コロナ禍をチャンスに変える思考
新型コロナウイルスの感染拡大も1年以上続き、多くの企業がこの環境の急激な変化にどう対応すべきか悩み、苦しみ、試行錯誤を続けている。
国に色々と助けてほしいところだが、それは一企業の思う通りに行くはずもなく、私達ができることは自分達でコントロール可能な部分に経営資源を集中し、この環境に適応すべく私達自身が「変化」していくことだ。変化し、糸口を見つけ、チャンスに変換していきたい。後から振り返った時に、それが自分達にとって大きな好機であったと思えるように。
そんなことを、コロナ禍の影響を大きく受けている業種の一つである鉄道会社の取り組みでも実感した。
鉄道会社は既存事業の大幅な減収が続いているため、新たな需要の開拓が必須であり、それにはコロナ前の常識の打破が必要だと記事はまとめている。
現在、各社が試行錯誤をしながら新しい取り組みを始め、その芽が出始めているという内容に、変化が得意とは言い難い企業イメージのある鉄道会社もこの環境下では変化せざるを得ないのだな、と改めて感じた。
当然世の中のどの企業も変化を試みているのだが、私達の会社も変化すべく試行錯誤中であり、ここに以下2つの事例を紹介してみたい。
1.販売店の新規開拓
今まではスーパーや酒屋など、クラフトビールを販売していただく店舗への積極的な新規開拓はほぼ止めていた。それはこちらから積極的に営業をかけて、ようやくお店に並べてもらっても私達の力不足で長続きせず、店頭から姿を消す(=カットとなる)ことが過去に多かったためである。
私達のビールは大手ビールと比べると認知率は低く価格は高い。加えて、営業スタッフの人数も少ないため継続的な店舗フォローが難しいなど、小さなベンチャー企業特有の問題がカットとなる大きな要因であった。
店舗側にしても、初めて扱うクラフトビールが大手と比べてあまり売れずカットとなった場合は悪いイメージとなり「もう二度と扱わない」ということになってしまう。双方にとってとても残念なことである。
そうした経験により、定着しない新規店舗開拓よりも既存店のフォローに営業資源を集中させ、店舗に合わせた企画提案などを重ねて良い売り場を作っていき、そこで購入する私達のビールのファンを少しずつ増やしていく、というのが現状最適であると考え実行してきた。もちろん先方から販売したいという要望があればそれは別で、こちらの状況をよくよく説明した上でありがたく販売していただいていた。
この考えが変わったのはコロナ禍に突入した昨年の4月頃だ。急に売上が伸びる販売店が相次いだのである。しかも30~40%も増えている。この傾向は全国で共通であった。外食や旅行に行けず「せめて家では少し高くても美味しいビールを飲みたい」というニーズ、すなわち「巣ごもり需要」が誕生したのである。
この傾向を把握した私は
「今、新規店舗開拓を行えば巣ごもり需要でクラフトビールへのニーズは強まっているので「よなよなエール」を中心に各製品は多くの店舗で選ばれるはずだ。しかもオンラインやメールで商談することも今の環境下なら取引先に対し失礼にあたらない。少人数の営業スタッフでも対応可能なはずだ。長年の方針を180度転換する時ではないか。」
と考え、その旨を営業チームに提案した。当然方針が変わることになるため議論も重ねたが、皆が理解してこの方針に賛同してくれた。
新規開拓を始めた結果、販売店は急激に増え、売り上げも予想通り好調。商談もリモートで完結出来て現在の営業体制でもなんとか対応できた。
更には、今まで積極的に新規店舗開拓はしないという方針であったため、営業拠点は地元長野県と東京営業所の2拠点だけであったが、この方針転換の勢いで今年2月に大阪営業所を開設した。東京営業所開設から実に20年以上振りの新拠点である。
大阪営業所にはこの市場のチャンスに是非チャレンジしたいというモチベーションの高い営業スタッフが手を挙げていったこともあり、3カ月経った現在、既に予想以上の成果を生み出し私を含めて社内の皆を大いに興奮させてくれている。
方針転換したことにより、市場の変化をチャンスと見た営業スタッフの心に火をつけることができたのは当初予想していなかったので、本当に嬉しかった。
環境の変化で市場のニーズも変化したことにいち早く気付き、営業方針を転換させた結果、色んな事が非常にうまく行った事例である。
2.ファンイベント
私達のクラフトビールをご愛飲していただいているファンの方との深い交流は、ヤッホーで注目されている活動の1つである。
年に何度かリアルで集うファンイベントを継続的に行ってきたのだが、コロナ状況下でそれもできなくなった。
何もしないという選択肢は無かったので、代替案としてオンラインイベントに切り替えることにした。オンラインでのイベントは知見が乏しく、ファンの期待値に応える満足度を得ることができるのか?といった不安も大きかった。だが実際にオンラインイベントをやってみると、ファンの満足度はリアルイベントには若干届かなかったが非常に高いものであった。
また、ファンの声を聞くと「新たなニーズ」を満たすものであったことにも気が付いた。例えば…
❏遠方に住んでいるファン
移動が伴わないオンラインだからこそ参加できた。
(何と海外からの参加者も!)
❏予定があり全てのコンテンツには参加できないファン
オンラインだからこそ都合がいい時間だけ参加することができた。
❏お子さんをご出産されたばかりのファン
ビールも飲めず、赤ちゃんをイベントに連れて行くことも憚られ諦めていたが、オンラインだからこそビールは飲めないが参加できた。
などなど。これは実際にやってみなければ気付けなかったことだ。
リアルイベントでなければファンに高い満足を感じてもらえない!と考えていたが、実はそうとは言えないということが分かった。昨年5月に初めて行った大型オンラインイベントでは2日間でなんと延べ1万人のファンが集まってくれるという予想以上の結果がでて、大きな可能性を感じたのであった。
その後はスタッフがこのチャンスを広げようと、皆で色んなオンラインのコンテンツやオンラインイベントを次々に開発し、進化させ成果を出してきている。1年前では考えられないことであり、何とも心強いことである。
音声コンテンツ「おうちでよりみちネオ横丁」
4月に数量限定で復刻販売した「僕ビール、君ビール。よりみち」をはじめとして、ヤッホーブルーイング製品の特徴やこだわりをおうちに居ながら知り、楽しむことができる。
ファンと繋がる定期開催イベント「よなよな 月の道楽座」
オンラインイベントを行う中での「ファン同士やスタッフともっと交流
したい」というファンの方からの声から構想。オンラインのペアリング体験会等、クラフトビールの新たな魅力を発見できる学びや、参加者同士やヤッホーブルーイングのスタッフとの交流を楽しめる場。
もちろんリアルでもオンラインでもメリット、デメリットがあるのでどちらが優れているということは言えないが、少なくともオンラインイベントを続けてきた結果、知見も大分たまってきた。
現在ではコロナ収束後も、リアルとオンラインの両輪でファンイベントを行っていきたいと考えている。両者の良さを理解し使い分けていきたい。これはコロナのこの状況にならなければ恐らく気付けなかったことだ。
根本を大切にしながら「変化」する
他にもコロナの情勢のなかで変化して成功した例は沢山出てきている。
これらから言えることは、今までの常識や成功体験は時間の経過や環境の変化により必ずしも「正しい」とはいえなくなっていたということである。
コロナによる環境変化の中でも今までのやり方にこだわっていたら、今回の事例で言うと、新規販売店獲得の大きなチャンスを逃していたことになる。つまりは初めて私達がつくるビールを飲む方や、いつも行くスーパーに私達の製品が初めて並ぶようになったからこそ日常的に飲むようになったファンと出会えるチャンスを逃し続けてしまうということだ。
またリアルのファンイベントにこだわっていたら、オンラインならではの可能性に気付けなかったばかりか、コロナの状況下で多くのファンに楽しく幸せな時間をお届けできないという残念な結果になるところであった。
これらからの学びは、「ファンに幸せをお届けする」という私達の活動の根本的な理念は変えず、そのアプローチは環境に合わせて変化させることはできるというものだ。
ファンのいつも利用している店舗に安定的にビールを扱ってもらう、またファンに喜んでもらえるイベントなどのサービスを提供する、ということは「変えず」、どうやってそれを実現するかという「やり方」は変化していくべきなのだ。
これが出来れば、コロナ禍でもピンチを最小限のダメージに食いとどめるだけでなく、チャンスに変換することができるかもしれない。少なくとも、私達はそれをこの1年間で数多く実践してきた。
ビール業界では大手4社は大きく業績を悪化させ、500社以上あるクラフトビールメーカーの多くも同じような状況。私達の会社も、飲食店向けの樽製品や地元の長野県軽井沢エリア、輸出は大きな打撃を受けた。そうした中でも「変化」することで大きな成長を続けることができているのは業界内で唯一私達だけだと認識している。昨年度も売り上げを大きく伸ばし、今期も直近1Qの業績は、売り上げが前年比140%を超え、利益も過去最高を大きく更新している。
コロナで世の中は大変な状況だ。但しこの状況は「変化」することへの意識付けや新たな知見を得るという点で言うと「絶好の機会」でもある。
コロナ禍を自分達でコントロールできないのであれば、せめてコントロールできる部分である「やり方」を変化させてチャンスに転換させていきたい。
私達もまだまだ過去の成功体験から変化できていないところもある。
日々環境が大きく変わる今だからこそ、過去の成功体験にこだわっている自分達から変化することで「チャンス」を掴めるのかもしれない。
少なくとも私は、そう前向きに捉えて、この困難な時代を切り拓いていきたい。