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【一時凍結報道】高額療養費制度について、改めて冷静に論点を考えてみる

2月27日、すごいニュースが飛び込んできました。

記事によれば、政府・与党が「高額療養費制度」の負担上限額を引き上げる見直し案について一時「凍結」する最終調整に入ったとのことです。

Yahoo!ニュースに私がコメントした内容を以下、転載します。

ーー
この記事が本当であれば、非常に重要な一歩です。

この問題は単に高額療養費だけの議論にとどまらず、持続的な社会保障を考える上での優先順位や戦略をどうするか、世代間格差、業界団体偏重の現状の政策決定過程、費用対効果評価の必要性など、非常に多くの論点を含むものであり、しっかりとした議論が必要なものです。

今回、その点を拙速に進めようとしたことが最も批判を浴びている点だと感じます。一旦凍結し、当事者を含めた協議体を作って議論をするというのは重要な一歩であると感じます。
その議論の上で適切な値上げが必要となって初めて行われるべきだと私は考えます。

今後を考えるうえで、論点を冷静に整理する

凍結はあくまで凍結であり、ここから議論が始まるということでしかありません。仮に凍結になった場合、何がポイントになるのか?その論点について、25日に日経新聞の柳瀬和央編集委員が、全体像を明快にまとめておられたのでシェアさせてください。

この記事の中で、柳瀬編集委員は、今回の高額療養費の議論で誤解されている点、そして議論すべき点について整理しています。

「負担増」と「細分化」の影響が混同されている

改めて整理すべきは、今回の「負担増」と言われているものの内わけです。
詳しくは記事をご覧いただきたいのですが、個人的にポイントをついていると感じたのが以下の記述です。

このうち「平均的な年収層への影響」としてメディアやネットでよく例示されるのは、70歳未満で年収約370万〜770万円の層。「現行制度では8万円ほどの上限が、最終的に最大で約5万9000円増えて約13万9000円に上がる」といった表現が目立つ。

(中略)

「最大で」という断りがあるので間違いではない。でも正確だとも言いがたい。というのは、例示通りに上限が7割強も上がるのは、実際には約650万〜770万円の年収層だけだからだ。

日本経済新聞Nikkei Views 2025年2月25日

ちょっとわかりにくいので、厚労省資料を参照しつつ、上記のポイントについて解説してみます。
下の図は、収入(標準報酬月額)から見た、制度見直しによってどのくらい負担が増えるかを示したものです。赤紫の枠で囲ったのが、平均的な収入ゾーンとされる、年収約370万円~770万円です。

令和7年1月23日 第192回社会保障審議会医療保険部会資料2より

拡大してみます。青のラインが、現在の負担上限額(月額80,100円)です。そして、赤色になっているのが、見直し案における負担上限です。
黄色で下線している「○○倍」というのは筆者が図に加筆したものです。

令和7年1月23日 第192回社会保障審議会医療保険部会資料2より

これを見てわかる通り、現状より1・73倍になるのは、標準報酬月額が44万円~53万円(年収約650万円~約770万円)の層だけです。他の層である36万円~44万円は1.42倍、28万円~36万円は現状の1.1倍にとどまります。

今回の上限見直し案は、収入に合わせて従来より細かく階段を設けて上限を作ろうとしています。そのため、従来引きあがる基準額のギリギリ手前だった層は、引き上げ額が大きくなります。

支払うほうからすれば理不尽に感じる話ですが、制度を作る厚労省側からすると、「従来は他の収入層より得をしていたケースに、収入に合わせた負担をお願いしている」という見方もできるかもしれません。どちらの立場で見るかで印象は変わります。

この点、ちょっと複雑でわかりにくいのでコミュニケーションのずれが起こりがちなところです。確かに、最大の引き上げ幅のところだけをもって、なぜ最大であるかを説明せず、その収入層のすべてがこの引き上げなのかと誤解されかねない形で伝えているメディアがあったとすれば、より丁寧な説明が必要に思います。

今後の議論に必要な論点は

記事の中で、柳瀬解説委員は、今回の「持続的な医療制度」を探るうえで、今回の議論の問題点と、今後求められる議論の進め方と論点を整理しています。

【今回の議論の問題点】

  • がん患者ら高額医療を受ける人の声を聞き、理解を求めるプロセスを省いた点

  • 前回改定から10年間も高額療養費制度を見直さず、据え置いてきた点

【今後議論すべき点】

  • 所得だけでなく、資産にも応じた負担を求めるべき点。(70歳以上の高齢者に適用する高額療養費制度は現役世代並み所得がある人を除き、負担の上限がかなり軽減されている)

  • 費用対効果が低い医薬品を保険から外すべき点

  • 市販薬に類似品があったりする薬を保険から外す点

  • マイナンバーを活用するなどして医療情報の共有を広げ、検査や投薬の重複をなくす点

  • かかりつけ医の制度化や病床再編によって効率的で機能的な医療体制をつくる点

(個人的には、高齢者の1割2割負担を3割に引き上げるのも検討の余地があると感じます)

今回の「凍結」をきっかけに、前向きな議論がすすむことを祈ります。その総合的なパッケージの中に、適切な高額療養費の値上げも必要だと結論されたとすれば、そこで初めて値上げを実施すべきと考えます。

#日経COMEMO


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