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「良質なテレワーク」を定着させられるか


こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

コロナ禍が長期化するなかで、テレワークも浸透し、出張費、接待費の削減といった経費が7兆円減といった記事も出ています。

さて、徐々に定着しつつあるテレワークですが、予定されていたテレワークガイドライン改定の案が、本日の労働政策審議会労働条件分科会で報告されました。



ちなみに、実は、3月4日の雇用環境均等分科会でも案がひっそりと公開されていました。

今回のテレワークガイドライン改定案は、項目だけみても相当多くの事項が追加されており、運用面の工夫についても言及されています。
本日の分科会での議論はまだ不明であるので、修正があるかもしれませんが、今回は、法的観点からポイントとなりそうな点を整理してみます(ガイドラインに対する私見はまた別の機会に書きたいと思います。)。


労働時間の把握・管理方法

まず、実務的な関心が高いと思われる「テレワーク中の労働時間の把握・管理」について見てみましょう。
改定前テレワークガイドラインでは、いわゆる「適正把握ガイドライン」(平成29年月 20日基発0120第3号)に従って把握すべし、とのみ書かれておりました。

改定テレワークガイドラインでは、テレワーク中の労働時間の客観的な記録による把握として、まず労働者がテレワークに使用する情報通信機器の使用時間の記録等により、労働時間を把握すること等が挙げられています。
この点は、適正把握ガイドラインと大きな違いはないでしょう。

大きな違いがあるとすれば、自己申告による把握の位置づけかと思われます。
改定テレワークガイドラインでは、自己申告について、「なお、申告された労働時間が実際の労働時間と異なることをこのような事実(筆者注:メール送信やPCの稼働)により使用者が認識していない場合には、当該申告された労働時間に基づき時間外労働時間の上限規制を遵守し、かつ、同労働時間を基に賃金の支払等を行っていれば足りる。」としています。

これは、簡単にいうと、申告された時間が実際の労働時間と違っても、メール送信やPCの稼働の事実がしらなかった場合には、申告された時間を基準として労働基準法を遵守すればよいということかと考えられます(もっとも、この点は民事上の請求との関係では議論がありそうです。)。


中抜け時間の把握・管理

さて、上記のような把握・管理方法が示されていますが、テレワークに特有の問題として、「中抜け時間をどう把握・管理するか」という問題があります。
この点に関しては、改定テレワークガイドラインは、「中抜け時間については、労働基準法上、使用者は把握することとしても、把握せずに始業及び終業の時刻のみを把握することとしても、いずれでもよい。」としています。
これだけ見ると「どっちでもいいの?」と思われそうですが、「中抜け時間を把握しない場合には、始業及び終業の時刻の間の時間について、休憩時間を除き労働時間として取り扱うこと」とされていることには注意が必要でしょう。
つまり、把握しない場合には、中抜け時間も働いたこととするのであれば(賃金控除等しないのであれば)、中抜け時間をいちいち把握しなくてもよい、としているものと思われます。

事業場外みなし労働時間制の明確化

改定前テレワークガイドラインでは、事業場外みなし労働時間制を活用するための要件を示し、テレワークにおいてもこの制度を活用できることを示していました。
ただ、その記述がわかりにくい(?)せいか、「PCや携帯で通信が可能であると活用できないのでは」という認識がされていました。

改定テレワークガイドラインでは、具体例を少し追加し、通信が繋がっていたり、携帯電話等を持っている場合でも、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができたり、応答、折り返しのタイミングを労働者が判断することができる場合には、事業場外みなし制度を活用できることをより明確にしています。
事業場外みなし労働時間制については、最高裁との関係が問題となりますが、少なくとも、最高裁も「通信機器があってつながっている」というだけで否定しているわけではないということは言えます。

テレワークといわゆる同一労働同一賃金

労働時間の問題の他に重要と思われるのが、テレワーク対象者の点です。
緊急事態宣言下にいて、非正規雇用にはテレワークをさせていないという企業もみられたようですが改定テレワークガイドラインでは、正規雇用か非正正規雇用かといった雇用形態のみによってテレワークの可否に差異を設けることは、いわゆる同一労働同一賃金の観点から不合理であるとしています。

あくまで、業務の性質や遂行能力等の観点から差異を設けていく必要があるということでしょう。


「良質」なテレワークの推進・定着ができるか

改定テレワークガイドラインでは、名称を「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」という名称に変更され「実施の推進」という文言が追加されます。また、冒頭部分でも「良質なテレワークが導入され、定着していくことが期待される。」としています(「良質なテレワーク」、なかなか渋いワードです。)。

この点から、新型コロナウイルス感染症拡大防止のために急速に進んだテレワークを定着させ、かつその質も向上させようというスタンスが強く表れているといえます。

テレワークは、人口減少の中における人材定着・獲得のため今後より重要となってくると考えています。
もともとテレワークの推進は、働き方改革によって推進が図られてきたものですが、今後は「良質なテレワーク」を定着させ、改めて生産性の向上、人材の獲得・流出防止のために機能させていく必要があるでしょう。


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