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アニメはやっぱりディスク版!ドイツの新たなフロンティア?

2021年のドイツでは、アニメ『灼眼のシャナ』や『ゼロの使い魔』、『英國戀物語エマ』が話題になりました。え?と思われる方も多いと思います。というのもこれらのアニメ作品は最新作ではなく、一昔前の旧作です。実は旧作アニメのドイツ語版ディスクを制作、販売する新たな企業がドイツでは増えているのです。日本のアニメ産業における海外展開といえば、配信事業が注目されがちですが、どうやら需要の形は配信だけに収まらないようです。今回はそのあたりを掘り下げてみます。

日本のアニメ産業と海外展開に関する日本の報道

2021年にアニメ業界で注目されたニュースのひとつは、ソニーグループのアニメ配信会社「クランチロール」の買収だと思います。アニプレックスなどアニメ制作部門を有する大企業が日本国外のアニメ配信大手を傘下に加えることで、日本での制作から海外への配信までの工程を一手に扱えるようになったメリットは大きいです。

アニメ産業自体もNHKなどの報道によれば、市場規模は「国内」が「海外」を上回り、配信向けのライセンス事業などがけん引しています。

物理メディアの停滞基調は継続している

アニメ産業の業界団体である日本動画協会の報告書『アニメ産業レポート2021』(サマリー版)によると、DVDとブルーレイを足した「アニメビデオパッケージ」の売上高は、2013年の1153億円から減り続け、2020年は466億円にまで減少しました。下げ止まる気配は見られません。

一方のドイツはどうでしょうか?映画産業の業界団体SPIOは、配信などのデジタルコンテンツとDVD/ブルーレイのディスクの物理メディアを合わせた「ホームビデオ」部門の統計を公開しています。これによると、デジタルコンテンツは2016年の5億4500万ユーロから拡大し続け、2020年は20億4400万ユーロでした。DVD/ブルーレイの物理メディアに関しては、2016年には12億2700万ユーロだった売上高は2020年には5億4800万ユーロにまで減少しています。

注意したいのはアニメ販売業界に限った統計ではなく、映画産業全体である点です。

いずれにせよ、物理メディアの減少傾向は、日本もドイツも共通していると言ってよいと思います。

ドイツのアニメ販売業界で何が起きているのか?

冒頭のアニメ作品をもう少し詳しく見ていきましょう。『英國戀物語エマ』(日本での制作年は2005年)のドイツ語版ディスクの制作を発表したのは、「ハードボール・フィルム」という会社です。今年の秋にドイツのアニメ販売市場に参入した新しい会社です。11月には『ガンスリンガー・ガール』(日本:2003年)のドイツ語版制作、販売も発表しました。

『灼眼のシャナ』(日本:2002年)を現在リリース中なのは「イーマニア」(emania)というベルリンの企業です。アニメイベントの運営会社である同社が「emania Anime」という新レーベルを立ち上げ市場に新規参入を果たしました。

2021年12月の今月に『ゼロの使い魔』第2期(日本:2007年)の1巻をリリースしたのは「アニムーン・パブリッシング」というこちらも設立が2016年とまだまだ新興といってもよいアニメ販売会社です。

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(写真は「emania Anime」による『灼眼のシャナ』の宣伝ブース。2021年8月にドイツのデュッセルドルフで開催された大型アニメファンイベント「ドコミ(Dokomi)で筆者撮影)

物理メディアの需要と供給とは?

アニメのDVDやブルーレイのドイツ語版が制作される背景にはどういった事情があるのか考えてみます。

前提になるのはアニメの視聴形態には大雑把に2種類があるという点です。仮に、配信で見るだけで済ませてしまうライトユーザー、ディスク版を購入する熱心なファンであるヘビーユーザーと分けてみましょう。

オンライン配信が普及する以前でも、アニメはTVで見るだけの人が圧倒的に多く、次はレンタルして見るひと、さらにコアな層がディスク版を購入していたと思います。

つまり、オンライン配信だけでは、レンタルして見てた人やさらにコアな層の「需要」は満たしていないわけです。これがディスク版が存在し続ける理由のひとつだと筆者は考えます。

ただし、これだけでは説得力の欠けます。そこで販売会社側である「供給」の事情にも目を向けてみましょう。

大手配信サービスの世界的な普及によりドイツでも新作・旧作のアニメ作品をネットで気軽に見られるようになりました。ファンにとっては歓迎すべきことですが、ドイツ語版を制作してきたドイツの現地企業にとっては厳しい状況も生まれていると考えられるからです。

実は配信大手は同時にディスク版の製作販売事業も手掛けている場合が往々にしてあるからです。例えば冒頭で触れたソニーグループのクランチロールの買収だと、ドイツではソニーグループ傘下のアニプレックスがドイツ企業との合弁による販売会社を展開しています。つまり、作品の配信とディスク版の販売を独占するような体制になっています。これでは、現地の企業は新作のライセンスを購入することは難しいでしょう。

ただし、興味深いのは配信サービスには「配信タイトルの入れ替え」が存在するという点です。配信期間が終了すればその作品は見れなくなります。こういった事情を考慮すると気に入った作品はディスク版で手元に置いておいきたいと思う人も出てくることでしょう。

現地企業にとってディスク版は新たなフロンティアなのか?

こうして考えてみると、ドイツの現地アニメ販売会社というのは意外とまだまだ需要がありそうです。旧作アニメ作品だとTVや配信でも視聴機会が無い場合が多く、そこがディスク版の制作販売という新たなフロンティアになっているのではと筆者は考えています。これはドイツの事情ですが、他の国でも同様のケースはありえると思います。

日本企業が自らアニメを世界に配信する時代になりつつありますが、各国の現地企業も時代の流れに合わせて変化しつつあるようです。今後とも注目したいところです。

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(タイトル画像:ドイツで販売されるアニメのディスク版のスクリーンショットを筆者が合成)

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