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サンリオの「推し活」戦略とは? ー35歳男性の熱狂のピューロランド体験記

「わたしは、ドラえもんも好きだし、プリキュアも好きだけど、今はキティちゃんが一番好きなんだよね」

4歳になり、さまざまなコンテンツに囲まれながら育つ娘がそう言った。ドラえもん、プリキュア、みぃつけた、いないいないばあ、おかあさんといっしょ、カービー、ポケモン、パウパトロール、ペッパピッグなどなど、子どもたちを取り巻くコンテンツは目まぐるしく存在する。

あれもほしいこれもほしいと、ちょっと出かけた先でガシャポンを回したりグッズを買ったりしていると、家の中は有象無象のキャラクターで混沌とした状態になる。

そんな子どもと、週末、子どもが前から行きたいと言っていた「サンリオピューロランド」に行ってみた。

「大きな仕事が一区切りしたし、ちょっとかわいいものにでも触れてみるか」と、軽い気持ちで足を運んだが、結果として、めまいを覚えて帰ってくることになった。

ピューロランドは「推し活」で熱狂する消費と映えと同期の渦だった。

素人が迂闊に来てよかったのか・・・

自宅から約2時間、電車で移動し、午前11時にようやく辿り着いた。ピューロランドに近づくほどに、コスプレをしたファンがちらほらと目立つようになる。入り口から見える館内は、若い女性客でごった返していた。

娘は楽しそうにしていたが、息子は違った。最近ウルトラマンが大好きなこともあり、この「かわいい」を全面に押し出し、女性たちが心を踊らせている空間に驚き、恥ずかしくなってしまったようで、「ウルトラマンに会いたいんだ!」「ちょっと!もうこんなとこやめてよ!」と、顔を真っ赤にして怒っていた。

そのあいだ、娘は母と館内を散策し、キティの耳を手に入れていた。

正直、息子の気持ちもわからなくもない。ぼくも、あまり下調べせずに来たことを入館した直後に後悔した。

ここは、自分自身がかわいいものになり切り、かわいいものの写真をとり、自らかわいいものとして写真に写ることで、自らのかわいいを確かめる空間だ…。かわいいものになる覚悟もなく、準備もなく、さして憧れもない自分のような人間が、迂闊に来てはいけない場所だったのかもしれない…と。

しかし、せっかく来たのだから少しでも楽しんで欲しいと思い、ポップコーンマシンでポップコーンを買い、少しつまんで心を落ち着けた。

「応援」の円環に目眩を覚える

だが、乗り物系のアトラクションはすでに長蛇の列ができている。かといって推しのキャラクターがいるわけでもなく、撮影などを楽しめるかもわからない。漫然とショップなどを散策しながら時間をつぶし、「知恵の木ステージ」で始まった「We Are ピューロ学園★応援Dan・ce部」のパフォーマンスを観た。

子どもは最前列で見られると言うことで、娘はキティの耳をつけて意気揚々と最前列へ。ショーの前に振り付けの練習動画が流れるが、ちょっと4歳には振り付けが難しかったようで、覚えるのを諦めていた。

周りを見渡すと、振り付けをこなれたそぶりで確認するように踊る人たちがたくさんいた。ハンギョドンのパーカーを来た50代と思われる男性と、キティのパーカーを来たそのパートナーと思われる女性が、完璧な振りで踊っているのを見て、昔見た地下アイドルのライブの客席を思い出した。

巨大な望遠レンズを装着した重たそうなカメラを構える女性、スマートホンに一眼レフを同期させて構える女性もいて、ここがまさに「推し活」の場であることを再認識した。

そんななかで、息子は、パートナーの横で恥ずかしそうに佇んでいた。

ショーが始まると、ピンク、緑、オレンジの髪色の女性パフォーマーが勢いよく登場し、ダンスを踊りはじめた。知らなかったのだが、どうやらこのパフォーマーにもファンがしっかりついているようで、さながらアイドルのライブのようだった。そこにキティとポムポムプリンが登場する。動くキティに会いたいと言っていた娘は飛び跳ねて喜んでいた。

「がんばるみんな、がんばる自分を応援する」という内容の歌やダンスが繰り広げられるのだが、客席はキティやパフォーマーを応援している。応援する自分たちが応援される、という「応援」の円環構造で、頭がクラクラした。

その後…

ショーのあと、めあての「kawaii kabuki」を見たいと思っていたのだが、あまりの混雑に席はすぐ満席になってしまい、断念した。

その代わり「レディキティハウス」でキティと写真が取れるというので、娘と2人で25分待ちの列に並び、写真を撮った。

キティとタッチをした娘は感動したようで、「キティちゃんの手、ふわふわだった…。びっくりして、でも、ふわふわだなぁっておもったら優しい気持ちになった…」としんみりと語っていた。

その間、退屈してしまった息子はパートナーと散策していたら、ゲームコーナーにうっかり入ってしまい、1~2分、バスやら飛行機やらのかたちをした機械がウィンウィン動くやつに何度か乗せざるをえなかったそうだ。

「どこにでもあるゲームセンターにわざわざ来た感じがして、よくない経験だった…」と悔しそうにパートナーが語っていた。

帰宅後、パートナーと話しながら「なんか、娘は楽しそうだったけど、あまりにもいろんなものにお金を使う仕組みだったし、人混みだったし、ちょっと疲れたね」と1日を振り返った。

「結局、推し活のための場所で、かわいくなって写真撮ってシェアするみたいなエコシステムのなかにいないと、あの場所では楽しめないんだなと思った。」

「ディズニーランドは、ディズニーが対して好きじゃなくてもアトラクションで楽しめちゃうけど、ピューロランドはそうじゃない。ガチ勢が喜ぶ場作りを徹底してるんだと思う」

などと、感想を語り合ったのであった。

サンリオが取り組む「推し活」の戦略

そんなピューロランドの洗礼を受け、ある意味素人であることをつきつけられた我々だったのだが、はたしてサンリオ側の戦略はどうなのか。

サンリオでは、「推し活」を以下のように語っている。

「お金に加えて時間も費やすファンが、物品購入やライブだけでなく、コミュニティー活動やSNSでの発信も楽しむ消費行動だ」

サンリオ、「推し活」で呼ぶ一人客 共感と共創がカギに(日経産業新聞)

この日経新聞の記事では、サンリオの事業活動がよくわかる。

  • 推し活を楽しむ一人客の呼び込みに向けてうごいている

  • 家族客は全体の3~4割

  • 2020年以後、客単価は10~20%上がっている

  • チェキやペンライトホルダーなど推し活をサポートするグッズ「エンジョイアイドルシリーズ」を展開している

  • 『呪術廻戦』や『JO1』とのコラボでライセンスビジネスも活況

  • ファン投票でデビューするキャラを決める「NEXT KAWAII PROJECT」を展開

  • 学習塾と連携しプログラミング講座などを開講

女性を中心とした「推し活」のビジネスを展開しつつ、コンテンツ横断で集客を増幅し、くわえて教育事業連携で小学生から親しみを覚えられるよう囲い込みを意識しているようだ。

さらには、かつてからダンススクールも開講しており、ショーへの出演を夢見る子どもたちに、現役のパフォーマーが指導する。

大人をメイン市場にし、推し活を促す戦略を基軸にしながらも、子どもの囲い込みにも注力していることがわかる、長期ビジョンに根差した野心的な戦略だ。ピューロランドは、その野心が結実したような、熱狂の空間だった。

わびさびをもとめていたのかもしれない

ぼく個人としては、サンリオのキャラクターのなかでは「ハンギョドン」が好きだ。サンリオのなかで最も妖怪っぽく、ぬめりけがあり、いうならばキモい要素があるのに、めちゃくちゃかわいい。

さびしがり屋のロマンチスト。いつもヒーローになりたがっているけど、なぜかうまくいかない

という設定にも心くすぐられる。

ぼくは、あわよくばこのハンギョドンの隣に座って、寂しい気持ちを聴きながら、ああ、わかるよ。ぼくもヒーローになりたいけどうまくいかないことばっかりだもんな。などとしんみりと会話したりしたい。

そう、サンリオにどこか「侘び寂び」のようなものを求めていたのかもしれない。有象無象のキャラクターが蔓延る世の中で、さびしさや弱さを抱えるキャラクターたちとしんみりと酒でも飲みたい気分なのかもしれない。

だから、わびもさびもなく熱狂するピューロランドの空間にあてられ、めまいをしつつ胸焼けしながら帰ってきたのだろう。少数派だろうが、推し活に熱狂できないが、こっそりとサンリオのキャラクターに親しみがある人が、しんみりこっそり楽しめる、そんな場所があったらいいのに。

とはいえ、どんなものかを少しでも感じられてよかった。

#日経COMEMO #NIKKEI

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