストレスで正常ではないことがあることを自覚して、メンバーやメンターからの助言を素直に受け入れよう。時間的な余裕があるのなら、本格的に事業を始める前に、試しに小さく事業を始めて慣らしておくことも有用だ。
後編では、陥りやすい罠の残りの3つについて紹介していく。
→後編に続く