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地方都市の在り方をアップデートする。イノベーターの人材育成モデル 後編:プログラムを通して、受講生の何が変化したのか?①

昨年5月から今年2月まで全9回を通して、地方創生をけん引するイノベーターを育てるべく、ワークショップを実施してきた。地方創生のイノベーターとは、自分たちの地元の都市がどうあるべきか・どうあって欲しいかという将来のビジョンを持ち、そのビジョンを達成するための具体的なプランを持った人材だ。

それでは、ワークショップの結果として地方創生イノベーターを輩出することができたのかというと、残念ながら難しいと言わざるを得ない。そもそも、何をもって地方創生イノベーターが輩出できたと言えるのか定義の問題もあるし、Off JT型のワークショップには研修効果が限定的だ。一般的には、ワークショップの研究効果は長くても1か月しかない。また、ワークショップの結果として素晴らしい地方活性化のプランが出たとしても、ワークショップ直後にコロナウイルスの問題が出てしまったおかげで、新しいことに挑戦したくてもそれどころではなくなってしまった。

それでは、ワークショップによって受講生の何が変わったのだろうか。筆者の仮説は、自分が変革を推し進める主体だという自己認識、いわゆる当事者意識の醸成にあると考える。それはただの精神論ではないかと思う人もいるかもしれない。しかし、ただの精神論と断じるのは誤りである。自分が変革の当事者だと認知すること、アイデンティティを持つことは、すべてのイノベーションにおいて第1歩となるものであり、十分条件ではないが必要条件であると言える。

このことを後押しする研究は、イノベーションを創出する変革型リーダーシップの研究者として知られるワシントン大学フォスター・スクール・オブ・ビジネスのブルース・アボリオ教授によって示されている。アボリオ教授は、変革型リーダーシップの対となる概念として「リーダーシップの回避(Leadership avoidance)」を挙げている。リーダーシップの回避で、重要な概念は「自分がやらなくても、時間や他人が問題を解決してくれるだろう」という当事者意識のなさだ。まずは変革の当事者としての意識を持つことが、イノベーションを創出する上で重要な事象となる。


ワークショップで人は成長するのか?

それでは、ワークショップで変革の当事者意識を醸成することはできるのだろうか。座学で学ぶだけでは、当然、その効果は限定的だ。リーダーシップの研修機関として有名なロミンガー社が、リーダーシップを上手く発揮するのに役に立った出来事を調査したところ、7割が「リーダーとしての経験」、2割が「薫陶」、1割が「研修」という答えが返ってきた。リーダーシップと変革の当事者意識は全く同じものではないが、イノベーションを志向する自己認知という意味では類似概念だと言えるだろう。この調査結果を踏まえると、ワークショップを設計するときには、この「7-2-1」の比重を参考にして、ワークショップをデザインすべきだと考えられる。

本ワークショップでは、そのために全9回のうち、完全な座学は1回のみとして、残りの8回はライフネット生命創業者の出口治朗氏やYahooアカデミア学長の伊藤羊一氏をはじめとしたイノベーターによる薫陶とアクションラーニングによる疑似体験を中心的なコンテンツとしている。

そして、最終発表会に参加いただいた22名のゲストからは高い評価をいただいている。特に、「発表者から大分を変えようという熱意を感じた」という質問にはゲスト全員が共感し、「この発表されたアイデアは大分を変えることに役立つ(81%)」「発表者と何らかの形で関わっていきたい(96%)」という回答をほぼすべての参加者からいただいている。最終発表で報告された大分を変革するアクションプランを通して、受講生の優れた当事者意識がゲストの心を揺さぶったと言えるだろう。

コレジオゲスト評価

それでは、変革の当事者意識とはどのような状態を言うのだろうか。当事者意識の「ある・なし」は日常生活や職場でも良く使う一般用語だが、その定義をしっかり定める必要がある。定義がなければ研修効果の測定もできず、肝心要な地方創生をけん引する説明変数(物事の原因)として機能するのかも不明だ。

また、当事者意識という言葉は人によって解釈が変わってきやすい。リクルートは、その従業員の特徴の1つとして「圧倒的な当事者意識」というものがあるが、新卒入社の社員には暗黙的に共有されている概念が中途入社の筆者には理解し難く、何をもって「圧倒的」と言っているのかわからずに苦労したことがある。ワークショップの育成目的として「当事者意識」を挙げるのならば、その定義や概念の構造を理解する必要がある。

次節では、「変革の当事者意識」とは何かについて考察していく。

(続く)


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