起業手続きの見直しは評価すべきだが、成功事例から学べているのか
起業が少ない日本
産業の新陳代謝を促し、不確実性の高いビジネス環境で高い競争優位を維持するために、スタートアップをはじめとした起業の機会を増やすことは大切だ。しかし、日本の現状は諸外国と比べて明るいとは言い難い。経産省(2019年)によると、日本の総合起業活動指数(TEA、成人人口100人の中で起業活動をしている人が何人いるか)は、5.4であり、調査対象50か国の中で48位だった。日本より低いのは、パキスタンとイタリアのみである。日本が含まれる、イノベーションを経済活性化の源泉として狙う33か国(イノベーション主導型経済圏)の平均は12.3であり、諸外国と大きく水を開けられている。
起業活動が活発ではない原因は複数あるが、その中の1つとして起業手続きの煩雑さがある。スタートアップを増やすために、起業に対するハードルを下げる試みを各国が行っている。日本でも、起業手続きのDX化などの手続きの緩和を進めてはいるが、実際に法人登記をするとなるとまだまだ工数が多い。
日経新聞の引用記事によると、現在は2週間ほどかかる手続きを3日ほどに短縮する方針だという。起業の手続きを簡素化し、起業のハードルを下げるのが狙いだ。
地道な改善も必要だが、思い切った改革も
手続きを見直し、時代に合わせることには賛成だ。私自身も昨年会社を立ち上げたが、手続きが複雑で、なおかつアナログなコミュニケーションが多く苦労した。しかし、こういった地道な改革が起業の活性化に直接聞いてくるかというと、難しいだろう。そもそも、規制がどうか以前に、起業を志す人材の育成機会が少なく、積極的な動機づけができているかも見えてこない。
というのも、この手の施策は地道で草の根的なものが多く、問題解決の本質にたどり着いていないことが多い。起業を促すために手続きを簡素化することや、起業家の市場を拡大するために外国人の査証を緩和することも大切なことだ。しかし、これらはいわゆる衛生要因と言えるもので、不満や負担は軽減するが、動機づけに聞いてくるとは言い難い。
起業の数を増やすにも、不満を解消するような衛生要因を潰すアプローチではなく、「起業したい」という思いを促す動機付け要因を促すアプローチがより必要だ。
例えば、スタートアップが活発なことで注目を集めるスウェーデンでは「起業のための6か月休暇」という制度がある。会社を設立するために最長6カ月の休暇を取る権利があることを保証するものだ。シリコンバレーでみられる「20%ルール」と似たような効果が期待でき、挑戦したいと思ったときに自分の時間を自由に使うことを後押ししてくれる。
また、規制緩和では手続きをオンライン化し、1回のやり取りで会社設立ができるようにしている国も少なくない。特にニュージーランドは、世界でもっとも起業がしやすい国として知られ、オンライン化のほかにも、外国人起業の受け入れや女性企業の支援も手厚い。特に近年は、医療やAR・VR分野といったハイテク産業が盛んだ。
また、十年ほど前までは日本と同様の課題を抱えていたフランスは、今やスタートアップ大国として知られる。その原動力となったのは、政府が主導した政策公共群「French Tech」と呼ばれる21のプログラムだ。日本のように変えやすいところから徐々に変えるのではなく、変えると決めたら一気に大きく変えることで原動力としてきた。
自己評価では変わったが、相対評価では変わってない日本
ここ数年の日本政府や企業の取り組みとして、よく見られるのが「自分たちはできることを頑張ったが、世界と比べると差が付けられる一方」という現象だ。起業支援にしろ、女性活躍推進にしろ、10数年前と比べると日本社会も大きく変化している。しかし、世界と比べると、世界の変化スピードのほうが早い。
この原因の1つとして、「変えやすいところから、小さく変えよう」というので対症療法的な取り組みが多く、問題を根本から変えるための戦略がないことに起因するように思われる。対症療法の草の根活動を軽んじる気はないが、問題解決のための大きな戦略をなしに、できることだけをやっていたのでは、これからも世界との差が広がる一方だろう。このスタンスを見直さなくてはならない。