一人ひとりの知能を増幅する道具を沢山作る!
高齢者の能力を増幅させるような技術を開発できれば、「まだまだ社会に貢献できる」と生きがいをもって生活してもらえるはずです。これはトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)CEOのギル・プラット氏が日経のインタビューで語った言葉だ。
TRIは、AIやロボットなど先端技術の研究機関だが、このインタビューでのプラット氏の発言は常に人が主語だ。「知能増幅」と独自に定義した「人間の持つすべての能力を増幅させる」という取り組みを進めている。「知能増幅」の道具を増やすことを通じて、より多くのそして多様な人に生きがいを持ってもらいたいと考えているようだ。グループのリーダーである豊田社長は、プラット氏に「『Move』の意味は物理的な動きに限らない。『心を動かす』『感動する』とう意味も含まれる」と話しているという。視野や視座の高さに圧倒される。自動車会社、自動車産業という枠組みなど全く意識していないのだと思う。ウェルビーイングを実現する社会を生み出すための新たな産業構造を作り上げようという迫力すら感じる。
元チェス世界王者のガルリ・カスパロフ氏のインタビュー記事も目に留まった。一つの道を極めて史上最強と呼ばれた名人であると同時に、IBMのスパコンに負けた人物でもある。その後、グーグルの囲碁AI「アルファ碁」などの技術革新も追い続け、人間と機械の付き合い方について発言を続けている。「AI時代にこそ、人知の重要性が増す」と、機械の威力をまぢかで見てきた名人ならではの実感のこもった発言だ。
記事には、元グーグル中国法人トップのコンピューター科学者、今はベンチャー投資家カイフー・リー氏の警鐘とも取れる予測も載っていた。「AIの普及で経済格差はさらに広がり、米国だけで10~20年以内に10~25%程度の職が失われる」という予測だが、大事なのは、この予測が現実とならない世界を、人が知恵を絞って描き、実現していく事なのだと思う。カスパロフ氏の言う「AIを社会の共通善に生かすための知恵と工夫」や「AIの恩恵が様々な人に行き渡るような新しい仕組み」は極めて重要だ。大企業こそ、人々を輝かせるために、こうした世界の実現に真剣に向き合っていく必要があると痛切に感じている。
もちろん、大企業においても、「人間とAIが共存できる環境」を模索する動きもある。AIは、画像や音声データの処理や合成に優れ、休むことなく複雑な処理を行える。故に、あらゆる業界で生産性を劇的に向上できるはずだ。一方で人間は、ロボットとは比較にならない高度なセンサーを持つのに加えて、人の気持ちに寄り添った対話や共生ができる。人間の得意分野をしっかりと見据えて、それ以外をAIに対応させる。こんな役割分担がおそらく理想的なのだろう。
ただ、人間の得意分野は、人によっても様々だ。すべてを包含して体型的に定義するのも難しい。また、今でこそ人間の得意分野である高度なセンサーも技術革新の対象となっている。少しずつセンシング領域での得意分野は少なくなっていくだろう。故に、真の「人間中心のAI」を実現するには、一般論としての「人間」で、得意不得意を議論してもダメな気がする。一人ひとりの得意不得意に寄り添って、それぞれの不得意を補完できる道具が必要なのだと思う。さらに、今やっていること、これまでやってきたことの単なる役割分担の見直しではつまらない。楽はできても、ワクワクもドキドキも生まれないと思う。
一人ひとりが今までやってこなかった、やってこれなかった自らのやってみたいことをやれるようにしていくのはどうだろうか。様々な機能を圧倒的な生産性でやり切るAIやロボットなど、思わず使ってみたくなる道具を目の前に並ベて、やりたいことが思い浮かぶ、これとこれを組み合わせてやってみようと心が動く。こんな世界を実現していくのが良いと思う。AIも然り、技術はなんのために使うかが何より重要だ。一人ひとりの知能を増幅するという大きな目標を打ち立てて、一人ひとりの目が輝き続ける社会を生み出していきたい。
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