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投資の世界で活躍し続ける個人投資家の特徴〜米証券データ検証から見えたこと〜

 FIREという言葉が、日本でも注目されています。Financial Independence, Retire Earlyの略で、投資により早期リタイアを目指そうというものです。もちろん、幸せになるためのツールとしてお金があるので、目先のお金の奴隷になってしまっては身も蓋もないものの、投資を前向きに行うというのは素敵なことだと思います。そうした前向きな雰囲気も重なってか、下記の記事にあるように成功した個人投資家の方々の情報発信が注目されています。銘柄選定など、とても参考になる情報も多く、なるほどと思うこともしばしばです。ただし、投資において本当に難しい思うのは、ずーーーーーーーーーーーっと利益を出し続けること。一過性の投資成金でなく、負けない投資をし続ける個人投資家の方というのは、本当に尊敬に値します。今回は、負けない投資をし続ける個人投資家は、実際に何%ぐらいの収益を上げ続けているのかを考えていきます。

公開情報で本当に収益は出せるのか?

 そもそも素朴な疑問として、過去の株価データ、世の中の経済・政治ニュース、企業の財務情報などの公開情報を分析することで、株式市場の市場平均以上の収益リターン(≒日経平均、TOPIX、NYダウなどの指数以上の収益リターン。これらの指数が株式市場の動向を捉えているかの議論は必要だが、簡易的に用いる)は得られるのでしょうか。これについては、効率的市場仮説に関する研究で多数行われてきました。過去の株価データのみでは難しいものの、財務情報やニュースなど、後悔情報を用いて収益機会を得ることは十分にチャンスがあることが先行研究でも報告されています。こうした公開情報が活かせるということは、個人投資家にももちろんチャンスが大いにあるということになります。

個人投資家の取引傾向

 個人投資家のリターンの動向を詳細に分析したのが、下記の論文です。ここでは、アメリカの証券会社から提供された、1990 年 1 月から 1996 年 11 月までの 115,856 口座の取引に関するデータセットについて検証を行っています。7年間のデータ分析になりますが、なかなか興味深い結果が報告されています。

Joshua D Coval, David Hirshleifer, Tyler Shumway, 2021, The Review of Asset Pricing Studies, Volume 11, Issue 3, September 2021, Pages 552–579

 

 実際の取引傾向は、下記の表になります。上段が、全サンプルの取引傾向を示しており、下段はこの研究が対象としているサンプル期間中に25回以上取引をした人の取引傾向を示しています。全体では、一回当たりの平均トレード金額は8,599ドルで、25回以上取引をした人達の一回当たりの平均トレード金額は10,301ドルでした。そして、その最大値もなかなかの数字です。この当時から、億単位でトレードを行う個人投資家の方はそれなりにいらっしゃったのですね。

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個人投資家には、リターンを出し続ける人、損失を出し続ける人がいる!?


 上述の論文では、個人投資家として投資成績がいい人たちというのは、一過性のリターンで終わることが多いのか、それとも良い成績を遺し続ける傾向にあるのかを検証しています。

 まず、デイトレーディングに関しては、投資リターン上位10%を獲得していたようなトレーダーは、翌週に1日あたり12~15ベーシス・ポイントの異常なリターンを得る銘柄を購入している傾向にありました。これらの結果は、様々な形のリスク調整、サンプルからのパフォーマンの変動に影響しやすい小型株を除外しても同様の傾向があったようです。一方で、常に損失を出し続けるような取引を行う個人投資家も存在します。全トレーダーの下位10%に分類されるトレーダーは、その後の1週間で1日あたり最大12ベーシスポイントの損失が予想される取引を行う傾向にあったようです。これが示しているのは、デイトレードが下手な投資家が、急にリターンを上げるようなことはなく、リターンを上げる人とそうでない人が、ずっと分かれているような状況が続いていたことを示しています。勝ち続ける投資家は、持続的に市場に勝っているようです。長期投資の場合においては、成功した投資家は失敗した投資家を年間約8%上回る状況が、サンプル期間中は続いていたことが報告されています。長期投資においても、負け続けていた投資家が急に勝ちに転じるということもないようです。

 この論文から得られる教訓は、公開情報を活かして個人投資家も十分にリターンを得られる可能性があること。そして、投資で負け続けていた場合は、自分の戦略が本当に正しいのか、いろんな世の中の情報を鵜吞みにしすぎていないかなど、一度立ち止まる重要性を伝えてくれている気がします。現在、私は日本のデータを用いて検証を行うことを計画しています。また、成果がでたら報告させてください。


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崔真淑(さいますみ)


 

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