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『すずめの戸締まり』、ドイツの反響とは?(筆者はまだ見てません)

ベルリン国際映画祭「ベルリナーレ」で、新海誠監督の長編アニメ『すずめの戸締まり』が上映されました。日本では最高賞「金熊賞」への期待が高まっていましたが、ドイツではそこまでの熱狂はなかったというのは筆者の印象です。

タイトルにもある通り、筆者は4月の通常上映を映画館で見る予定なのでまだ本作を見ていません。ただ、メディアの動きをチェックして、いくつか気になるところがあったので、ご紹介してみたいと思います。

日経新聞でも、映画祭のもようは複数回取り上げられていて、日本側の注目度の高さがうかがえます。

さて、ドイツの状況ですが、映画祭の開催前の段階では、『すずめの戸締まり』は、多くのノミネート作品のひとつという位置づけで、特に注目されている様子はありませんでした。

注目されているかも!と思ったのは、プレミア上映前に実施された記者会見でしょうか。ベルリナーレの公式アカウントで、その模様が配信されていましたが、会場には多くの記者が詰めかけ、世界各地の記者が質問をしていました。

ベルリナーレおよび配給元のクランチロールが実施した映画祭場外での上映イベントは、前売り券が発売されると、あっという間に売れ始め、最終的には全上映回で完売していました。

上映後のメディアの反響はどうだったのでしょう?

例えば、ベルリン地域の公共放送RBBはラジオ番組で作品を解説していました。非常に丁寧な紹介ですが、後半部分で、およそ、欧州の観客にとっては「キッチュ」で音も大きいと表現しています。

一見、ネガティブな指摘のようにも読めますが、数分おきに音や映像によるサプライズ演出があるようなハリウッド映画とじっくり見るタイプの欧州の映画の違いが念頭にあっての発言だったのかもしれません。もしかしたら、解説した映画評論家は、本作を静かに落ち着いてみる作品だと予想していたのかもしれません。

ベルリンの新聞『ベルリナー・ツァイトゥング』も、絵の派手さや音の大きさに言及していました。加えて、避けては通れないテーマだったのが、2002年にこの映画祭で「金熊賞」を受賞した『千と千尋の神隠し』および宮崎駿監督との比較でした。

この記事では、新海誠監督が宮崎駿監督の才能を引き継いだのかもしれないがと婉曲的な表現ですが、全体として圧倒的な高評価というトーンではありませんでした。

他にも、例えば、TVや映画の紹介サイトのレビューでも、派手な演出によりサプライズ要素はたくさんあって素晴らしかったと指摘しつつも、メランコリックな音楽が流れるシーンではジブリ作品での楽曲担当で有名で久石譲氏の音楽との類似性に言及されています。つまり、先行するジブリ作品との比較から逃れなれない構図が見え隠れします。もっとも、これはドイツの人たちの日本のアニメ知識が圧倒的に不足していることも原因のひとつでしょう。

もちろん、この他にも反響はあります。特に、アニメファンに向けたメディアは、高く評価するものばかりです。筆者としては、それは順当な評価なので、それほど気になりませんでした。

振り返ってみると、ベルリン国際映画祭での『すずめの戸締まり』の上映は、アニメファン向けという領域を超えるかどうかに注目が集まったのでは?と個人的には思いました。本作は世界でも間違いなくヒットし、優秀な興行成績をもたらすでしょう。しかし、それは、アニメファンが拡大した結果に過ぎないのかもしれません。アニメファンの外側にいる「普通の人」をどこまで巻き込めるのか、今後も動向が気になるところです。


最後に余談ですが、クランチロールが実施した上映会には、ドイツのVtuberの一行が招待されていたようです。ドイツのおけるVtuber事情については、今回は触れませんが、Vtuberエージェントが登場し、企業との窓口として機能した結果、こういったPR案件(だと思われる)も実施可能になりつつあるようでした。日本では当たり前の光景かもしれませんが、ドイツではまだまだ事例は限定的です。


タイトル画像:『すずめの戸締まり』を紹介するベルリンのラジオ局のWebサイトのスクリーンショット

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