「働き方改革」でも緩和されない通勤ラッシュ
首都圏の通勤ラッシュを緩和するために、一部の鉄道会社が早朝に列車を増発運行するという。
来年の五輪開催時に上乗せさせる来訪客対応という意味合いもあるようだけれど、基本的には慢性的な朝の通勤ラッシュをどうにかしたい、ということなのだと理解している。たしかにこれで朝の通勤の混雑は多少なりとも改善されるのかもしれないけれど、気になるのは早朝の列車で出社した人たちの退勤時間だ。
いわゆる「働き方改革」は、そのきっかけとなった超過労働による過労死のこともあってか、「残業抑制」が目玉のようになっている。所定の勤務時間外がいわゆる「残業」に相当するはずだから、正規の出勤時間前に出社することも「残業」になるはずで、こうした早朝の列車に乗って出勤した人がその分早く退社できないと、結局は残業が増えてしまうことにつながる。
もちろん、同じ時間数の残業をするのでも、ゆとりある通勤と早朝の落ち着いた職場環境を考えるなら、早朝に行って定時退勤するほうが退社時間後の残業よりも生産性は高そうだが、何か時代に逆行する印象が否めない。
「働き方改革」で日本が目指さなければならないことは、先進国の中でも指折りに低い労働生産性の改善であって、残業抑制が本質ではないし、ましてや通勤ラッシュ回避のために早く出勤するがその分労働の密度が薄まり、定時退社時間も変わらない、となるなら、生産性は低下することになる。
もちろん、たとえばお店のスタッフが開店時間に間に合わないタイミングで出勤するとなれば問題だが、デスクワークの事務的な仕事の多くは、定時出社・定時退社が必要ではないケースも少なくないはずだ。そしてそうした「定時」が求められるような仕事には、生身の人間ならではのホスピタリティを求められる仕事を別にすれば、AIやロボットが代行してくれる可能性が高いものも多く含まれ、ますます人間は出社退社の時間、もっといえば働く場所すらも、自由に決められる裁量が大きくなっていくのではないだろうか。
そうであるなら、出社や退社の時間はもっとフレキシブルでいいはずだし、あるエリアの企業が意図的に出社や退社の「定時」をずらして設定し、一定の時刻に集中しないようにすることが、個々の働き手の生産性を高めつつ、通勤ラッシュの緩和も図れることにつながらないだろうか。出退勤時刻を一律のものとしない、いわゆるフレックスの制度が未だに十分にひろまっていない気がするのだけれど、それは何か理由があるのだろうか。単に労務管理が面倒になるから、といった理由なのだとしたら、とても残念なことだ。
そして、鉄道と企業の取り組みがリンクしていないことも残念に思う。例えば、このニュースにある早朝の通勤列車を利用した従業員で、月間残業時間数が一定の基準を下回る社員に対して、有給休暇を増やすなり早朝分の残業代を積み増すなり、何らかのベネフィットを設定するのはどうだろう。この管理の手間を省くために、従業員のICカード利用データを鉄道事業者から企業が勤怠管理システムに取り込めるようにはできないだろうか(もちろん、個人情報保護・データプライバシーの観点での対応を取った上で)。
遅延証明書も、首都圏の多くの鉄道会社がwebで発行していて、必要に応じて印刷して会社に提出することが出来るようだけれど、これも鉄道各社と勤務先の勤怠管理システムで遅延データをやり取りできるようになっていて、上記の従業員のICカード利用データと連携させれば済む話で、webのデータを紙に印刷して提出ということを、なんとも滑稽に感じてしまう。
ビッグデータをAIで、といったことも大切なのだが、ここに書いたような原始的なデータ連携の仕組み、そのための各社の勤怠管理システムの標準化、といったことを進めていくこともまた、働き方改革の実効性を高めていくために必要なことであり、そのわりにはあまり議論されていないことのように感じる。
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