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ネットの「空気感」は 多数決をも凌駕するのか

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

いよいよ東京2020 オリンピック・パラリンピックがスタートします。世界的なパンデミックの影響で1年延期したものの、結局無観客での開催ということになりました。様々なメディアで色々な論調が出ていますし、ネット上でも沢山の情報が流れてきます。その中にはいわゆるフェイクニュースも含まれていると考えられ、近年ではこれが実体経済や安全保障を脅かすような事態を招いています。

近年のフェイクニュースは人々の生活に浸透して、経済活動に影響を与え、国の安全保障や民主主義を脅かすような事態も招いている。2016年には、「ヒラリー対トランプ」の米大統領選や英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)などをめぐり、ニセ情報が世界に拡散した。こうしたニセ情報の中には、少なからず他国の介入によるものも含まれていたとされる。

20年の米大統領選では、トランプ前米大統領の支持者が、不正投票があったなど根拠が不明の情報をもとに連邦議会の議事堂を占拠する事件まで起きた。世論や選挙への影響だけでなく、フェイクニュースや極端な主張が拡散するメカニズムやメディアの反応なども、経済学の分析、研究の対象になってきている。

ネット以前よりデマや噂話などが社会的な問題を起こすことはありました。今はネットで世界中がつながっていることから、はるかに広く、速いスピードで拡散していくことが特徴です。また、「人々は目新しい情報を閲覧・拡散する傾向にあり、センセーショナルで目新しさのあるニセ情報の方が、真実よりもはるかに速いスピードで拡散する。」(上記記事より)とのことです。

このような問題はネットのせいと一括にされがちですが、メディア史を専門とする京都大の佐藤卓己教授によると根っこにあるのは人の欲望だということです。

「そもそもSNSは従来のマスメディアと異なる双方向性が特徴といわれる。しかしマスメディアが登場する前も、うわさや流言は受け手が語り手になる相互作用により増殖していた。その意味でSNSは新しいモデルではない」

「フィルターバブルの問題にしても、その構造を問うよりも、人間が情報を集めるために楽をしたいという欲望の問題と捉えるべきだ。いやなことは聞かず、気持ちのいい情報にだけ接したいという思いは普通の人間がみな持っている性向だ」

その上で「人間はあいまいさの前で立ち止まれる存在」であることを強調しています。機械やAIのように瞬時にゼロかイチかを判断せず、一旦はグレーのまま置いておくという知性が我々に求められているのでしょう。

人々が織りなす主張がオピニオンとなり、それはやがて社会のムードをつくり、大きな世論となり時代を動かす力となります。民主主義国家では最終的に「多数決」で意思決定がなされるわけですが、なんでもかんでも国民投票という訳にもいきません。多くの事柄は代議士である国会議員が世論などを参考にしながら舵取りをするでしょう。すると、世論がどう形成されるかは非常に重要となってきます。

「2~3割の人の意見が、全体に優先してしまう」。高知工科大学の全卓樹教授は自らの研究をもとに、多数決とは言いがたい例がある現実をこう明かす。

全教授は、多くの人が周りと意見を交わすうちに世論のような社会のムードができあがるしくみを解明する「世論力学(オピニオンダイナミクス)」理論の第一人者だ。2020年にフランス・国立科学研究センターのセルジュ・ガラム博士と共同で発表した論文は民主主義を強く信じてきた人々に少なからず動揺をもたらした。

デジタル投票など技術の進捗によって「民意を直接届けることができる」時代が近づいています。これまで投票所に行くことが困難だった方々がより簡便に投票できる仕組みができる等、ポジティブな面も多くあります。一方でネット特有のつながりやすさが、一部の意見を多数と感じさせてしまうこともあります。

逆もしかりです。最近気になったものに、世論調査があります。

新聞社の世論調査は、RDD(電話調査のための無作為標本抽出法)と呼ばれる手法を使っています。この中でワクチン接種についての質問があるのですが、以下のような結果でした。

接種状況について尋ねたところ、「すでに接種を受けた」は29%で、前回の12%、5月22日の前々回の3%から大幅に増えた。

調査日が2021年7月17日でまだ同じ日のデータがないのですが、7月16日時点のデータを見ると総人口比で20.8%(2回接種)ですので、世論調査のほうがやや上振れしています。ワクチン接種が先行している65歳以上に絞り込むと、55.7%(2回接種)です。

これを見て思うのは、新聞社の世論調査の結果は今やシニア側に偏っているのかもしれないなということです。

今後デジタル化の波は留まることはないでしょう。その中で私達自身がどのように情報と付き合っていくのか。「あいまいさの前で立ち止まれる存在」である強みを活かして、即断による分断を引き起こさないよう心がけたいと思います。

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タイトル画像提供:Ushico / PIXTA(ピクスタ)

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