令和型日本的経営は「基幹人材のキャリアのモデル」をどう設計するかにかかっている
「基幹人材=勤続年数の長さ」を捨てられるか?
伝統的に、日本企業の多くは勤続年数による技能の積み上げを人材の優位性の根拠としてきた。特にこの傾向は製造業に強く、社会人経験のない新規学卒者をじっくりと育てて、社内に蓄積されている暗黙知の継承と改善を行ってきた。この仕組みには、勤続年数の長い従業員の方が優れた技能を有しており、好待遇が保障されているという前提があって初めて機能する。
このような構造は、成果主義の導入、中途採用の増加、早期退職や整理解雇が当たり前になった世の中でも変わることがなかった。そのため、終身雇用は崩壊したと言われながらも優位性を持続し、各社の基幹人材のモデルは「新卒終身雇用」で固定化されていた。
それによって、「主要先進国で転職によって収入が下がる唯一の国」「中途採用になると社内昇進にガラスの天井が設けられる」「産休や育休で勤続年数に断絶が生まれるとキャリアがなくなる女性従業員」という社会課題が生まれており、各社でも認識されてきた。しかし、それでも変わらなかったのは「勤続年数の長い従業員の方が優れた技能を有しており、好待遇が保障されている」という前提を崩すことができなかったためだ。
しかし、長らく見直しが困難とされてきた、この前提もメスが入れられようとしている。川崎重工業は、2021年から年功制の人事評価を全廃すると発表した。事務職や工場勤務者も対象とした、全従業員1万7千人の役割や成果に応じて賃金やポストを決めるという意思決定は大きな意義を持つだろう。
令和型日本型経営は「働き方」が鍵
自社の基幹人材のキャリアとして、どのようなモデルを想定するのか。このことが今の日本企業に求められていることだ。最近、流行のジョブ型や年功制の廃止、新卒一括採用の見直しなどのトピックは、モデルを刷新するうえで生じている枝葉でしかない。
このことは、労使交渉の変化からも見て取れる。
労使交渉では、基本的に賃上げ交渉が最重要事項として考えられてきた。しかし、記事によると、交渉内容に変化が起きているという。川崎重工業では、年功制に守られたベテランに対する若手の不満の声が春季交渉前に制度改正を受諾を後押しした。日立製作所でも、「5年後や10年後の新しい働き方を議論したい」と述べられている。トヨタ自動車では、「仕入れ先などと一緒に競争力をどう高めるか」という業界の変革期でどのように立ち振る舞うべきかについて焦点があてられた。
企業が持続可能な発展を続けるために、新しい働き方が模索されている。ジョブ型雇用や年功制の廃止は、その流れの一部分であるといえよう。令和型日本型経営では、イノベーションを生み出すための最適な働き方を企業ごとにスクラッチビルドできるかにかかっている。
スクラッチビルドするための指針は、労使条件の個別マネジメントやグローバルタレントマネジメントシステム、HRテックなど、既に数多くのキーワードが世の中にあふれている。あとは、キーワードをうまく活用しながら、自社の競争力を増すための基幹人材のキャリアのモデルを創り上げていこう。